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車両工場

なおも鉄道関連施設の視察を進める昭弥達。

 機関車工場の視察を終えると、昭弥達は次の工場に向かった。

 機関車工場の隣は、車両工場だ。ここでは機関車以外の客車、貨車の製造を行っている。


「大量に製造していますね」


「列車に組み込むから大量に必要なんだよ。特に貨車は積み込み、積み卸しに時間がかかるから、大量に必要なんだよね。さらに倉庫代わりに使うことも多いから、大量に作っておかないと足りなくなる」


「それでも凄いです」


「まあ、作るのが簡単だからね」


 機関車と比べて構造が簡単なため、製造が簡単だ。特に貨車は内装が必要とされないので大量に出来た。


「よく見ると同じ形が多いですね。客車も貨車も足下というか、下の部分が同じに見えるんですが」


「正解だ。貨車も客車も同じ台車を使っている」


 生産性を確保するため、土台となる台車を統一していた。

 二軸車の土台を作り、その上に客室を作れば客車、壁を作るだけなら有蓋車、台車の上に板を敷いただけなら無蓋車となる。

 これなら、別々に作るより材料や手間は少なくて済むし、部品も共通なので故障時などには交換が簡単だ。

 それに、貨車から客車へ、客車から貨車へ改造することも簡単だ。

 これは後々、役に立つはずだ。


「ところで、奥でも別の車両を作っているようですが」


「勿論だ。来てくれ」


 昭弥は、取って置きの玩具を見せる子供のように向こうの工場へ向かった。


「何ですかあれ」


 見つけたのは、小さな台車だった。


「あれは二軸ボギー車の片割れだ」


「あの上に客車が乗るんですか?」


「ああ」


 だとしたら非常に小さく狭い客車や貨車が出来る。


「小さすぎて使えるんですか?」


「ん? ああ、あの上に乗るサイズの客車だというんだね」


「違うんですか?」


「奥に細長い枠があるのが見えるか?」


「はい」


 そこまで聞いてセバスチャンは悟った。


「あれが、あの上に乗るんですか」


「正確には、アレの間に乗るんだ。と言うよりアレを二つ、枠の両端に取り付ける」


 セバスチャンは絶句した。


「すごく大きくて広い車両になりますね」


「ああ、大量の荷物と乗客を乗せて運ぶことが出来る」


「けど、今の線路で走れるんですか?」


 セバスチャンは心配そうに尋ねた。


「良い質問だね。ボギー車は、二軸車よりもきついカーブを曲がることが出来る。何しろそれぞれが小さな二軸車みたいなものだからね。鉄道の建設が楽になるよ。けど、恐らく帝国鉄道では走らせる事が出来ない」


「どうしてですか?」


「あまりにも大きすぎるからだよ。こんなのホームに入らない」


「王国鉄道しか使わない車両に意味があるんですか?」


「これから大量にしかも速く走らせないといけないからね。このボギー車は必要だよ」


「どれだけ速く走らせる気なんですか?」


「時速三〇〇リーグ(キロメートル)」


「無理ですよ」


 新幹線の最高速度を伝えたのだが、信じて貰えなかった。

 四〇リーグ出すのが精々のこの世界の技術力では夢想でしか無いのかもしれない。


「そんな事やんないで下さいよ」


「今はしないよ」


「今は?」


「まあ、目標にして建設するよ」


 そう言ってセバスチャンの追求を昭弥ははぐらかした。




 工場を出ると、鉄道事業の中心となる王都南岸駅建設現場に向かった。

 ここが、王国の表玄関となる場所であり、事業成功の鍵となる場所の一つだ。


「大分完成してきたね」


 昭弥がセバスチャンに言った。


「はい、駅の建物はまもなく完成します」


 中央のドームから両側に広がる四階建ての建物。中央部は貴賓改札となっており重要な人物の乗り降り使われる。両端にはドームがあり、通常の改札口となっている。建物の内部にはレストランやホテルが入っており、乗降客の利便性を確保している。

 元いた世界の東京駅を参考に作らせて貰った。

 何より目を引くのは中央のドームにある時計塔であり、鐘が取り付けられ時刻を示すようになっている。


「どうして時計塔を作ったんです?」


「時計を持っている人は少ないからね。出発時刻を知らせる時計塔が必要なんだ」


 時計は、高価であり一部の富裕層しか持っていない。大部分の人々は時計なしで生活しており、精々教会の鐘の音を合図に時を知るだけだ。


「時計工場も作っているんですよね」


 セバスチャンのツッコミは事実だ。昭弥は帝都にあった時計工房を王都に連れてきていた。


「あれは駅長や車掌、運転士のために作らせているんだ。彼らが正確に列車を運行しないと問題だからね。彼らには時計を支給するんだ」


「また金がかかりますね」


「必要経費だよ」


 昭弥は自信をもって言った。

 話が終わる二人は駅の中に入って行く。


「中が広くて天井が高いですね」


「解放感のある場所にしたかったんだよ。ここにいても圧迫感が無いだろう。それに大勢の人が行き来するから広くないと」


「まるで教会みたいです」


「そうだよ。教会をイメージして作らせた。皆に親しみがあるのが教会だから、教会のような形にすれば良いと思ってね」


「階段がありますね」


「上にも商店やレストランを作るからね。行き来は楽にしないとね」


 二人は改札を過ぎて通路に出た。半地下に作られた通路で、所々にガスランプが設けられており明るい。通路からは何本もの階段が設けられホームに繋がっている。階段の間にも商店やレストランが並んでいた。


