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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部第四章 サービス戦争
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有線放送

「皆さん押さないで下さい」


 その日、カンザスの駅には大勢の人が集まっていた。

 乗客では無い、聴衆といったところか。

 事前告知を大々的に行っていたとはいえ、町中どころか周辺の村からも集まってきており駅前にも人が溢れている。

 駅長のトムをはじめとする駅員が総出で対応しているが、やって来る人々を捌ききれない。急遽、駅ナカで流す予定を変更して、外に出して流すことにした。

 彼らはこれから流れてくる音を聞くことにしている。


「ピガーッッ」


 目の前の穴の開いた箱から音が漏れ出してくる。

 その瞬間聴衆は、一瞬にして黙り込み、流れて来る音を聞いた。


「こちらは王国鉄道放送、王都放送局から流しております」


「おおーっ」


 女性の声が箱から流れてきて聴衆は、驚きの声を上げる。その後も箱からは声が流れてきており、聴衆は聞き耳を立てた。


「皆様初めまして、記念すべき最初の放送を聞いていただき、誠にありがとうございます。これからも胴か宜しくお願いいたします。さて、記念すべき最初の放送は、鉄道楽団による演奏から始めます」


 女性の声の後、箱から音楽が流れ始めてきた。

 農作業の合間に歌うか、教会の楽団か、時折来る流しの楽師が奏でる琴などが、彼らにとっての音楽だった。

 それが、王都にいる楽団、それも何種類もの楽器を用いて勇壮に奏でる音楽が流れてくるのは、驚きだった。


「成功だな」


 聴衆の様子を見ていたトムは、満足していた。

 今日は、かねてから準備されていた有線放送の放送開始日。事前にポスターで告知していたら予想外に人が集まってきた。

 最近、駅に配置された電話に使われている回線の一部を放送に使って集客に利用しようという社長のアイディアだった。

 有線放送を駅で流して、それ目当ての客を駅内にある店や周辺の店に誘導する。

 聞いたときは、それで上手く行くのかと疑問だったが、トムは自分の浅慮を恥じた。


「電話にも驚いたが、これは掛け値なしに凄い」


 駅の上にある指令所に直接話しかけることが出来るようになったのだ。電信もあったが電鍵を叩くのに専門の技術が必要で、時間が掛かる事もあり、敬遠していたがこの電話は誰でも使えて簡単なので利用しやすい。

 それを使って、放送を流すのは凄い。

 やがてその日の放送予定を全て終了したが、聴衆は興奮冷めやらぬ状態だった。


「皆さん、鉄道放送最初の放送をお聞きになって貰い、ありがとうございます。本日は放送記念と言うことでお祝いの宴を行いたいと思います。勿論、費用はこちら会社で負担させていただきます」


 そう言って、幾つ物酒樽と食事が出てきて聴衆は、一斉に歓声を上げた。




「放送は好調だったようです」


「よかった」


 報告を聞いた昭弥は安堵した。

 新しい技術に拒否感を感じる人が出る可能性も考えていただけに、成功は嬉しい。


「やっぱり宴が良かったんじゃ無いでしょうか」


「人寄せには必要だからね」


「しかし、ワインばかり大量に買ってどうするんですか? 帝国本土からも買いあさっていましたよね。高級から安酒まで樽で買っていたでしょう。大量の経費が必要で取締役を説得させるのに時間が掛かりました」


「ああ、欲しかったのはワインだけじゃ無くて、樽に溜まりやすい酒石酸だよ」


「酒石酸?」


「樽の底に溜まるもので、ロッシェル塩が作れる」


「何ですかそれ?」


「圧電素子」


「そんな物が何に使えるんですか?」


「マイクの材料だよ。圧電素子は力を加えると電気に変える働きがあるんだ。声や音も力だから、それを受けて電気に変換する。特にロッシェル塩はその特性が良くてね使えるよ」


 第一次、第二次大戦ではソナーの材料として使用され、戦略物資として枢軸、連合を問わずワインの確保、ひいては酒石酸の確保に走った。

 現在は、湿気に弱いという弱点と代替材料の開発により、使う機会は減少しているが、この世界では手に入れることの出来る中では最良の材料だ。


「楽団の音を最良の状態で流す必要があるからね。音質は大事だから」


「しかし、結構大変でしたね。放送事業」


 何しろ有線なので、ケーブルを張り巡らせるのが大変だ。


「簡単に済んだと思うけど? 線路沿いに出来たからね」


 人口密集地帯同士を有線で結ぶのに鉄道の線路ほど便利な物は無い。

 何しろ土地は既に確保され後は敷設するだけだ。ケーブルテレビの加入が鉄道沿線なのもケーブルを引きやすいという利点があるからだ。

 他にも送電線や電話線も引きやすいので、その事業を行っている鉄道会社もある。


「電話線を引くついでに引いているからいいんだよ」


「しかし、タダで聞かせるんですか? 苦労しているのに」


「今なら金は取れそうだけど、後々の事を考えると、タダで聞かせてそれを客寄せに使った方が儲かるよ。主に広告収入、放送中にスポンサーの紹介をすることで賄うつもり。あとは、新規加入を求めるだけさ」


 前の世界で本体の購入はともかく、放送はタダで聞けるラジオやテレビを見てきた身からすればコマーシャルによる収入形態を作っておくことが必要と昭弥は判断した。

 テレビやラジオはスポンサーに制作費を出して貰うことで、番組を作っている。それと同じ仕組みを作っていた。自社、鉄道会社の関連企業ばかりだが、一応作っていた。


「というと?」


「駅周辺の店舗に有線放送を引きませんか? と、話すのさ。音楽やニュースが欲しいと店が頼み込んできたら設置費用と利用料を取れば良い」


「確かに、それなら便利ですね」


「だろう。まあ、ニュースを報道したりコマーシャルを流すのが目的なんだけどね」

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