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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部第四章 サービス戦争
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長距離優等列車

4/2 誤字修正 文章修正

「やれやれ、月一とは言え王都への報告任務は疲れるな」


 アクスム駐留軍で参謀長をしているブラウナー准将は愚痴りながらアムハラ駅の構内を歩いていた。

 今日は参謀長に与えられた月一回の月例報告を王国軍務省及び王国軍統帥本部に行うべく王都に向かう途中だった。


「ハレック元帥もとんでもない事を制定してくれたよ。月一回の直接報告なんて。書簡でやれば良いのに」


 文句を言っているが、自分の家族に会う機会が増えるのは嬉しかった。自分の給与で弟や妹が少しはまともな教育が受けられているか気になるし。

 ただ王都に転属になったスコット大佐や、アグリッパ大佐がやけに押しかけてくるんだが、どういう事だ。


「まあ、列車があるから大分マシだが」


 入線している寝台特急の指定された車両に向かう。

 軍務省が予め席を指定していて直ぐに使うことが出来る。

 決まった車両のいつもの部屋に入り、荷物を解く。更に備え付けの金庫に報告書の入ったカバンを入れておく。重要な物を入れておけるようにと鉄道会社が個室に備え付けているサービスだ。

 それでも気になるのなら車掌に預ける事も出来るが、それは少し心配なので行わない。自分お目の届かないところで盗まれている可能性も排除できないからだ。

 一通り、準備が終わった時、発車ベルが鳴り列車が出発した。

 出発した直後、ドアが叩かれ開ける。


「何でしょう?」


「検札とウェルカムドリンクです」


 車掌が伝えると、横にいたボーイがグラスを置いた盆を持って待機していた。


「ああ、ありがとうございます」


 そう言ってブラウナーは、自分の切符を見せて検札を済ませると、隣にいたボーイからグラスを受け取り飲み干す。

 飲んだのはトニックウォーター。

 キニーネが含まれており、風土病の予防になると言われている。ジンに入れたジントニックを飲みたいが、軍務の途中であるためやめておいた。

 軍務に支障の無い範囲で飲んでも良いことになっているが、酩酊するのを避けるためにやめておいた。キニーネの苦みが少ないのでジンの方が良いのだが。

 しばし部屋でゆっくりすると、車内の視察に向かった。

 機関車の後に電源荷物車、荷物車、一等車二両、ラウンジカー、食堂車、カフェテリア車、二等車三両、三等車四両の一四両編成だ。

 一等は全て個室、二等は四つのベットのあるコンパートメントタイプ、三等は開放式の三段ベットだ。

 多少の違いはあるが、他の寝台特急も同じような編成だと聞いている。

 二等は行商人だろうか大量の荷物を持ってコンパートメントを占拠していることが多い。荷物車に預ける事も出来るができる限り商品を持ち運びたいという彼らの意欲の表れだろう。コンパートメントを買い占めれば出来ない事じゃない。

 三等車は、王都へ帰還する兵士や役人、会社の駐在員の人達が乗っている。かなりザワザワとしているが、活気があって良い。

 行商が車内で商売をしている。正規の車内販売もあるが、鉄道会社によって黙認されている。干し肉と果物を買って、自分の部屋に引き返していった。

 途中カフェテリア車で飲み物を買っておく。食べ物や、日用品も売っており奥にはイートインコーナーもあり給湯器のお湯を使って乾燥食品にお湯を入れて食べることも可能だ。

 食堂車に入る前に検札がある。

 食堂車より前に行くには一等の客のみで後は食堂車で食べるときだ。

 そのため、食堂車で車掌や食堂の係員の検札があるのだ。

 ブラウナーは切符を見せて前に進む。ラウンジカーには何人もの一等の客が集まっている。殆どは高級将校か、財界人、貴族などで一寸した社交クラブとなっている。だが、知らない人間ばかりなので無視して自分の部屋に戻る。

