機関車製造工場
機関車の製造工場に入った昭弥。新型の機関車の視察を行う。
次に向かったのは機関車の製造工場だ。
帝都の工房から連れてきた職人達が次々と機関車を製造している。
「ああ、社長ようこそ」
出迎えたのは技師長のシュミットだ。
帝都で買収して連れてきた工房の職人オーナーだ。
高圧的に連れてきたので、歯向かわないか心配だったが、工房を与えて仕事を依頼すると、喜々として作っている。根っからの職人のようで作る物があると全く違う。
経営に関わらせず、製造に専念させた方が良いだろう。
なので鉄道会社の技師長に任命し、新技術、新車両の開発を任せている。
「生産の方はどうです?」
「順調に進んでいますよ。今まで作っていたのと同じですからね」
現在工場で生産されているのは、1-BのB1、1-CのC2の二種類だ。
1-Bというのは機関車の車輪の役割と配置を示しており、最初の数字が先輪で動輪の前にある方向転換などの補佐をする無動力の車輪の数。
二番目はピストンの力で動かす動輪数を示している。
中には後ろを支える従輪が付くタイプもあり、それが一個だけなら1-B-1と表示される。
そしてB1というのは、一番目に設計生産された機関車でBは動輪の数が二つであることを示している。
国鉄時代の表示方法なのだが便利なので昭弥はそのまま使っていた。
「月に各四両が限界ですね」
「そんなモノだろうね」
少ない気がするがしょうが無い。
「最低限は揃いそうだな」
昭弥はB1を操車場での入れ替え作業用および支線用に使い、C2を本線で貨物と旅客の列車に使おうと思っていた。
「後ろに何か付いていますね」
C2機関車の後ろを見て言った。
「C2はテンダー式機関車と言って炭水車が付いている。機関車の後ろに付いているのは、水を搭載する車両だよ」
「これまでとは違うんですか?」
「これまではタンク式と言って、B1はタンク式にあたる」
機関車トーマスを想像して貰えれば分かると思う。ちなみにC2はエドワードといったところか。
「サラマンダーは常に食料を必要とする訳では無いけど、水は大量に必要だからね。B1はともかく遠距離を走るC2は大量の水が必要で機関車だけだと搭載できそうに無いから、水を運ぶ専用の車両が必要なんだ」
現代の機関車でも石炭は満杯にすれば一日分は十分に持つ。だが、水は二時間から三時間ほどで足りなくなるので補充しなければならない。
「それに重量が低下すると、機関車の牽引力が低下するからね。水が少なくなる分軽くなるから、せめて動輪の部分だけでも低下しないようにしないと」
「え? 軽い方が力を出しやすいんじゃ」
「牽引力、引っ張る力は摩擦力、滑らない力に比例する。滑らない力は重量に比例するから力が同じなら重量が重い方が引っ張る力は強い」
それでもセバスチャンは理解出来ないと言う表情を見せた。
「つまり、濡れた石畳の上で重い荷物を載せた荷車を引っ張ることを想像してくれ。軽い人が引っ張ると滑るほど引っ張っても荷車は動かない。だが重い人が引っ張ると滑らずに引いていくことが出来る」
「ああ、なんとか理解出来ました」
それでもまだ、半分くらいしか理解出来ていないようだ。
「ともかく、引っ張る力が低下しないように工夫しているんだ。これが結構、上手く走ってくれるはず」
「でも数が足りないんですよね」
「足りない分は購入で賄い。それでも足りなければ、型違いも少数受け入れよう」
「あちらこちらから買い集めては?」
「部品の交換性が悪いからダメ」
セバスチャンの意見を拒否した。
この世界では、工房毎に作っている機関車が違うため、他の機関車との互換性がない。
なので工房で作られていた機関車を可能な限り購入していた。幸いトラキアの機関車が大量に売り出されて安く購入できたが足りなかった。
「何とか生産台数を増やしたいな」
「サラマンダーが足りますかね」
