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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部第四章 サービス戦争
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博覧会のトラブル3

4/12 誤字修正

「博覧会はどうなっているかな」


 病室にいた昭弥は不安でいっぱいだった。

 はじめの二日ほどはベットから起き上がれなかったが、三日目には元気になった。だが、四日目ともなると暇をもてあまし、博覧会が気になっていた。

 フローラによって書類はおろか、新聞さえ病室への持ち込みを禁止されていたのだ。

 そのため博覧会がどうなっているのか、より気になった。


「何とか出してくれない?」


「ダメです。戻る気無いでしょう」


 フローラに図星を指されてしまった。


「博覧会がどうなっているのか書類で確認したいんだけど」


「ダメです。直ぐに病室一杯に書類で埋めるでしょう」


「新聞で確認したいんだけど」


「ダメです。数日分の新聞で埋めることになります」


「……確認しないとストレス溜まって病状悪化するけど」


「身体休めないと治りません。看護婦の指示に従って下さい」


 取り付く島も無かった。

 そんなやりとりを終えてフローラが出ていっても昭弥は博覧会の事が気になった。


「どうなっているんだろう」


 そう思うといても立ってもいられず、ベットから起き上がり、ドアに向かう。

 だが鍵が外から掛かっており、出る事が出来ない。

 病室の窓に向かい、下を覗く。四階にあるので飛び降りることは不可能。

 通常なら、低い階のほうが身分の高い職員に当てられるのだが、脱走防止の為か最上階に連れてこられていた。

 脱出の方法が無く、かといってじっとしていられなくて、病室の中をウロウロし始める。


「何とかして知りたい」


 脱走映画の様にシーツを破ってロープにして降りていくか。

 仮病を使って逃げ出すか。

 フローラを人質に取って逃げるか。

 フローラに抱きついてベットに押し倒し懇願するか。

 いくつか考えが浮かんだが、決め手に欠ける。


「しょうが無い。抱きついて耳元で、病室から出して下さいと囁き続けるか」


 病室に閉じ込められすぎて、頭が少しダメな方向に回り始めていた。

 決心したとき、扉が開きフローラが入って来た。


「フローラさん」


 実行しようと近寄ったとき、彼女は言った。


「退院して良いですよ」


「へ?」


 抱きつく寸前、彼女から意外な言葉を言った。


「えーと、隊のメンバー」


「それは隊員」


「官職から引退すること」


「それは退隠」


「月のこと」


「それは太陰」


「病院から出られること」


「その退院です」


 あっさりとフローラは病院を出ることを認めた。


「え、でも一週間は出さないって……」


「このままこの部屋にいたらノイローゼになりそうでしたから、出て行った方が良いでしょう。けど、短時間ですよ。長時間働いていたら直ぐに机から引っぺがしてベットに縛り付けますから」


「できる限り、短時間で済ませます!」


 目が本気だったので昭弥は敬礼して約束すると、早速会社に向かった。




「皆、大丈夫かい!」


 会社に戻った昭弥は社長室に入って尋ねた。


「あ、社長」


 仕事に掛かっていた全員が手を休めて昭弥の元にやって来た。


「退院でたの」


 代表してフィーネが尋ねてきた。


「まあね。心配かけて済まない。短時間に済ませるなら良いと言われてね。で、博覧会の方は?」


「あー、ハンナのお陰で。混雑はいくらか軽減されたけど」


「ハンナが?」


 と、顔をの方に向けるとハンナはビクッと身を震えさせた。


「何をしたんだ」


「凄いのよ。実は」


 そう言って昭弥にハンナが何をやったかフィーネは伝えた。


「そりゃいいぞ」


「ほ、本当ですか?」


 おっかなビックリといった感じでハンナが尋ねてくる。


「ああ、やろうと思っていたことをやってくれたからね。助かったよ」


「は、はい!」


 普段は臆病なのにいざとなると肝が据わって行動力がアップする娘だと昭弥は見ていたが、ここまで行動力があるとは想定外だ。


「どうして、実行しようと思ったんだい?」


「いえ、社長のアイディアを書いた書類を見ていたらそうじゃないかと思って」


「なるほどね」


 初めてと言うこともあり、仕事を最小限に抑えておこうとして実行せず、ストックしていたアイディアを組み合わせてやったのか。


「あの、済みません。まだ十分に混雑が解消できなくて」


「大丈夫だよ。かなり良くなるはず。各会場の現在の混雑の度合いと周辺の宿の宿泊の度合い、列車の混雑を集計する部屋を設けて、逐一解るよう表示できる様にしてくれ」


「はい」


 言われて直ぐにハンナは準備に入った。


「それを使って混雑の対策をするの?」


「それもあるけど、会場各所に掲示する」


「え? どういうこと?」


「混雑の状況表を見て、空いている会場に向かうようにお客様を誘導するんだ。空いているところが正確に一目で解るなら移動するようになる。これなら問題無いだろう」


 列車の予約状況や乗車率を掲示して分散させるのと同じ事を、昭弥はやろうとしていた。


「自ら動くようにすれば、苦情とかも減るよ」


「でも輸送手段が足りなくて」


「大丈夫、車両の増産を行っているからね」


 オスティア、チェニス、アムハラなどに新たな車両工場とラインを新設。寝台車や客車、機関車の製造を行っていた。


「もうじき、増備の第一陣がやって来るこれを使って輸送力を増強しよう。それとアルカディアの事務所を増員して帝国本土との商談をそこにやらせよう」


「どうしてです?」


「わざわざ王都まで来ないようにするんだ。電信のあるアルカディアで契約を結んだ後、電信を使って王都やチェニスに連絡して荷物を運んでこさせるんだ。これなら少なくとも王都に来る必要は無くなる」


「いいの? 元々ルテティアに人を呼び込む博覧会なのに」


「これだけ人が多いと、輸送力が足りない。輸送する乗客を少しでも減らせるならやった方が良い。あと、チェニスのパビリオンも強化してくれ。帝国本土との距離が一番近いのはチェニスだ。ここに集中させて引き返すように仕向ければ、輸送力の増強は少なくて済む」


「なんか、目的とやっていることが反するようになってきたわね」


「まったくだよ……。けど、人が多いから捌かなくてはならないからね。何とか満足して帰って貰えるように工夫して頑張らないと。車両の生産が軌道に乗るまで何とか凌ごう。足りない分は何とか工夫して凌ぐしか無い」

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