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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部第四章 サービス戦争
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情報戦の後始末

【一日一万PV突破】

【総合評価一〇〇〇ポイント突破】

【第四回ネット小説大賞一次選考通過候補】

 以上を記念して本日は連続投稿を行っています。

 夕方にも投稿予定ですのでお楽しみに。

「さあ、早速新しい事業を始めよう。この日のために色々と計画したし帝国鉄道に協力しましたから」


「そうでしたね」


「どういう事?」


 自信満々な昭弥と目がうつろなセバスチャンにユリアが尋ねた。


「最近帝国鉄道がやけに路線を拡大したと思いませんか?」


「ええ、色々協力して売却していましたね。最近は少なくなっているようですが」


「それでも、以前よりも延伸や車両増強が活発ですよね。その資材。レールや機関車、貨車がどこから来たと思っているんです」


「え? 帝国本土じゃ?」


「セント・ベルナルドの輸送量が殆ど限界の状態ですよ。出来ると思います?」


「……まさか」


「ええ、王国鉄道が、正確には傘下の企業が売っていたんです」


「マジで」


「マジです」


 ユリアの驚きに昭弥が答える。


「何故」


「単純に生産が余っていたこともありまして、売り込み先を探していましたから」


 王国鉄道の機関車が不足していたこともあり王都の工場のラインを拡大していた。また産業振興、地方開発の意義もあってチェニス、オスティア、アムハラに機関車工場、車両工場を建設して生産能力の増強を行っていた。

 今後の目的のためでもあったが、少し作りすぎて出荷待ちの機関車や車両が出来はじめ、生産数を落とすことも考えていた。

 また帝国鉄道が王国鉄道からの購入を差し控えるようになった事も、理由の一つだった。


「よく帝国鉄道が購入しましたね」


「ダミー会社を作りましたから。リグニア特殊金属加工という会社を。まあリグニアに取り次ぎの従業員が居るだけの会社なんですが」


「何でわざわざ」


「王国と聞くと購入しにくいでしょう。皇帝による王国からの購入規制も出来てきましたから。なので担当者が購入しやすいように、リグニアにある会社のように見せかけたんですよ」


「どうやって売ったんです? 帝国には他にも工房があるでしょうし」


「簡単です。格安で売っただけです。引き渡しをセント・ベルナルドもしくは現地でということにしたんです。現地で生産して渡すので輸送費が格安で済むんです」


「何でそんなことを」


 わざわざダミー会社まで作って、帝国に売り込むのだろうか。


「言ったでしょう。帝国鉄道がシェアを奪えるようにしたんですよ」


 昭弥は説明した。


「言ったとおり王国鉄道のシェアは大きく輸送量も多くそして輸送すべきものも多い。何故ならまともな大量輸送手段が鉄道以外無いからです」


 自動車や飛行機が無いのでは無理。かろうじて船だが、水路が少なく制限されている。


「なので、鉄道は全てを運ばなければならない。そしてそれは枷になりました。何故ならより良い事業を行う余裕が無いからです」


 例えば山手線あるいは大阪環状線で朝食サービスを提供する車両を運転するとしたらどうだろう。優雅に朝食を食べながら流れゆく都心を見るなんて良いだろう。朝食代が高くても一定の需要はあるはずだ。

 だが、パンク寸前の満員電車ばかりのラッシュアワー時にそんな車両を走らせたら、他のお客は怒りで抗議の声を上げるだろう。少しでも満員状態を解決しろと。

 だから、そんなサービスは出来ない。例え収入が増えるとしてもだ。

 王国鉄道も似たような状況に陥っていた。


「王国鉄道は王国の鉄道であり、王国で必要とされている荷物を運ばなくてはならない。だが、あまりにも多すぎた。けど帝国鉄道は安価な料金で大量の荷物を引き受けてくれた。お陰で余裕の出来た我々は、新たな事業が出来るんだ。予算も帝国鉄道からの支払いがあるしね」


「……私が言うのも何ですが」


 ユリアは慎重に言葉を選びながら答えた。


「昭弥って結構悪辣ですよね」


「酷い言われようですね」


「事実ですから」


「けど、これでも身を引いているんですよ。改善して欲しいところが山ほどあるんで、いっそ私自ら乗り込んで改善を」


「やめて下さい」


 昭弥の言葉をその部屋にいた全員で唱和して止めた。




「社長」


 ユリア達一行とサラをはじめとする取締役達が出て行ってからセバスチャンが昭弥に声を掛けた。


「なんだい?」


「社長は人間ですよね」


「会ったときに徹底的に調べているだろう」


「ええ、わかっています。ただ、やっていることをみると、控えめに言って悪魔の所行としか言い様がありません」


「酷い言われようだね」


「事実でしょう」


「まあ、確かに。あ、そうだ。ソロソロ後始末に行こうか」


「はい」


 そう言って昭弥はセバスチャンを引き連れて、目的の店に向かった。




「上手く行ったな」


 無事に帝国の情報要員に手紙を渡す事が出来たことに男、キムは満足していた。最も満足なのは報酬の金貨なのだが。

 万が一、ばれたときトカゲの尻尾切りとして間に入るメッセンジャー、帝国が関わっていないことにするためのアリバイ工作要員だ。そのことは向こうから教えられた訳では無いが、知っている。後を付けて、確認している。