「改札の中と外にも売店などを作っていますね。どうして、こんなに建てるんですか?」


「収入源を増やすためだ運賃以外でも収入が欲しい。折角人が集まるんだから、商店を出さないのは勿体ない。それにいちいち外に出る必要は無いからね」


 二人は階段の一つを上がり、ホームに出た。


「広いですね」


 ホームは現在六つの島型で一二本の列車を同時に発車することが出来る。だが、本数が更に増えることを想定して空き地を作ってある。また、各ホームの間には待避線も設けられており機関車の入れ替えや通過列車の移動に使う予定だ。


「しかし、ホーム長すぎませんか」


 両端を指して、セバスチャンが尋ねた。


「ホームの長さは四二〇メル(メートル)ある」


「どうしてそんなに長いホームを……。列車の長さは精々六〇から一〇〇メルですよ」


「今はね。けど将来は更に長い列車を運用することになる。車両工場でボギー車を見ただろう。アレが十両以上繋がると二〇〇メルを越える。それに備えて準備しているんだよ」


「いまは長すぎて不便では?」


「同じホームに違う列車を二本から三本止めておいて運用すれば良い」


「一体、何本走らせる気ですか……」


 相変わらず昭弥は非常にぶっ飛んだことをいうとセバスチャンは思った。

 だが、現代日本の鉄道事情を知る昭弥にとっては、これくらいのことでは、まだまだ足りないと感じている。本当は更に規模を大きくしたかったのだが予算の関係で無理だった。だから増設予定地を空き地として残してある。

 昭弥とセバスチャンは駅構内の視察を終えて、外の視察に戻った。


「外もあちらこちらに建物を建てていますね」


「必要だからね。主に、商会の為に貸事務所とか住宅が多いね。あと彼らのためのホテルとかレストランや商店街。それに鉄道会社の本社ビルの建物が必要だ」


「ホテル? 宿泊所ですか?」


「ああ、だけどもっと整っている。安心して泊まれるようにしてある。列車は多く出すし、速度も上がって直ぐに目的地に着くけど、それでも乗り遅れる人とか、渡し船を待つ人とかも出てくる。だからホテルが必要になるんだ」


 そして、駅の脇にある建物を指した。


「アレが鉄道会社の本社ビルだ。あの中に僕たちの執務室とかが用意される」


「駅前の広場も広いですね」


 大量の建築資材が置かれていたため気が付かなかったが、駅前の広場もかなりの面積がとられている。


「荷車対策ですか?」


「いや、乗客の馬車が多く来ると思って開けてあるんだ。この駅は旅客専用。貨物は扱わない」


「でも、貿易品を運ばないと収入が入らないのでは?」


「勿論だよ。貨物を扱うのは、この隣さ」




 次に向かったのは、南岸駅から少し離れた場所にある川に面した巨大な操車場だった。


「凄く広いですね」


「貨物駅だ」


 先ほどの旅客駅とは違い、大きな駅舎はなく、操車場とその先に埠頭が建設されていた。


「幾つも埠頭がありますね」


「あそこにもレールを延ばして船から直接荷物を受け取れるようにしている」


「どうしてそんな事を? 人を雇えば良いのでは?」


「それだとコストがかさむ。それに大量の人員を集めても扱える荷物の量が限られる。大量の荷物を短時間で捌くには、船から降ろして直ぐに貨車に入れることが出来るようになるのが好ましい」


 他にも昭弥は貨車の床面と同じになるようにホームを作っていた。横に動かすことによって簡単に貨車へ荷物を運び込めるようにするためだ。 

 一寸した工夫だが、これが後々役に立つと昭弥は考えていた。


「倉庫は作らないんですか」


「周りに倉庫街を作るけど、長期保管以外、殆ど使わないと思う。到着したら直ぐに貨車に乗せて運び出すから、倉庫に入っている時間が無い」


「どうしてそんなに急ぐんですか?」


「倉庫を作ると土地代がかかるからね。建設費も必要だから高く付くんだ。それに船から倉庫へ入れてから貨車へと回したら積み卸しが二回ある。けど船から直接貨車に移せば一回で済むだろう。貨車を倉庫代わりにすれば余計な土地を使うことはない。それに荷物が直ぐに到着するのは良いだろう」


「確かにそうですね」


「こうやって物流の速度を上げることによって経済の動きもより活発になるよ」


「そういえば、旅客駅もそうでしたけど、ここも歩きやすいですね」


 セバスチャンは地面を見た。

 真っ黒い平らな地面があり小石一つ、凹凸さえなく馬車が通り易い空間になっている。


「コークス炉で出てきたコールタールを塗ってあるんだ。小石を敷き詰めて固めた後、コールタールを流し込んで平らにしている。防水性が高いから、水たまりになりやすいので、緩い傾斜があるし、排水溝も設けないといけないけどね」


「でも使いやすい良い場所です」


「便利というのも、この場所の強みさ。大量の荷物を扱うんだから、こういう細部にも気をつかわないとな」

10/27 誤字修正しました

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