身体検査
「昭弥卿」
険悪な雰囲気になろうとしたとき、声を掛けて来たのは、女王親衛隊の隊長マイヤーさんだ。
「あ、マイヤーさん。どうしました」
「陛下がご乗車になる車両の点検だ」
今回、一番列車の主賓としてユリア、女王陛下に乗車してもらう。
帝都に行くと話したら、自分も是非行きたいと言って急遽、乗車が決まった。
そのため、帝都での皇帝への謁見が決まるなど、事実上の公式行事となってしまっている。
「それと乗客の身体検査だ」
「え?」
突然の事に昭弥は驚いた。
「あまり、お客様に失礼な事はしたくないのですが」
「陛下の安全の為には必要だ」
「そうですけど」
確かに王国にとって最重要人物であるユリアだから、念には念を入れておいて損はない。自身が勇者の血を引いていて人類最強だとしてもだ。
「と言う訳で、お前から身体検査だ」
「え?」
突然の事に昭弥は驚いた。
「協力しろ」
「まあ、協力するのはやぶさかではありませんが」
軍人とは言え女性にあちらこちら見られるのは恥ずかしい年頃の昭弥だ。
「一寸こい、適当な部屋があったからそこで検査をする」
「え、でも、他のお客様に」
「安心しろ、そちらは部下が行っている」
「いや、説明を」
「問答無用!」
そう言って、昭弥を引きずり込んでしまった。
「さて、最初は手荷物と衣装箱だな。トランクの中身を見せて貰おう」
「殆どは着替えですよ」
「その確認と他を見るんだ」
そう言ってマイヤーはトランクを開けた。
「何だこれは」
マイヤーはカバンにあった拳銃を取り出して昭弥を問い詰めた。
「護身用ですよ」
王国内は治安が良いとは言え、強盗や馬賊に襲撃されることがある。警戒と討伐のために王国鉄道で装甲列車を独自に運用しているほどだ。
乗客も安全の為に身を守るために銃を持って乗車する。
「陛下の近辺にこんなものを持ち込ませる訳にはいかない」
「はあ」
あんまりと言えばあんまりだが致し方ないだろう。
万が一に備えて昭弥はユリアの近くの部屋に泊まることになっている。近くにある武器を奪われ悪用されることを恐れているということか。
「他にも、何を持ているんだ。徹底的に調べるぞ」
「お気に召すままに」
これでまた入れ直すのに手間が掛かるなと昭弥は思った。
「服を脱げ」
「え?」
突然の指示に昭弥は、ぞっとした。
「何で?」
「服やその下に、何か持っている可能性が有る」
「服を着たままではダメですか」
「見落とす可能性がある。徹底的に調べさせて貰う。さあ、脱ぐんだ」
「ちょおおおおっ」
昭弥は抵抗したが、そのままマイヤーに捕まり、何の能力も無い昭弥は、武人で龍人族のマイヤーの力に屈し身ぐるみ剥がされてしまった。
「一体何をやっているんですか」
昭弥が身ぐるみ剥がされた時、小部屋のドアが開いた。
「陛下!」
「ぐへっ」
入って来たユリアの姿を見てマイヤーは、昭弥を放り投げ、臣下の礼を取った。
「このようなむさ苦しいところにおいでなさるとは」
「むさ苦しくて悪かったね」
開放された昭弥は机の上の服を取り戻し身につけ始めた。
「二人とも何をやっていたんですか」
「は! 不審物を持ち込んできていないか調べておりました」
「身ぐるみ剥がされました」
「……楽しそうですね」
「任務です」
「何処が」
ユリアの言葉にマイヤーと昭弥は揃って否定した。
「で? 何か不審物は見つかりましたか?」
「銃が二丁ありました」
「護身用の一丁は認めますけど二丁目は捏造しないで下さい」
「両脚の間に、身体にくっついているので切り落とそうかと……」
「止めて!」
昭弥とユリアが一緒に叫んだ。
昭弥は顔を真っ赤に染めて、マイヤーに問い詰めた。
「お客様にもこんな事していないでしょうね。やったら訴えますよ」
「こんなこと、最上級の危険人物以外にしない」
「何処が!」
あまりの言いぐさに昭弥は怒り不満を述べた。
「近づいただけで妊娠させてしまいそうだしな」
「しませんよ」
「本当に楽しそうですね二人とも」
ユリアの声がドンドン冷たくなって行く。
「ところで、ソロソロ私が乗車する時間なのですが」
「はい! 今すぐご案内いたします!」
昭弥はこれ幸いにと服を整え直すと、ユリアの下に行き手を取って先導した。
「こちらへ」
マイヤーが間に入ろうとしたが、ユリアに睨まれ、引き下がる。お陰で昭弥は邪魔されず、ユリアをホームに案内することが出来た。




