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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
外伝 ルテティア急行殺人事件
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ルテティア急行車両案内1

「はあ、疲れた」


 ユリアを送り届けた後、発車と共に外の人達に窓から挨拶をしてから、昭弥は自分の部屋に戻った。


「お疲れ様」


 昭弥を迎えたのはティーベだった。


「ほら、あったかいタオル。顔を拭くと気持ちいいよ」


「ありがとう」


 貰ったタオルを受け取って昭弥は顔を拭った。


「用意が良いねティーベは」


「良いのはこの列車だよ。タオルはおろか熱湯まで出るんだからね」


「給湯器だよ。熱湯の循環器を使ったり、あと電気で温めたりしている」


「至れり尽くせりだね」


 現代日本だったら簡単な事で、気にも留めないだろうが、電気もガスも一般的ではないこの世界では、熱湯を得るには火をおこして水を沸かす必要がある。

 だが、昭弥はガス式の給湯器などを発明し装備させることでお湯を提供できるようにした。


「相変わらず凄いよ君は。こんな魔法の塊みたいな列車を作り出すなんて」


 電灯のスイッチを入れたり切ったりしながらティーベは褒めた。

 スイッチ一つで灯りが付いたり消えたりするのもこの世界では魔法以外になかった。

 それが上流階級とは言え一般人にも出来る様になった事が凄いのだ。


「まだまだあるよ。紹介しようか?」


「是非」


 にっこり笑いなからティーベが応えた。


「あの、私も良いでしょうか?」


 同じ部屋にいたオーレリーがおずおずと手を上げてきた。


「勿論だよ」


 昭弥はそう言って、セバスチャンも含めた四人で列車内の探検にむかった。

 最初に向かったのは機関車の運転室。本来なら一般人立ち入り禁止だが、社長権限で入った。


「お疲れ様です社長」


「ようこそ社長」


 機関士と機関助士が、社長達を出迎えた。


「悪いな。仕事中に」


「いいえ、高速線に入ったところで丁度暇になりましたから」


 その頃あいを見て昭弥は入って来たのだ。仕事の邪魔はしたくない。


「運転はどうだ」


「いつも通りで問題ありませんよ」


 そう言いつつ、機関士は前方注視を怠らない。良い腕だ。


「機関車の調子は?」


「すこぶる良好です。オスティアまで行けます」


「ずっと走っているんですか?」


 オーレリーが尋ねてきて昭弥が答えた。


「ああ、オスティアまで一二時間、停車せずに走るよ」


「機関士さん達もずっとここにいるんですか?」


「いや、私たちは交代の機関士と機関助士がいますから二時間毎に交代します。いま貴方方が来た連絡通路を使って交代するんです」


 機関助士が説明した。オーレリー達が歩いて来れたのは、客車を繋ぐ連絡通路のお陰だった。


「すごいですね。頑張って下さい」


「ありがとうございます」


 そういって彼らは機関車を後にした。


「オスティアを経由すると言っていたね。王都からチェニスに向かった方が近いんじゃないか?」


 通路を歩きながらティーベが尋ねた。

 確かに、連絡トンネルのあるチェニスは王都の南西にあり、直接向かった方が早い。

 だがルテティア急行は真南にあるオスティアを経由して、そこから真西にあるチェニスに向かう。

 直角二等辺三角形の底辺の方が他の二本を合計した長さより短いのと同じだ。


「そうなんだけど、チェニスが王国二番目の都市を通らないのは屈辱だと言ってね」


 貿易で栄えた都市の吟爾が、王国の顔となる列車が通らないことを良しとしなかった。

 なので遠回りになるが、通すことにした。


「良かったのかい?」


「それはいいんだ。最短時間で結ぶ列車は他にも作ろうと思っているから。寧ろ乗って楽しい列車にしようと考えている」


「乗って楽しい?」


「うん、しばらくは最高速を出す列車がもてはやされるけど、そのうち限界が来る。その時、列車に乗ること自体を目的に出来る列車がお客様を確保してくれると考えているんだ。その先駆けとしてこの列車を作ってあるんだ。ルテティア各地に停車してその土地を紹介して賑やかにするのもこの列車の目的だよ」


