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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部第四章 サービス戦争
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旅客用港と貨物用港

「なあ昭弥はん」


「何ですか?」


 貿易担当の役員であるサラが尋ねてきた。


「トラキアへの投資、多くないか?」


「ええ、帝国本土向けの貨物を増やすために港を新たに建設していますから」


 これまで帝国本土との連絡は帝国鉄道のセント・ベルナルドを通じて行っていた。帝国の一存で峠を封鎖することも可能であるため王国は不利な立場にあった。

 だが、アルプスの大迷宮を使って作り出した連絡トンネルの開通により、王国独自の連絡路を確保することに成功。帝国の影響力を少なくすることが出来た。

 だが、トンネルが出来てもあるだけであり、実際に利用、活用する必要がある。

 トラキアは破綻寸前の帝国貴族領であるため、王国がその借金の肩代わりを行い、対価として鉄道の自由敷設権と港の建設運営権を貰っていた。

 鉄道を敷いても、帝国本土の場合は帝国政府の横やりが十分に考えられ、建設費の高騰、運用の困難が予測されるため広げるのは、愚かな手だと昭弥は考えていた。

 だが、船ならレパント海の自由航行権を活用して帝国沿岸部と結びつけることが可能だと考えており、連絡線の鉄道を港に繋げて貨物需要、旅客需要の創造を目論んでいた。


「確かに、道路作っても利用者がいないと作った意味があらへんしな」


 車より横切る熊の方が多い高速道路といって国会で問題になった事があったが、そのような利用者が少ないインフラを作っても仕方が無いと昭弥は考えていた。

 ただ、インフラが無いと人が来てくれない、災害が起こったときに迅速に救援に行けるなどの目的を考えると易々と否定することは出来なかった。

 だからといって不要な路線を作る気は昭弥には毛頭も無く、活用する手段を幾つも考えて作っていた。


「けど、港を二つも作るなんて贅沢や無いか? それも半島の付け根と突端に」


 トラキアはレパント海に突き出た半島で、突端は帝都リグニアにも近い。

 半島の各所に港があり、そこを結ぶように鉄道が敷かれていたが、一部を除き廃線にしてある。主に沿岸部と鉱山を結ぶ路線で、それだけは残していた。

 そして、突端にある港、トラキア領の首都であるトラキアと付け根にある港新しく作り出したアルカディア港に投資をして規模を拡大していた。

 また二つの港を結ぶ路線を増強、高速線の建設さえ行っていた。付け根の港からは連絡トンネルに繋がる路線もあり、二つの港を使ってルテティアと結ぼうとしているのは、明らかだ。


「普通なら鉄道の建設費を少なくするために付け根にしておいて、規模を大きくするべきやないか?」


「確かに普通ならそうです」


 一般的に投資は一箇所に集中的に投入するのが良いとされる。


「ですがこの二つは旅客用と貨物用に分けて作ってあるんです」


「? どういう事や?」


「トラキアの方は旅客用、アルカディアの方は貨物用にしてあるんです」


「どうしてそんな事を?」


「ヒント、船と鉄道の違い」


「……船の方が運賃が安い、鉄道の方が速度が速いと言うことか?」


「そうです」


 昭弥は改めて答えた。


「船は速度は遅いけど料金が安い、輸送コストが低いんです。一方鉄道は速度は速いけど輸送コストは船に比べると高いんです。だから、スピードを要求される旅客に関しては航路が短くなるように突端の港を。料金を安くする必要のある貨物は安い船を長く使うように付け根の方の港を使っているんです」


 実際に、英国の接続港はこのような区分があった。

 大都市に近い港は貨物用の港で、アメリカ大陸などに行く旅客船が行き来する港は、航路が短くなるように設定されていた。

 飛行機の発達により、鉄道と船の旅客衰退が起こり旅客港が廃れ始め、このような港は少なくなったが確かに存在していた。


「けど、一寸贅沢すぎやしないか?」


「お客様に選択肢を多く提供しないと、選んで貰えませんからね」


 立地場所によってお客様の利用が変わる。

 出来るだけ便利な場所に駅や施設を用意して、使って貰うようにしないと鉄道はあっという間に廃れてしまう。

 昭弥としても投資は一種の賭だったが、これは必要な物だと考えていた。


「旅客用と貨物用は分けておいた方が良いでしょう。下手に纏めておくと混乱しますから。分業というのは必要ですし」


「けど、鉄道会社なのに船も走らせるのは、手を広げすぎや無いか?」


「確かに。しかし、利用して貰うには便利だと言うことを証明しなくては。そのためには自ら走らせた方が良い訳で」


「そらそうやが、二足のわらじはきついで。まあ、二足どころか百足状態やが」


 既に鉄道会社の関連会社だけで一〇〇以上には、なるくらいの会社を経営している。

 今更、一つ増えたところで変わりはしないが。

 いや、投資が多すぎて損を出したら、その額が収入どころか資産を上回ったら。あっという間に王国鉄道グループは崩壊する。


「ちょいとやり過ぎなような気がするんや」


「そうですね。では、ソロソロ売却や独立を考えさせても良いですね」


「儲けとるのに?」


「だからですよ」


 昭弥は自分の考えを伝えた。


「いちいちこちらの指示を出さなければ、動けないような状況は不健全ですよ。自分たちで市場を開拓するくらいの勢いを持って貰わないと」


「せやけど、気前よすぎないか?」


「鉄道は人と物を運ぶ事業ですからね。彼らに新たな製品を作って貰って、取引先を新たに作って貰い、それらを運ぶ事に集中しましょう」


「まあ、最近多すぎて指示が滞りがちやしな」


「株式の売却で投資した分は入りますし、一部の株式に関しては保有し続ける事で役員人事くらいは出来ますよ」


「市場はあるんやろうか?」


「王国はまだ発展可能ですし、連絡トンネルのお陰で帝国本土沿岸との通商路が確保出来そうですから。問題無いでしょう」


「そして貨物用の港が繁盛する」


「そういうことです」 

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