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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部第四章 サービス戦争
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博覧会の経過

「連中は来訪者を上手く捌いているようです」


「そのようだな」


 ガイウスの言葉につまらなそうに皇帝フロリアヌスが応える。

 大勢の来場者が集まることによって、ルテティア博覧会の機能を麻痺させようと考えたのだが、失敗したようだ。

 大量の来場者を巧みに分散させ混雑を緩和させようとしている。


「だが、これから夏になる。これを乗り切れるかな」


 夏というのは熱いものだ。これはルテティアでも変わらない。

 夏の間に北へ遠征を行うのは、避暑に行くため、という半分冗談、半分本気の事柄さえ起こっている。

 そして、夏の間の行動は危険だ。移動するだけで軍隊でも死者が出てくる。


「まして、大勢の人間が集まる場所は熱気も強くなる。果たして連中に止める事が出来るかな」




「ああ、痛いーっ」


「ううう、頭がずきずきする」


「痛い痛い」


 鉄道会社本社の近くの喫茶店では、昭弥の秘書達が頭を抱えて呻いていた。


「あー、痛い」


「あのさあ、皆……」


 ただ一人冷静に昭弥が問いかける。


「食べるの中断したら?」


「だって、熱くて食べないと死んじゃう」


 彼女たちが食べているのは、出来たばかりのアイスクリームとかき氷だ。

 冷凍機械を応用して作ったアイスクリーム製造器と、製氷機とかき氷器を使って作った。

 レパートリーはレーズンアイスとチョコレートアイス、かき氷は砂糖を振りかけるか、牛乳か果汁をかける以外に無いという貧弱な物だが、大好評だった。


「特に熱いから、食べておかないと身体がほてっちゃって」


「食べ過ぎると身体を冷やすよ」


 何杯も食べているフィーネに言ったが、何故か彼女はプイッと顔を背けた。


「まあ、美味しいならそれで良いけど」


 会場各所でも販売しているが、凄い勢いで売れている。

 下手をしたら入場料収入より多いのではないのか。

 かき氷器の貸し出し、アイスクリームのキロ単位での販売によって小売りの人達に売って貰っているが、それでも引く手数多だ。


「各地に作っておいて良かったよ。各地の冷凍機械をフル稼働して製氷させて、冷蔵車で氷を輸送して、ようやく足りているんだから」


 冷蔵車に入れる氷を製造する製氷装置を農作物や魚介類を積み込む施設を各所に設置しており、それを使って氷を作らせ送り込ませてきた。

 衛生状態に関しては最新の注意を払いつつ、送ってきているので問題無いはず。

 もし、これが無かったら、この酷暑の中で死人が出ていたかもしれない


「まだまだ、必要だけど」


「あー、食べていないのに頭が痛くなるよ。まあ、氷を入れた水で勘弁願おう。なるべく格安で売るけど。砂糖と塩も入れておいた方が良いな」


 砂糖と塩を入れた氷水で金を取るというのは、がめつく見えるが氷自体が高価なこの世界では、手の届く値段で買えること自体が奇跡だった。

 それに設備の投資に対するリターンも必要だったし。

 ちなみに砂糖の他に塩を入れるのは人が、汗を掻くと体内の塩分も一緒に排出され、その状態で水分を補給すると体内の塩分濃度が低下して体調が悪くなるからだ。

 昔、水を飲むと疲れやすくなるという話があったが、この状態を指している。

 だから水は飲むなと言う迷信がまかり通っていたが、脱水状態に陥るため決して行ってはならない。水分と一緒に塩分も取れば問題無い。

 スポーツ飲料や経口補水液に塩分が含まれているのは、こういう理由だ。

 何故昭弥が知っているかというと、夏休みにローカル線の駅制覇に挑戦して、酷暑の中駅のホームにいたため脱水症状でぶっ倒れて駅員に水と塩を飲ませて貰い、助かったからだ。

 以来、水分の補給と塩分の補充に気を遣っている。


「まあ、冷房の付いたパビリオンもあるし、何とかなるだろう。夏の暑い盛りもこれで乗り切れるはずだ」


「そうね」


 そう言ってフィーネは同意した。


「ただ一つ気になるのがレストランや喫茶店のウェイトレスなんだけど」


「ええ、確かハーベイって人に経営を任せていたわね」


 最近、駅周辺のレストランや喫茶店、食堂車の運営のために新会社王国鉄道食堂を設立し、そこから職員を派遣して貰うようにしている。

 元々、鉄道会社の食堂部門を独立させたので味は変わらないしサービスも良いのだが。


「何で、あんな格好なんだ」


 ウェイトレスの姿が、例のウェイトレス服、青のチェックに腰で締めるリボンと、エプロンのフリルで胸部が強調される、大変宜しい、いや、大変けしからん格好なのだが。


「ああ、何でもデザインを募集したら、圧倒的なインパクトで決めたらしいわね」


「で、そのデザインはどうやって思いついたんだそのデザイナーは?」


「何でもジャネット女史が研究費目当てにスケッチとかアイディアを売りまくっていて、それを買ったみたいよ」


「やっぱり」


 かつて昭弥の脳から記憶を抜き出した事があった。その記憶を使って水着を作り出した前科があった。


「勘弁してくれ」


 これからも自分の記憶にある衝撃的な映像や衣服、いわゆる黒歴史をダイレクトに見る事になると思うと、昭弥は本当に頭が痛くなった。




 昭弥の頭痛の種はともかく、予想は的中し暑さで倒れる来場者は少なくなった。

 それ以上に暑い最中に冷たい物を飲める、外は暑いのに中は涼しいということ自体が有名となり、更なる来場者を招いたことは誤算だった。

 火で灯りを灯すのも滅多にない世界で、スイッチ一つで明るくなり、空調の効いた建物、冷たい飲み物など、夢物語でしかなく彼らにとっては未来都市、新たな文明に見えた。

 それが、帝国本土に帰っていった来場者の口から周囲に伝えられ、確かめようと更に人が訪れ、知らしめる。

 昭弥が描いた博覧会の目的は完全に達成された。

 人々はルテティアを、帝国の最東端の僻地にして開拓地、周辺の蛮族と常に戦争をしている地域、という認識から、最先端の技術と文明が存在する先進地へ大きく変えた。

 やがて夏が過ぎて秋が訪れると、流石に冷たい飲み物は必要なくなって売り上げは落ちたが、物珍しさに買う人がいて一定の売り上げを保った。

 更に余裕がで来たことにより、展示物を見たり、製氷機や空調の購入を依頼する人が増えてきた。

 閉会式を迎えても、その手の人々は多く、王国の輸出は多くなっていた。

 何より人気だったのは開館したばかりの鉄道博物館と美術館だった。

 最新の技術の塊である鉄道を目の前で見られる鉄道博物館は、最先端の象徴であり、人々がこぞってやって来る王都の名物となる。

 美術館も、これまで貴族や一部商人の独占だった美や芸術が一般人にも目に触れることが出来る場所は他に無く人気だった。

 そのために以後、各地に同じような施設が建設されるようになるが、それはまた後の話しだ。

 また、同じようなイベントをやって欲しいとの声が上がり、専門の会社を作ることにもなるが、そのことはまた後に話すことにしよう。

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