第三章外伝 昭弥の家1
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アクスムから戻ってきて落ち着いて来たある日、昭弥は執務室で図面とにらめっこをしていた。
「それは何ですか?」
「ああ、新築の家の準備だよ」
セバスチャンに尋ねられて昭弥は答えた。
王国公爵という地位にあるため、王都に屋敷を持つことが許されている。それで王国から土地を与えられたので、家を作ることになった。
これまで王城の一室を与えられて寝泊まりしていたが、何時までもお世話になっていてはいけないと思い、家を建てることにした。
「どんな家ですか?」
「こんな所だよ」
出したのは4LDKの間取りの家だ。
日本にいたときは、マンションに住んでいたが、一戸建ては初めてだ。
なので自分の家を、概略図だが自分で設計してみていた。
色々と、後々の事を考えて設計していたが、今後の技術革新に期待だ。まあ自分で行う事になるのだが。
「小さすぎじゃ」
「広いと思うけどな」
セバスチャンの指摘に昭弥は答えた。
鉄道のコレクションを収納するために、昔の家より少し狭いと思って広げてあるが、この世界では狭いらしい。
「もう少し広くしては?」
「十分だろう」
自分の寝室と書斎に、執事のセバスチャン、メイドのロザリンドさんの部屋を設けてリビングとダイニング、キッチンが付いている。更にコレクションを入れる倉庫に物置、十分な容量だと思う昭弥だった。
「これで大丈夫だよ。詳細設計の方に回して」
「解りました。あちらこちらに設計を見せて承認を得たり修正を行うことになりますが」
「そうなの?」
昭弥が頭に疑問符を浮かべた。
「何でそんなことを」
「貴族の社会では、爵位に応じて使える材料や構造などが決まっているんです」
「めんどくさいね」
昭弥は他人事のように言ったが、日本でも江戸時代に武士や農民の家の構造や様式を制限するようにしていた。格に応じて門構えも違うし、構造も違う。更に使える装飾も制限されていた。
「まあ大丈夫だと思うけど」
最小限の家の内容であり引っかかるようなことは無いと昭弥は考えていた。
「では、宮内府の内匠寮に見せてきます」
「なんだいそれ?」
「建物の建設や修理を行う部門です。貴族の屋敷の監修や設計も担当しています」
「面倒だね」
「そういう物なんです」
数時間後、改めて引かれた設計を見て昭弥は、固まった。
頬をつねったり、手の甲をつねったりして現実である事を確認。席から離れて、身体を動かしたり、伸ばしたりして気分転換。部屋の中をうろうろして現実逃避して、心身を整えたあと、再び設計図を見た。
やはり先ほど渡した設計図とは違う。
「セバスチャン、これは何だ」
昭弥は改めてセバスチャンに尋ねた。
「社長の家の設計図です」
「当初の一〇〇倍くらいに拡大しているんだけど」
敷地が広がり、床面積も広がっている。立っているのはベルサイユ宮殿とまでは行かないが東京駅の丸の内駅舎ぐらいの大きさの屋敷を中心に何軒も建っている。
「どうしてこんなに大きくなっているんだ」
「それぐらい必要なんですよ」
「なんで」
「あなたが、公爵にして、社長にして、大臣だからですよ」
セバスチャンは答えた。
「必要か?」
「ええ、あなたの寝室にリビング、書斎、トイレ、私の他にも使用人が居ますから、彼らのための建物、客を迎えるためのダイニングとゲストハウスに歓迎式典を行う大広間、公爵領の管理のための部屋に、大臣執務のための部屋も必要です」
「そんなに必要!?」
昭弥は一つ一つ尋ねた。
「まあ、君にも離れが必要だと思うし、他にも大勢、オーレリーとかロザリンドさんが居るから使用人のための棟は必要だね。けど公爵領の管理事務所って何?」
「文字通り、公爵領を管理する人達のための部屋です」
「現地にあれば良いだろう」
「王国政府への取り次ぎも有りますから、王都に事務所になる場所も必要です。それに他の貴族領との交渉もありますから、王都の方が便利なんです」
「秘書の部屋って何?」
「文字通りです」
「一〇部屋以上あるけど」
「十人以上も秘書がいるでしょう。彼女たちが必要と言ってきましたから」
「社員寮じゃだめ?」
「各部族から個人的に預かっているような物ですから、ご主人として離れたところに住まわせるのは扱い方としてどうかと」
「奴隷のように扱うのはどうかと思うけど、一つ屋根の下もどうかと思うが」
「手出しする気なんですか」
「しないよ!」
昭弥は叫んだ。この方面から文句を言うのは、不利だと思い攻め口を変えた。
「迎賓館って何」
「遠方からの客人を迎えるために必要です」
「ゲストルームは?」
「数十人単位で来ることもありますから」
「豪華すぎない? 特に一部屋がやけに大きいんだけど」
「陛下も行幸したいからと」
「って、ユリアさんが来るの。と言うより、なんで来ることが確定して設計図に入っているの。と言うより、皆どうして設計図に入れられるの」
「あの設計図を関係各所に渡したら、自分たちに必要な部屋や規模を入れていったんですよ」
「何で王国の方も回っているの」
「王国から提供された土地ですからね。内匠寮でどのように建物を建築するかチェックします。不備があれば設計を修正します」
「修正というレベルじゃ無い」
完全に新規作成だ。
大金持ちとか貴族が時折、小さな別荘や邸宅を持つ理由が解ってきた。こんなあちこちから要求されるのでは、自分の空間など持てない。自分だけの空間を作るために作っているのだろう。
「と言うより、建てられるの? そんな費用あるの」
「内装とか最小限にしているので格安で済むと思いますけど」
「幾らだよ」
「こちらに見積もりが」
と言って書類を昭弥に渡した。
「ゼロ多すぎない?」
「収入は十分でしょう。借金も出来ますでしょうし」
「改造された自分の家の為に借金とか嫌だな」
「そんな物でしょう」
「何とか修正できない?」
「無理です。それと建物の建築について話したいからと王城より至急登城せよと命令が来ています」
「今度は一体何なんだよ……」
ウンザリした気分で昭弥は王城に向かった。




