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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部第四章 サービス戦争
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貨物輸送

3/31 誤字修正

「貨物の取扱量が増えていますね」


 今期の収支報告書を持ってきたオーレリーが答えた。


「まあ、そうなるように事業展開しているからね」


「どういう事でしょうか?」


「手間をなるべく掛けず、大量に運ぶようにしているからさ」


「? どういう事ですか?」


「うーん、例えばパンを一個買ってきてくれと頼んだらどうする?」


「直ぐにパン屋さんに買いに行きます」


「そう、じゃあ一万個だったらどうする?」


「なるべく大量に売っているところやパンの工場に向かいます」


「どうして?」


「小さいと百個程度しか売っていないところが多いので、いちいちパン屋を訪ねるは手間が掛かります」


「それだよ。貨物輸送も同じ事をしているんだ。ヤード系を少なくして直行系を増やしている」


「? どういう事です?」


「一般の貨物、各駅に運ぶ貨物は一旦預かった後、目的地別に仕分けして貨車に乗せて、更に目的地別に貨車を繋ぐんだ。そして、各地に分散する貨車を集めて、その路線の貨車を引いて各地に運ぶんだ。さあ、これを聞いてどう思う?」


「結構手間が掛かりますね」


「そう、貨物列車を集めて分散させることをヤード系と言うんだけど、非常に手間が掛かるんだ。そこで荷物を預かったところから直接送り届ける直行系を増やしている」


「どういう事です?」


「例えば、炭鉱から出てくる石炭だ。主に製鉄所や火力発電所で使ってる。それ以外にも運んでいるが、大体決まっている。鉄道会社でも機関車積み込み用の大型の集積所があってそこへ直接運んでいる」


「それがどうしたんですか?」


「製鉄所や発電所に向かうと解っている石炭。それも大量に、何十両と引く貨車に積み込んで一気に運ぶ。直接向かうので仕分けもヤードに運ぶ事も無い。経費が殆ど掛からないから安いんだよ」


 戦前から戦後に掛けて日本でも九州や北海道で採れた石炭を日本各地の工場地帯に運んでおり国鉄の収入の大きな部分を占めていた。

 エネルギー革命により石炭から石油へ移り、石炭の価格が安い海外産に移ったため輸送量は激減、多くの炭鉱の廃止と共に急激に貨物の取扱量は低下し、全交通における貨物輸送シェア減少の大きな原因となり、貨物鉄道輸送衰退の原因となった。


「他にも仕分けとかが最少になるように考えているからね」


「どういう事です?」


「市場行き列車とかだね。各地の農協から野菜を積み込んでそのまま市場に入るんだ。これなら、各駅で野菜を入れる手間が掛かるけど、その後は市場に入るだけ。各ヤードを通る必要も無く市場に入る事が出来る」


 日本でも鉄道輸送がメインでトラックが普及していなかった時代、鉄道輸送で野菜や魚を運んでいた。移転間近の築地市場が、曲線を描いているのは、鉄道の引き込み線があった影響で、可能な限り長い列車を狭い敷地に入れるためにあえて曲線にしていたからだ。


「小麦も使えるな。小麦の実をそのまま貨車に乗せて製粉工場に運んで製品にしてから各地に発送するとかね」


「なるほど、けど一人一人が送る荷物も大事だと思います」


「ああ、通信販売もしているからね。地域から他の地域へ運ぶ必要があるからそれも重視しているよ」


 そう言って昭弥はオーレリーを連れ出した。




「ここは?」


「王都の貨物駅だよ」


 四つある王都の大貨物駅の一つに連れてきた。


「王都内にある各駅から集めた荷物を一旦ここに集約、目的地別に仕分けする。そして一旦倉庫に入れておいて目的地行きの貨車が到着したら、倉庫から出して送り出すんだ」


「全ての駅にですか?」


「いや、いくつかの地域に分けて、各地域毎にここと同じような大貨物駅を作っている。そこで担当地域内の駅への仕分けを行って送り出すんだ。その後、各駅に輸送してお客様や業者に引き渡す」


「便利そうですね」


「まあ、手間は掛かるけどね。積み卸しや仕分けの作業員とか」


「あの、質問なんですけど」


「なんだい?」


「貨車の行き先が混在していませんか?」


 オスティア行きの次がチェニス北行き、アムハラ行き、イリノイ行きなど幾つ物貨車が混在して存在している。何両か続きの貨車もあるが、大概は一両のみだ。


「まあ、全国へ送るんで、それに迅速に貨物を送り出すために目的地行きの専用列車を走らせるんじゃ無くて多方向へ一度に運ぶようにしているから」


 勿論貨物の行き先になりやすい大貨物駅に関しては各地の大貨物駅から集めて輸送する列車を設定するが、荷物の取り扱いが少ない大貨物駅も多いので、この方が短時間の内に運びやすい。


「行き先別に貨車を入れ替えるのは時間が掛かりませんか?」


「それに関してはヤード、操車場に工夫をしているから大丈夫。見せて上げよう」




 そう言って昭弥が連れてきたのは、王都郊外にある大操車場だった。

 何十両もの貨車を連ねた列車が何本も止まっている。


「凄いですね」


「各地からきた列車、王都から集めてきた貨車の半分ぐらいが集まる」


「残り半分は?」


「もう一つ別の操車場がある。そこで仕分けを行っている」


「一箇所の方が良いのでは?」


「そうだけどの荷物が多すぎるんだよね。万が一ここで大事故が起こって、機能不全になっても困るし。だから二箇所に作ってある。それでも余裕が無くなってきたから、もう一箇所作る必要が出てきていて建設中」


「そうなんですか。けど、大きくて貨車を入れ替えるのが大変では?列車もおおく入って来ていますし」


「それなら問題無い、流れ作業で仕分けしているから」


「どういう事です?」


「見ていて」


 昭弥が指し示す先を見ると小高い丘が設置されており、そこへ機関車が後ろから貨車を押し上げている。


「よく見ていろよ」


 小高い丘の頂点に来ると先頭の貨車が離れて勢いよく下って行く。連結が外れたかと思ったが、次の貨車も離れているから違うようだ。小高い丘を勢いよく下っていくと、ポイントに差し掛かる。通り過ぎると次々とポイントが現れて分岐して行き、やがて貨車は目的の線路に入っていった。


「あの小高い丘のことをハンプと言うんだ。あそこへ貨車を上げて下り坂に押し出す。貨車の連結器は外してあるから、勝手に離れて行く。後は貨車を目的地別の仕分け線へ入れて行くんだ」


「その後はどうするんですか?」


「ああ、仕分け線に一定量の貨車が入ったら出発線に移して貨物列車に接続。目的地へ向けて出発する。そして、目的地近くの操車場で大貨物駅別に別けて運び、そこで仕分けして、各駅に届けるんだ」


 かつての国鉄の貨物輸送のやり方をまねしたシステムだ。一時期、国鉄のヤードは余りに非効率だったため一度入ったら二度と出てこないと言われていたが、ハンプを設けた効率的な近代ヤードにより、効率化が進んだ。


「これで迅速に貨物をお届けすることが出来る」


「しかし、いちいち降ろしたり、分けたりして複雑ですね」


「そうなんだよね。一応、解決する方法はあるけど、まだ実験中なんだよね」


 昭弥は嘆息するようにオーレリーに答えた。  

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