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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部第四章 サービス戦争
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閉会式1

魔神に見えた……怖かった(by昭弥)

4/14 誤字修正

「むーっ」


 ルテティア博覧会の閉会が目前に迫ったある日、ユリアはふくれっ面をして、ベットの上で俯せになりながら、不平を漏らしていた。


「どうしたんです?」


 聞いて欲しい、構って欲しいオーラを出していたユリアに、親友でありお付きメイドのエリザベスが尋ねた。

 答えは分かっていたが、あえて聞いた。


「全然昭弥が構ってくれない」


 博覧会が行われてから実行委員長として多忙な日々を送っており、ユリアと合う時間は少なくなった。


「実行委員長ですもの」


「秘書達ばかりと付き合っているのが気に入らないのよ」


「仕事に必要ですから」


 昭弥の秘書となっているのは、十人ほどの獣人秘書だ。他にも何人か居るが、男性で女性は彼女たちだ。


「しかも倒れた時はフローラが独占していたし」


「看病していたんですよ」


「私も病室に入れなかった」


「面会謝絶でしたから」


「昭弥を独占されて悔しいの!」


「先日一緒に博覧会を見学したでしょう」


 開催期間中、何度か昭弥の案内でパビリオンの見学に行ったユリアだったが。


「全部公式日程で最初から最後まで全部決まり切った事をしただけじゃない!」


 宣伝も兼ねて有力なパビリオンに行って、昭弥に案内して貰って、パビリオンの主催者と館長にお褒めの言葉をかけるだけ。

 やっていることは劇場の役者と同じであって、デートとか付き合いなどという上等なものではない。


「つーまーんーなーいーっ」


 子供のようにダダをこねて手足をばたつかせるユリアを見てエリザベスは溜息を付いた。


「じゃあ、自分から誘ったらどうです?」


 途端にユリアは、動きを止めて手足を縮めて指を付き合わせ、照れながら応える。


「い、いや、それは、その、はしたないのでは? 女の子として、誘うなんて、そんな……」


 意気地なし。

 好きなくせに、自分の気持ちを言うのを恥ずかしがっている。

 勇者の血を引いていて魔王だって一撃で倒せる力も精神力も持っているのに、恋に関しては純粋無欠の乙女、いや臆病な娘だ。

 前々からユリアが力を振るうことに関しては強いことを知っているが、それ以外の場面は非常に臆病だ。自分の力が強すぎて、行使すると破壊の限りを尽くしてしまう事を知っており、自ら動くことを躊躇っている。

 これは、動く必要があるか。




「ユリアをデートに誘いなさい」


「え」


 いきなり社長室に乱入して来たエリザベスに外へ拉致され、そのまま馬車の中で言われて昭弥は戸惑った。


「どういう事ですか?」


「ユリアの元に行って連れ出して、もてなしなさいと言っているんです」


「いや、だからどうしてそうなるのですか?」


「姉の言うことが聞けないのですか?」


 エリザベス・ラザフォードは、王国随一の貴族ラザフォード公爵の娘だ。そして、当主であり父であるジョン・ラザフォードが、目の前に居る昭弥を俺の息子宣言したため、エリザベスとは義理の兄弟という事になっている。

 父親に相談することは考えなかった。あれは、昭弥とユリアをひっかき回して、からかうことに生きがいを見いだしており、何をするか分かった物では無い。


「どちらが年上か年下か、まだ決まっていませんよ」


 ただ、どちらを年長にするか決めていないので、エリザベスが昭弥の姉か妹か不明な状況になっている。


「考えの至らない人は年長者が導くのが当然の義務です」


「考えが至るか至らないか、に年は関係ないと思うけど」


 不遜な考え方だが、年齢なんぞ関係ない、と昭弥は考えている。

 一〇〇才でもバカはバカであり、距離を置くか叱りつけたい。

 だが十才でも正しく、妥当なことを言うのなら、その人に敬意を払う。

 鉄道マニアを始めて思い始めたことだが、ルールを守って撮影するとか、運転の邪魔をしないとか、線路内に入り込まないという最低限の事が出来ない年長者が多い。

 時折、迫力のある映像を撮ろうとして他人の敷地に無断で入ったり、枝を折ることもある。

 そういう姿を見て昭弥は本当に情けなかったし、自分も同一視されて腹が立った。

 ルール違反が無いよう私有地は断って入るし、迫力のある映像を撮ろうと梯子を借りることもあるが誠意を込めて交渉しているし、終わったらきちんと礼を述べて来た。

 お陰で、この世界に来て多少なりとも交渉力を持つことが出来たと思っており、この考えを曲げるつもりは無い。


「ならば考えが至る者として言いましょう。ユリアにお世話になっているのに、何のおっ返しもしないのですか?」


「いや、しているつもりですが」


 鉄道のことを任されて以来、誠心誠意、勤め上げている。勿論、間違いもあったがそれ以上の功績と豊かさを王国にもたらしていると昭弥は自負していた。


「気持ちの方ではどうですか?」


「勿論在りますよ」


 何より、自分をこの地位に就けてくれたユリアには感謝してもしきれない。鉄道にしか興味を持てない自分にとってこれ以上の地位はないと言って良いくらいだ。


「では、その気持ちを具体的な行動に変換しましょう」


「それが、デートに誘い出すこと?」


「そうです」


「いや、それは……」


 エリザベスに言われて昭弥は躊躇った。

 予想通りの姿を見てエリザベスは溜息を付いた。

 確かに鉄道のことになったら脇目も振らず突っ走る猪武者だが、恩義を知っておりユリアに対する感謝の気持ちは大きい。だが同時に良くも悪くもケジメをしっかり付けている。

 功績者だからといってユリアに尊大な態度はとらないし、臣下という身分を弁えている。 だから、ユリアと対等に立とう、パートナーになろうなど考えていない。

 臣下としては立派だが、男としては理由を付けて愛してくれている人を拒絶する理由にしている臆病者だ。

 やれやれ、臆病者同士の面倒くさいカップルだ。

 やさぐれ気味にエリザベスは頭の中で悪態をついた。


「兎に角、チェニス公として陛下を、いえ、ユリアを連れ出すこと」


「えーと、お茶会に出せば良いの?」


 エリザベスの威圧するような、いや大軍を前にしたような迫力に、昭弥は怖じ気づいて恐る恐る尋ねるが。


「そんな、いつもやって貰っているような事でお茶を濁さない」


 洒落かと思った昭弥だったが、指摘したら絞め殺されそうだったので口をつぐんだ。


「兎に角、感動的な、心から驚くようなデートを考えなさい」


「そんな無茶な」


 彼女居ない歴イコール年齢の昭弥に対してエリザベスは無茶な要求を出した。


「在るでしょうなにか。いつも凄いアイディアを生み出して実行しているんだから。最近も色々作っているから、一つくらい応用できるんじゃ」


「応用って簡単に……」


 と言ったところで昭弥に一つだけアイディアが閃いた。  

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