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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部第四章 サービス戦争
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博覧会開会

4/10 誤字修正

「あああああああああああああああっ」


 肺の空気をゆっくりと、声が長続きするように出して、念入りに調子を確認する。

 問題は無いようだ。

 うがいをして喉を湿らせて準備完了。

 鉄道放送のアナウンサーとしてこれほどの大役をになったことは、無かった。

 ルテティア博覧会の開会宣言、そのナレーション、司会を行うという大役だ。

 これまでの沿線だけでなく、王都の各会場、チェニス、オスティア、アムハラの会場でも同時に放送される。

 果たして聴衆は何人いるだろうか。

 数百万だろうか。ルテティア国内はもとより、インディゴ海の周辺国や帝国本土からも来場者がやってきているはずだ。

 彼らを相手に実況と司会をしなければ。

 マイクの前に立つ、先ほどのテストは良好だった。何の心配もない。このマイクが自分の声を必ず拾ってくれる。

 オンエアを示す赤いランプが点灯して放送が始まった。


「こちらは王国鉄道放送、博覧会メイン会場特設スタジオより放送しております。ルテティア全土より、特産品、工業品を一同に集め、展示する史上初の試みとなる世紀の一大イベントとなっております。今日はこの後、開会式が行われ、女王陛下の開会宣言が行われます」




 王城の南側に作られた博覧会メイン会場。その巨大競技場の貴賓席にユリアはいた。

 かつては貴族の屋敷があったが、内戦時に反乱側に与したため戦後に没収して、取り潰し、公園と巨大な競技場に作り替えられていた。

 七万人の観客が収容可能な競技場であり、開会式後は博覧会の一環として馬上槍試合や徒競走などが行われる予定だった。

 人の少ない時期を見込んで開会式を行う予定だったが、予想外に人が集まっており、スタジアムは満員だった。万が一の時は、サクラ、鉄道職員を動員予定だったのだが、行わずに済んで良かった。

 有線放送の声が会場内に響くとユリアは席を立って演台に向かった。

 マイクの前に立ち、ユリアは開会宣言を始めた。


「これより、博覧会の開催を宣言します。王国の繁栄を王国全土、隅々まで行き渡らせるためにも、この博覧会が成功することを祈ります」


 その直後一礼して、ユリアは下がった。

 続いて委員長として準備を行った昭弥がユリアに代わって前に出て開会の挨拶をした。


「蒸気機関の発明以来、様々な製品が作られ、世の中に溢れています。特に鉄道は遙か遠い土地から産物を短時間で運び込むことが出来るようになり、北のマスに南の胡椒をかけて食べつつ、西のワインを飲み、東の絹を羽織ると言うことが夢物語では無くなりました。しかし、そのような事が出来ることを知る人は未だ少なく、それどころか、新たに生まれた製品を知らない人々が多い。そこでそのような事が無いよう、今回博覧会を行うことにしました。新たな出会い、新たな楽しみを見つけられることを祈り、更なる発展を臨みつつ開会の挨拶とさせて頂きます」


 そう言って昭弥は一礼する。

 その脇では、ユリアが昭弥に寄り添ってねぎらうように腕を差し出した。


「!」


 だが、それは優しくも力強いもので昭弥の身体を支えていた。


「疲れているんでしょう。少し私に捉まって下さい」


 ユリアが小声で昭弥に促した。

 先日の列車での負傷が癒えていない上、開会前の激務で昭弥の体力は著しく衰えていた。


「ありがとうございます」


 昭弥は言葉に甘えて捉まった。

 本当の事を言うと、今にも倒れそうだったからだ。

 何とか気力を振り絞って、演台に立ち続けた。

 ほんの数分程、会場に手を振った後、ユリアの助けを借りて席に戻った。

 本当に、手助けをして貰って有り難かった。

 開会宣言の後も、開会式は続く。

 大勢が集まった後でそのままさよならでは意味が無いからだ。

 まず始まったのは、吹奏楽団の行進だ。

 スタジアムの入場口から勇壮な曲を奏でながら整列して入っていく。

 彼らはスタジアムを一周したら、突然二組に分かれて集団で行進を始めた。

 二つの集団は、前進後進斜行と、目まぐるしく動きを変えながら一糸乱れず動いて行く。

 そして、そのまま斜めに動きながら二つの集団が交差、ぶつからずに過ぎて行く。


「うおおおおおっ」


 突如、観客から歓声が上がった。

 日体大名物、集団行進、その中でも目立つクロスだ。

 仕組みは簡単。

 列を揃えて斜めに行進し、一方の集団の列と列の間を、もう一方の列が入り込み、互いに同じ確度で歩きながら移動する。

 上から見ると、一列一列が並行なので斜め前に進むとぶつからずに進む事が出来る。

 棒を持たせてやってみると以外に簡単にできる。

 日本では徐々に有名になりつつあるが、この世界では始めての事であり、観客は度肝を抜かれたはずだ。

 タダ歩くだけでこんなに凄い事が出来る。

 可能なことの組み合わせで、目的を達するというのが心情の昭弥にとっても改心の演出だった。

 その後は、楽団が貴賓席正面に移動して、入場してくる各パビリオンの山車を演奏で迎え入れた。

 どの山車も趣向を凝らしており、パビリオンへ足を向けさせようと熱心だ。


「大丈夫だ」


 昭弥は博覧会の成功を確信した。

 同時に、より気を引き締めなければと決心を新たにした。

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