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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部第四章 サービス戦争
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博覧会のトラブル2

4/11 文章修正

「委員長である玉川昭弥が倒れたそうです」


「そうか」


 帝国宰相ガイウス卿から話しを聞いた皇帝フロリアヌスは、満足そうに頷いた。

 始めに聞いたとき、帝都リグニアに対抗しようとする愚かな行いだとフロリアヌスは考えていた。

 帝都は帝国の中心であり、そのようなイベントを起こさなくても勝手に帝国各地の物産が集まる。そして、人もやってくる。

 何より帝国鉄道によって各地から人が集まり易い。

 わざわざ対抗する必要はない。

 寧ろ、経験不足、施設不足のルテティアのルリアの元に大量の人々、来場者を送り出し、混乱させ失敗させ、ルテティアの維新を低下させようと考えた。

 その計画は見事に進行しつつある。


「先の事件の事もあり、そのうえ大会の激務では致し方なかろう」


「流石に宣伝を多く行い人を集めすぎましたからな」


「人が集まるように仕組んだ甲斐があったというものだ」


 人々がルテティア博覧会に集まるように仕組んだのは、その一環。

 人々が集まりやすいように通行手形や、政府の職員に休暇を与えやすくしておいて、ルテティアへ行くことを促した。


「陛下もお人が悪い」


「何を言う、彼らからの要望に応えたまでよ」


 開催前、ユリア達が帝都にやって来たとき、博覧会への協力要請を受けて、人が集まるようにしたのだ。

 彼らの臨み通りやっただけ。容量以上の人がやって来たとき、どのような事が起こるか、度重なる儀式や行事を行ってきた帝国皇帝としてその恐ろしさを知っている。


「人の海の怖さと恐怖を存分に味わうが良い」




 その頃、昭弥のいなくなった社長室では秘書達が、サラなどの取締役を代理にしつつ、博覧会の遂行のために働いていた。

 多くなってきたトラブルに関してはティナの発案により、いくつかパターンを纏めて対処マニュアルにして各現場に送ると共に、トラブルの原因となる部分を修正して、起こらないようにした。