 夕食の時間になり食堂車に移動した。

 一等の切符には食事代が含まれている。後は食事時間の前半と後半のどちらかを選ぶだけだ。

 完全予約制のコース料理でいつもゆったりと食べることが出来る。

 牛のフィレ肉やビーフシチュー、ポテトサラダ、カレイの蒸し焼きなどメニューも豪華で美味しい。

 食べ終わると、すぐさま部屋に戻ることにしたラウンジカーで鉄道楽団の小さな演奏集団が楽器を奏でてお客の相手をして居る。

 そこでゆっくりするのも良いが、どうも上流階級ばかりで居心地が悪い。

 早々に部屋に戻って、寝酒を取って眠ることにする。

 軍務中だが支障の無い範囲で飲むのは良しとしよう。

 列車の速度が上がった、高速線に入ったようだ。

 高速線のお陰で時間短縮になる。在来線の車両で台車が強化されていたら乗り換えなしに入れるようにしたと総督は言っていた。高速線専用車両は無理だが、在来線用の車両が高速線以外のろせんに脚を運べるのは軍事的にも便利だ。もうすぐアムハラにも高速線が伸びてくるので楽しみだ。

 先ほど三等車の行商やカフェテリア車でかった干し肉などを肴にして、一通り飲むとベッドに入る。ドアに鍵を掛けておくことも忘れない。更に用心のため自前の南京錠を掛けておくことで誰も入れないようにする。

 これで安心。後は王都に着くまでぐっすりと眠ることにする。

 軍務大臣相手に丁々発止の大論戦、予算獲得の大勝負が待っている。




「寝台列車、優等列車の売り上げは順調ですね」


「それは良かった」


 オーレリーの報告を受けて、昭弥は安堵した。


「色々作っておいて良かった。個室にコンパートメント、開放式。人の好みに合わせて作ったのが良かったな」


 かつてのブルートレインは開放B寝台がメインだったため利用者が限られていたように思う。個室やコンパートメントを増やすなどして売り出したらもう少し利用者が増えたのでは無いかと昭弥は思っており、その意味では十分達成できたと考えている。


「食堂車の利用も良いようですね。味も素晴らしい」


「ああ、燃料にコークスを使ったのが良かったんだろう。あと換気もしっかりしているし」


 コークスは高温を出せるため中華料理に使われることが多い。そのため高温で熱々の料理を、良く火の通った料理を作ることが可能だ。


「利用者が多いので二等三等へも開放して、時間制を廃止してはという話しが来ていますが」


「絶対にダメだ!」


 オーレリーの提案を昭弥は、まるで断末摩を叫ぶが如く拒否した。


「な、何故です」


 恐怖を感じながらオーレリーは尋ねた。


「そんな事をしたら、クズ共に食堂車が奪われてしまう!」


「く、クズって」


 お客様に対してあまりな言い方だが、握り拳を強く作ってまで力説する昭弥を諫めることは出来なかった。


「どうしてクズなのですか」


「コーヒー一杯だけで、何時間も居座るバカが必ずいる。そんな事をされたら売り上げが下がる」


 かつて国鉄やJRの長距離優等列車には食堂車があった。だが、どれも採算が悪化して廃止されていった。合理化という理由だが収支が合わなくなってきたのが理由だ。

 その大きな要因が、昭弥の言ったコーヒー一杯で何時間も居座る客だ。

 何故そんな奴が現れるかというと、自由席を買っておいて、座席車両より広く快適な食堂車に行き一〇〇円程度のコーヒーを買って居座った方が楽だからだ。

 確かに食堂車の方が混雑していないし楽だ。

 だが、たった一〇〇円で他の高価なメニューを購入してくれるお客様を排除されては溜まったもんじゃない。やがて客足が絶えてより収益が悪化して集客力が弱まり廃止になった。昭弥はそう考えている。

 駅弁や駅構内の店が充実してきたという理由もあるだろうが、廃止の大きな要因と考えていた。


「だからコースメニューを購入してくれるお客様のために食堂車は予約したお客様だけに開放しているんだ」


「な、なるほど、しかし食事を求めるお客様がいるのでは?」


「車内販売と、カフェテリア車の売店で売れば良い。あそこのイートインコーナーもあるから問題あるまい」


 精々立ち席か粗末な椅子だけの場所のため、食べたら戻らないとダメだ。少々、申し訳ないが稼働率を上げるためにあえて導入した。

 全ては食堂車維持のために。


「絶対廃止にはしないぞ」


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