 まあ、金さえ貰えれば良いので不味くなったら逃げれば良い。

 キムはそう考えて、自分のお気に入りのパブに入った。相変わらず、客で混んでいる。

 キムはカウンターに行き、店員に注文を出す。


「フィッシュアンドチップスそれとビール」


 そう言って注文する。このところ王都で流行っている贅沢な料理だ。

 ポテトと魚をフライにして食べるという物だ。揚げ物は油を大量に使うのだが、油は高いので揚げ物というのは中々ない。更に魚は海の魚、千リーグも離れた場所から運ばれてくる海魚をそれも揚げて食べるのは、贅沢な一品だ。

 アクスムのレモンという酸っぱい果実の汁と胡椒に塩をかけて食べる。

 昔は王侯貴族しか食べられなかった料理がこうして食べられるのは嬉しい。

 自分の席に座り、料理が届くのを待っていると、誰かが来た。


「相席させて貰うよ。話したいことがあるんで」


「何だと? あいにくとここは俺専用の席だ。痛い目にあいたくなかったら……いえ、そのままお座り下さい」


「ありがとう」


 そう言って昭弥は、キムの正面の席に座った。ちなみにキムの後ろにはセバスチャンが拳銃の銃口をキムの背中に押しつけている。


「話しというのは?」


「一寸した仕事だよ。君が渡している手紙のことだ」


「ばれたから手を引けと?」


「いや、これまで通り、流して欲しい」


「何だと?」


「昔と変わらず流して欲しいんだ。まあこちらが渡す手紙のみで、相手に気付かれること無くという条件でね。成功報酬は勿論渡す」


「こんなことを話して大丈夫なのか? 人の入っているパブでこんな話しを」


「大丈夫だ。ここに居るのは我々だけだ」


 昭弥がそう言うと、パブにいた客全員が左手でジョッキを掲げ、懐に隠しつつ右手で拳銃をキムに見せた。


「……断れそうに無いな」


「命は保証できかねるよ。断ったらね」


「俺にもプライドがあるんだ。そんな、はした金でやると思うか?」


「陛下の剣の練習相手か、ジャネット女史の被験者になって貰おうと思うんだが」


「戯言抜かして済みません! タダでも受けますのでどうかご勘弁を!」


 ジャブのつもりで、一寸した脅し言葉を使ったつもりだったのにストレートに効いてしまった。

 二人とも一体どんな噂が立っているんだ。ただ、その脅威を身を以て知っている昭弥には仕方ないなという感覚だ。


「まあ、受けてくれて嬉しいよ。タダじゃ無いから、仕事なんで報酬を出すよ」


 キムと報酬についての打ち合わせを行い契約成立。昭弥は、その時点でパブを離れ護衛と共に帰って行った。ちなみにこの日の料金は全て昭弥が負担すると宣言し、キムには好きな物を頼むように言ったが、最初に注文したフィッシュアンドチップスも半分以上残して出ていった。


「良いんですか?」


 帰り道でセバスチャンが尋ねた。


「何がだい?」


「帝国鉄道に情報を渡す事ですよ。車両もレールも渡しているのに」


「車両もレールも鉄の塊に過ぎないよ。これらが有益に使われるには、使い方を工夫するしか無い。それが帝国鉄道は不充分だから教えてやるんだ」


「敵なのに」


「王国鉄道の上を通過するところもあるからね」


 平行線とは言っても、王国鉄道の線路を跨いで動かす路線もある。そういうところは大概帝国鉄道が、高架を作って上を通過する方式を採っていた。なぜこのようなやり方かというと、帝国鉄道が王国鉄道を見下すためという、非常に馬鹿げた意地が帝国鉄道にあるからだ。


「彼らがそこで事故を起こされて、落ちてこられたら、どんな被害になるか」


「確かに心配ですね」


「まあ、教えすぎるのも考え物だけど」


「あ、やっぱり、後悔しています?」


 情報を渡しすぎて締まったと思っているかとセバスチャンは思った。


「うん、教えたらそれ以外の方法を取らなくなる可能性が有るからね。僕の思いもよらない方法やアイディアを出してくれる可能性が減ってしまう」


「いつもの社長だった」


 期待外れだったため、セバスチャンはがっかりした。


「けど、本当に帝国鉄道はやり方が下手だ。このまま乗り込んで直接指導を」


「しないで下さい」


 セバスチャンは真顔で昭弥を止めた。




 こうして、今後も王国鉄道から帝国鉄道へ、昭弥の臨む情報が流れ、帝国鉄道の改善が進むことになる。

 そして、王国鉄道に余裕が生まれ、新たな列車が走る事となる。


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