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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部第四章 サービス戦争
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閉会式後

お見苦しいところを、お見せして申し訳ありません。

これからも誤字、変換ミスを出さないことを心がけ、誠心誠意投稿させていただきます。

「むーっ」


 仲良くしているユリアと昭弥、そして視線を合わせているエリザベスを見て、貴賓席の後ろに控えていたティナがふくれ面をした。


「笑いなさい」


 隣にいた秘書筆頭のフィーネがたしなめた。


「だって、羨ましいんですよ」


「解っているわ。けど今は公式な場だから」


「けど」


「あとでたっぷり甘えられるんだから」


 昨日、昭弥は秘書達から抜け出してユリアを連れ出すために、慰労会と称して彼女たちに酒を飲ませて酔いつぶれたところを抜け出そうとした。

 飲んで暫くして彼女たちは寝たと思って抜け出したが、狸寝入りで、直ぐに追いかけて事の次第を確認。

 ユリアを王城に送り返した直後の昭弥を捕らえて問い詰めた。

 散々嘘泣きして嘆き昭弥を困らせたところで、自分たちの要求を出して、暫く自分たちと同棲させろと要求した。

 他にもいくつか要求して飲ませることに成功。この後の慰労会で昭弥の膝上での食事が待っている。


「一緒に居られるのは良いんですけど、良いんですか? 正妻の地位を要求しなくて」


 純情なティナがフィーネに尋ねる。


「ユリア陛下と正面切って戦って勝てる?」


「無理です」


 率直にティナは応えた。

 身体の欠片が残れば上出来というレベルで戦いにならない。前の戦いで良く、いや身をもって理解している。


「なら、本妻は譲るしか無いわ。代わりに役に立つ愛人という地位を獲得するの」


 それ以前に本妻の地位を巡る骨肉の争いが自分たちの間で起こりかねないからだ。


「そうですね。少々不本意ですが、でも大丈夫ですか? 捨てられませんか」


「会社は大きくなっているからね。隅々まで調べることは昭弥にも出来ない。だから、優秀な補佐や代理人になれる私たちが必要になるわ。いま、昭弥が私たちを外して上手く行くと思う?」


「うーん、現状維持は出来ると思いますけど、新しいことは出来ないと思います」


「正しい見立てね」


 確かに現状でも昭弥は王国鉄道を維持できるだろう。しかし、新規事業は不可能に近くなる。

 膨大なアイディアが頭の中に詰まっていてその実現に向けて、全力を注いでいる。

 だが、その分日々の雑事などは秘書である自分たちに任せており、そのサポートが無くなれば自分が直接することになる。つまりやりたい新事業が不可能になり、ストレスを溜め込むことになる。昭弥にはキツい試練だ。


「下手に外す事が出来ない。そういうポジションが良いのよ。それでも、結構昭弥と楽しむことが出来るし」


 ジュルリと、フィーネは唇を舌で舐めた。

 すると、昭弥の背筋に悪寒が走った。




「はあ、ようやく終わった」


 閉会式の後、獣人秘書達への労い、一人一人自分の太ももに座らせて、あーんと料理を食べさせる、を終えて精神的にもキツかった昭弥は、社長室の椅子に深く座って休んでいた。


「やっとこさ終わったな」


 昭弥が社長室でゆっくりしているとサラが話しかけてきた。


「ほいな。南洋特産のお茶や。疲れが取れるで」


「ありがとうございます」


 サラに渡されたお茶を飲んでひと息する。


「これで昭弥の目論見も上手く行ったようやな」


「何の事ですか?」


「惚けんでもいいで、これをやっとのはルテティア、いや鉄道会社の売り込みやろ」


「どうしてですか」


「あちらこちらに工場を建てすぎて、王国鉄道が使い切れん程、レールや車両が作られてしまっとるんや無いか?」


「あ、ばれました?」


 つい先日まで会社は拡大期であり、車両や機関車の必要量が膨大だった。多くの車両を必要としていたが、他から購入する訳にもいかず、生産レーンを増やして対応していた。

 だが、これは諸刃の剣でもあった。

 生産レーンの増強は生産数が上がるが、生産数の増加は販売量を増やすことになる。買い取り先、王国鉄道本体が買い取れれば問題無いが、それを上回る車両数やレールが供給された場合は、赤字になる。

 拡大期は一時的に需要が急上昇する。そのため供給量が不足し、計画が遅れがちになる。つまり計画によって入るはずの収入が減ると言うことだ。

 何より、膨大な需要に応えないと鉄道輸送の依頼そのものが少なくなってしまう、満杯ではじめから無理だと思い、申し込み、相談さえ来なくなる事が一番怖いので、需要を満たすだけの車両、レールの供給が必要だった。

 だから急な需要に合わせて供給を増やしたが、路線が充実しつつある今は安定期に入り、需要は急減。精々、交換用のレールを生産する程度になる。車両も増強が必要だが、前ほど必要ない。

 つまり供給過剰な状態になっている。

 車両が売れなければ生産調整、生産数を減らすが、人件費などはそのままで負担が大きい。それらを削減するにはレーンを閉鎖するのだが、従業員を減らすことに直結する。

 従業員を減らせば、雇用が不安定になり王国に問題が出てくる不安があって、昭弥は実行できなかった。


「そこで、販売先を増やすべく一大イベントとして博覧会を企画したんやろ」


「旅客が少なかったからですよ」


「勿論、ルテティアへの観光客誘致もその中にはいっとるやろ。けど、大きな目的は製品の販売先の確保や」


「そうですよ。失望しました?」


 昭弥は素直に認めてサラに尋ねた。


「うんにゃ。大した奴や、と思うとる。危機なのにそれを悟らせず、チャンスに変えおったからな。中々やるで」


「それはどうも」


「けど、いいんかいな。気前よく売ってしまって。あちこちに鉄道が引かれることになるで」


「そうなることが私の望みですよ。鉄道は金になりますから」


「まあ、周辺の投資が莫大やからな」


 鉄道というのは非常に膨大な資金を必要とする。

 車両ばかりに目が向かうが鉄道の総事業費のほんの数パーセント程度で、大半は土地の取得と建設費、設備費用そしてそれらの保守管理、運営の費用だ。


「我々が機械を売ることによって整備や修繕の依頼が我々の元にやって来ます。これは大きな利益ですよ」


「確かにな。けど、人手が足らなくて他に外注しているやろ。彼らに整備や修繕を通してうちらの技術が盗まれるんや無いか」


「ええ、そうです。でも今後の事を考えると、王国の鉄道車両や設備を使ってくれる所が増えるのが望ましいんですよ。今後が有利になるように」


 意味ありげに昭弥はサラに応えた。 

 一方の昭弥は、秘書達へのご褒美に何をあげればよいか頭を悩ますことになる。そのことが今一番の悩みの種であり、誰か良いアイディアを提案して欲しいものだ。


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