路地裏の対決
済みません、いつもより遅れて投稿します。
遅くなって済みません。
ユリアは意を決して背後に現れた人物に剣を振り向けた。
そしてその剣が首筋にピタリと止まったとき、人物の顔を見て驚きの声を上げた。
「昭弥!」
「危うく死にかけるところでした」
ユリアの手元から伸びる剣を見て昭弥は冷や汗を拭いながら言う。
「もう良いよセバスチャン」
昭弥が声を掛けると、エリザベスにナイフを突きつけた人物は、ナイフを収めると不空く被ったフードを脱いでその素顔を曝した。
「セバスチャン」
元自分の執事であり、現在は昭弥の執事兼情報収集係となっている元盗賊のセバスチャンだった。
「どういう事なの!」
エリザベスはキツく詰問した。
「いえ、お二人のせいで計画がおじゃんになりそうで」
「どういう事よ」
「尾行があまりにも下手なんですよ。その姿で、追いかけるなんて自分の存在を誇示しているような物です」
とドレス姿の二人を指して言った。
「うっ」
確かに喫茶店などで女性が客として入るには良いが、このような職人や作業員が入るような場所に入ってきたら浮く。
と言うより凄く目立つ。
密かに動く必要がある尾行には最も不向きだ。
「あの男に気づかれないよう引き離すのに苦労しましたよ。商品を台無しにしてしまって補償するはめになりましたし」
彼女たちの尾行にいち早く気が付いたセバスチャンは、男に二人が気づかれないうちに尾行を中断させることにした。
咄嗟に近くの店の前にあった荷車を掴んで二人の前に割り込んで、尾行を中断させたのだ。
「じゃあ、私たちにぶつかってきた丁稚は」
「はい、私です」
素直にセバスチャンは認めた。そして、先ほど貰った金貨一枚を返した。
「ちなみにその隙に社長に入れ替わって貰いました。ぶつかった後の男は社長です」
更に、昭弥に頼んで、男に似たマントを着てフードを被ってなりすまし、二人を違う方向へ誘導した。
で、先ほどの人質事件に繋がるわけだ。
「今頃、あの男は近くのパブに入って、帝国の諜報員と合流して手紙の受け渡しを終えているはずです」
「って、なんで情報流出に荷担するの!」
セバスチャンの報告に二人は、怒髪天をつくかの如く怒る。
慌ててセバスチャンと昭弥の二人は、女性二人を抑えて言う。
「ちょ、ちょっと落ち着いて下さい」
「まあ、ここで話しをするのもなんなんで、場所を変えませんか?」
「けど」
はぐらかされているようで二人は納得出来なかったがセバスチャンの一言で黙った。
「ここで色々話すことの方が情報流出することになると思いますが」
「うっ」
確かに、ここは路地裏で人気が少ないとは言え、何処で聞き耳を立てている人物がいるとも限らない。
昭弥とセバスチャンに促され、ユリアとエリザベスは場所を変えることに同意した。
「しかし、人質を取って脅迫なんて酷くありませんか」
首筋をこれ見よがしに摩りながらエリザベスが抗議した。
「まあ、二人を相手にするにはこれぐらい必要かと」
昭弥が、恐る恐る答える。
「女性二人に?」
「もしここでユリアさんに全力で応戦されたら困りますから」
「うっ」
昭弥に言われて二人は黙った。
「それを防ぐ為にも、人質を取って抑える必要がありました」
もし、こんな場所でユリアが全力で応戦したら、建物どころか一区画が消滅するだろう。
人気の少ない場所だが、一寸道を一つ移っただけで人通りの多い場所になってしまう。
大勢の職人や作業員、店の従業員がいるため、崩壊すれば被害は甚大なものになる。
「こちらも命がけでしたしね」
勇者の血を引き絶大な力を持つユリア相手にまともに戦って勝てる訳が無い。
普通の人間である昭弥とセバスチャンは、奸計でも使って膠着状態にでもしないと瞬殺されてしまう。
悪者のような思考法だが、生き残るためには、仕方の無い事であり、他に方法があるのなら教えて欲しいと思うセバスチャンと昭弥だった。
「それで、どういう事ですか?」
場所を鉄道会社本社屋の社長執務室に移ったユリアとエリザベスは、昭弥とセバスチャンに説明を求めた。
ちなみに執務室には、ロザリンドとサラ、その他秘書達もいた。
「何故、諜報員を庇うようなことをするんですか。情報を奪おうとしていたかも知れないのに」
「いえ、確実に情報を取ろうとしていました。間違いありません」
「どういう事?」
セバスチャンの説明にユリアは尋ねた。
「ロザリンドさんが渡した手紙は、あの先にあるパブで帝国大使館の職員に手渡され、帝国の大使館に運ばれています」
「何故断言できるのです?」
「ずっと私が監視していますから」
「どうして?」
「確実に帝国に情報が渡るようにです」
「一体どういう事、何故そのような事を!」
「私が頼みました」
詰問されているセバスチャンを見て昭弥が答えた。
「私が帝国鉄道に情報が流れるようにセバスチャンに指示しました」
「何ですって」
昭弥の告白にユリアは、大きく目を見開いた。