 JR九州の七つ星の考え方だった。

 七つ星も九州各地に停車してその土地を楽しむことを目的の一つにしている。ただ、バス移動が含まれているのは、昭弥的には納得出来ない。まあこの世界には馬が引くオムニバスしかなく、ガソリン車はようやく試作車が出来たばかりで、今後に期待だ。


「本当に凄い事を考えているね昭弥は」


「ありがとう」


 そう言って、最初の車両に向かった。

 最初の車両、一号車は電源車。ガソリンエンジン駆動の発電機を搭載していて列車で使われる全ての電気を供給している。他の車両にも小型の発電機があるが、補助用で主力はここで使われる発電機だ。

 その後ろには荷物室更に郵便室と魔術室がある。


「何で魔術師がいるんだい?」


 ティーベが昭弥に尋ねた。


「外部との連絡用だよ。万が一事故とかで不通になっていたら、他の路線の確保や復旧までの時間とかを確認しないといけないからね」


 そう言って扉を開けようとしたが、開かなかった。それどころか中に人がいる気配がない。


「どうしたんだろう」


 その時、車掌長がやって来て事情を説明した。


「済みません社長。魔術師は乗っておりません」


「どういう事だい?」


「一人は食あたりで乗れなくなり、交代の一人も急病で乗れなくなりました。交代要員の手配が出来なかったため、乗せずに運転しております」


「じゃあ、連絡手段が無いのかい? 安全じゃないのかい?」


 心配そうにティーベが尋ねた。


「いや、他にも手段はあるし、信号を見落とさなければ大丈夫だよ。けど、運転指令所との連絡は密にしておいて欲しい。頼むよ車掌長」


「は、はい!」


 車掌長は敬礼して応えた。

 不安はないでもないが、運転を中止するほどのことではない。信号器はあるし、外部との連絡手段もある。

 安心することにして昭弥は、案内を続けた。

 電源車の次、二号車は、荷物車兼乗員の休息用の車両だ。食道や乗員線用のシャワー室がある。個人の寝台もあるが、客車のように豪華な物ではなく四人のコンパートメントが殆どで、車掌長と事務長以外は個室がない。

 このような状態で働いてくれることに昭弥は感謝したい。

 そして、その次の車両からいよいよ、客車だ。

 最初の客車である三号車は、ダイヤモンド・スウィート一室のみ。今はユリアの居室となっている。

 二号車との連絡用に一階にある通路と両端の踊り場と階段以外は全てスウィートだ。

 そして、部屋の入り口の前にはユリアがいると言うことで、親衛隊員が立哨している。

 部屋に入ることはおろかドアに近づくことも出来ない。

 部屋の前と共用トイレ、階段入り口の間には仕切り用のドアがあり、一般人が入れるのはそこまでだ。

 ここの見学は改めて行う事にして、次の車両に向かった。

 四号車は、昭弥達の泊まるエメラルド・スウィート二室のみ。後方に乗降用のドアとソファーのある談笑室。その後ろに共用トイレと、車両の旅客係の待機室、一階への階段がある。

 ちなみに、前方の部屋を昭弥達男子が、後方の部屋をロザリンド、サラ、フィーネなどの女子部屋となっている。誰が昭弥と一緒の部屋になるかで揉めたが、単純に男女別で分けることとなった。

 一階は荷物室と非常用兼荷物用の扉があるだけだ。


「ここは大型の荷物を置けるようにしている。この車両を利用する人専用だよ」


「いいね。貴族は荷物が多いから」


 ティーベは昭弥の言葉に同意した。大物貴族の場合衣装用だけでトランク十数個と言うこともざらだ。


「そのことも考えて作ってあるんだよ」


 はじめて聞いたとき、昭弥も呆れたが貴族社会のこの世界では必要と思い設置していた。

 日本式も良いが、やはり現地の風習や慣習に合わせた設計をしないと利用されない。


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