 だが、それでも続々と訪れる来場者に博覧会の機能はパンク寸前となった。


「まずは来場者数が増えていることが問題ね」


 秘書の纏め役であるフィーネが現状を確認する様に伝えた。


「まず何処で混雑が発生しているの?」


「一部のパビリオンだな。美術館や博物館、鉄道博物館で起きている。入り口に人が殺到している」


 群衆の整理を担当しているムワイが応えた。体格の良い獣人や魔族を送り込んで警備させているが、それでも手こずっていた。


「列の整理が出来ていないようね」


 フィーネは問題の本質を正しく理解しようとした。


「直ぐに整理の人間を増やして。ロープで列を区切るとかして誘導を。それと人を増やして割り込みを防いで」


 入り口に我も我も、と人が殺到するから、混乱が起きてすんなりと人が入る事が出来ない。それさえ解決すれば館内に入れる人の数は増えるはずだ。


「人数が足りるか?」


「何とか人を割いて、屈強な軍隊上がりとかを出して、警視庁にも言って警官を多く出させて」


「宿泊施設はどうする?」


 再びムワイが尋ねた。


「あちらこちらの敷地で勝手に寝る奴が増えているぞ」


「一部の倉庫を改造して、仕切るしかないか。あ、そういえば船が余っていると言っていたわね」


「ええ、社長が開催前に集めていたけど」


 書類を確認していたハンナが応えた。


「使い道は? 今何に使っているの?」


「何も使っていないけど」


「じゃあ、それを会場近くまで運んで、運河に浮かべてホテル代わりにして」


 王都をはじめとする王国の殆どは水運で栄えていた。鉄道開通により激減していたが、未だ一部では使われている。事に運河はまだ残っていた。


「屋根付きの船なら問題無く使えるはずよ」


「解ったわ。でも、どうして来場者が増えるんだろう」


 秘書の一人である兎人族のハンナ・ハーゼナイが呟くように疑問を口にした


「やっぱり宣伝が大きいからじゃないの」


 ハンナが悩んでいるとフィーネが応えた。


「広告会社で紹介しているのは、鉄道博物館や美術館だからね」


 確かに、見世物としては非常にインパクトがある。だから人が集中してしまっている。


「分散すれば混乱は少なくなるんじゃ……」


 ハンナは他に空いているパビリオンがないか調べた。だが、その前に新たな問題がティナの口からやって来た。


「問題が起きているよ」


「どうしたの?」


「それらのパビリオンの前に宣伝を行う人達が多くなってきている。客寄せを行いたくて集まってきて列を乱したり、強引に引き抜こうとしている」


「取り締まって下さい」


 とフィーネが言ったとき、ハンナは思いついた。


「あ、あの!」


 突然ハンナが大声で叫んだ、全員に注目されて、一瞬怯む。


「どうしたの?」


 だが、フィーネが優しく促すと、ハンナはぽつりぽつりと答え始めた。


「……いま、人の多いパビリオンの周りに……客寄せ用の舞台や掲示板を設置しましょう。……そして優良なパビリオンの客寄せ用の宣伝を行う事を行いましょう。……多くの人がいるのを見て分散するようになるはず」


「でもどうやって決めるの?」


「そ、それは……」


 そこまで考えが至らなかったのかハンナは、言葉を失ったが直ぐにアイディアを思いついた。


「お客様に投票して貰いましょう。……良いパビリオンに投票して貰うんです。ただ、人気の高い鉄道博物館や美術館を除きます」


「投票に参加してくれるかな」


 ティナが疑問を呈するとハンナは答えた。


「違反には、罰則規定を設けましょう。票を水増しての不正投票をしたら掲示中止などの処置を。それと投票所でそのパビリオンに投票すればプレゼントが貰えるようにするなどしましょう」


「不正じゃないの?」


「やるべき事は他のパビリオンへの分散です。各パビリオンが人を集めようとするように仕向ければ混雑は少なくなります」


「なるほどね。けど、美術館とかは目的地にしている人が多いから、初めての人は少なく出来ないわよ」


「そこは予約入場を行っては?」


「? どういうこと?」


「予め指定された時間に必ず入場できるようにしておくんです。そうすれば予め入れるようになります」


「他の客制限するの? 来た人ががっかりせんか?」


「予約は各時間制限させ、予約には料金を付けておきます。何よりやりたいのは、ある程度、スケジュール通りにパビリオンを回れるようにすること、順番待ちで他のパビリオンを回れないと言う事態を避けるためです」


「なるほど、けど良く思いついたわね」


「社長の仕事を見ていますから、鉄道の予約制度を見て思いつきました」


「なるほどね。じゃあ、誰かにやらせておくから他も宜しく」


「え?」


「私やりますよ」


 ハンナが言ったときフィーネが止めた。


「あなたの方が判断が優れているからよ。的確な指示を出せる人は指示を出している方が良いの。実行は他の人にやらせるから」


「でも」


「昭弥と同じよ。何でも自分でやろうとしても無理だから私たちに仕事を割り振っているでしょう。それと同じ。あなたは指示を出し続けて、仕事は私たちがやるから」


「は、はい」


 そしてハンナは、自分の仕事を続けることになる。


「泊まる所が少ないんだって」


「船は?」


「それでも足りないみたい。いっそ寝台列車を使ったら」


「無理、寝台列車も増発に次ぐ増発で車両が足りないから」


 博覧会場が、全土に広がったために移動手段として寝台列車は大盛況で、足りないくらいだった。


「何とか開いているところを探して、それらを探して集め分配する部署を作って」


「解ったけど、物が無いと無理だよ」


「こっちでも何とか探す」


 秘書がいなくなるともう一人の秘書が出てきた。


「ねえ、住宅が出来たけど入居が延期されている所があるんだけど」


「え? どうして?」


「解らない。社長が開催前に急遽引き渡しを中止しているんだけど」


「どうして……」


 その時ハンナは、理解した。


「直ぐに寝具の用意をして、引き渡し前の住宅をホテル代わりに使います。他にも開いている賃貸の部屋とかを探して。多分、ホテルの部屋数が少なくなる事を見越して引き渡しを延期していたんだと思う。住宅なら同じように使えるはずだから。直ぐに始めて」


 一通り指示を出したハンナだったが、急に不安になった。


「大丈夫かな?」


 社長が引き渡し延期を指示していたのは解っている。だが本当にそのためにやっていたのか解らない。


「社長怒んないかな。間違っていたら……」


 叱責されるとは思わなかった。昭弥は悪意によるものや傲慢による失敗以外には寛容だ。

 だが、仕事、昭弥が熱心に進めてきた博覧会を台無しにしてしまうのではないか、とハンナは心配になった。


「大丈夫よ」


 そう言って肩に手を置いてウィンクしながら応えたのはフィーネだった。


「その時は謝るから。それにある物は何でも使うのが社長のやり方よ」


「……はい!」

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