この世界ではサラマンダーを熱源として使い動かしている。水槽に半円状の空間を作り、サラマンダーを入れて発熱させて、熱線で周囲の水槽を温めて蒸気を作り出し動き出すのだ。
そのためサラマンダーが快適で、熱を逃がさないような構造をしていた。
煙突はないし、周囲は水で囲まれているだけで箱形が多く、煙も吐かないため、蒸気機関車と言うよりディーゼル機関車の形に近い。
しかし、最近の鉄道ブームでサラマンダーの需要が増えたため価格が高騰してた。
「対策は考えてある」
次に向かったのは、試作工場だった。
新型の機関車を試作するための専門工場で、腕の良い職人を集中配備していた。
「見せてくれ」
見せられたのは幾つもの穴が、筒が貫いた巨大な円筒だった。
「何ですかこれは?」
これまで見た機関車は箱形で横にピストンが付いている。しかし、これは何もかも違う。
「これが、新たな機関車だ。石炭で動く」
B3、C4と名付ける予定の機関車をセバスチャンに説明した。
「後ろから石炭をくべて炎を出し、真ん中のボイラーに火を通す。ボイラーに火を通すための煙管と呼ばれる無数の筒があり、直ぐに水を沸騰させてくれる。蒸気は一旦蒸気溜まりに集まった後、ボイラーを通る加熱蒸気管を通ってからピストンに運ばれ、機関車を動かす。使った蒸気は、煙突の真下に運ばれて、吹き出しボイラーの煙を煙突から出すのに使われる」
「へー」
呪文のような昭弥の言葉をセバスチャンは聞き流した。
「まあ、サラマンダーを使わず誰でも使える燃料で効率的に動ける機関車だと思ってくれ」
「必要なんですか?」
「一日に何本も必要だからね。大勢が動かせる機関車じゃないと意味が無い。それにサラマンダーの数が十分に確保できない。多くの列車を走らせるには石炭など手に入りやすい燃料を使うしかない」
「しかし、製造が遅れているようですね」
「煙管の製造に手間取っているらしい。まあ、マスケット銃の銃身で応用できるから直ぐに完成すると思う」
「何でこんなに複雑な構造を」
「表面積を増やして、熱の吸収を増して、蒸気を生み出しやすくするためさ。石炭だと一寸熱量が少ないからね」
驚くべき事に、サラマンダーは通常の炎よりも高温であんな簡単な構造でも十分な蒸気を発生させることが出来る。また、運ぶ貨車の重量も小さく、問題は無かった。
だが、これからは重量のある列車を引かなくてはならない。
そのためには馬力のある機関車が必要であり、炎管を用いたボイラーが必要だった。
「これを走らせるんですか?」
「ああ、石炭を使う」
「煙や煤で文句が出ませんか?」
「無煙炭を使う予定だけど、それでも出るだろうからな」
環境問題は鉄道初期の頃からあり、煤煙や騒音を止めて欲しいと言う人が多い。
「なるべく音を小さくしたり線路を遠くに建設したり、線路から離れた所に住み替えて貰ったりして居るけどね」
「その交渉が大変そうですね」
「まあ、なるべく快適な家にするようにしているから。八割方は喜んで移動してくれているよ」
「何でそこまでやるんですか?」
「帝国の鉄道が出来てどう思ってる?」
セバスチャンの質問に、昭弥は質問で返した。
「鉄道なんて出来て欲しくありませんでした」
「国が衰亡するから?」
「……はい」
小さな声でセバスチャンは肯定した。昭弥を傷つけたくなかったからだ。
「鉄道をそういう気持ちで見て欲しくないからさ。帝国の鉄道のせいでルテティアは危機に陥っているけど、それを改善するために僕たちは建設している。けど、その建設で影響を受ける人もいる。特に沿線の人は、環境が変わる。それも王国以上にね。悪化すれば鉄道の事を悪く思うだろう。そういう人を少しでも生み出さないようにしなければ、と思っているんだよ」
「昭弥さん」
セバスチャンの表情が明るくなった。
「さあ、次の視察場所に向かおう」
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