第三章外伝 宴2
「ゆ、ユリアさん」
振り返ると、肩を掴んできたのはユリアだった。
「昭弥」
ただ、いつもと雰囲気が違っていた。
目が据わっていて、怖い。
どういう事か周りに聞こうと見回してみると、先ほどまでいた大勢の参加者が皆いなくなり、大広間に昭弥とユリアだけが残っていた。
「何故」
と、手元を見るとラザフォード公爵の娘で、ユリア付のメイド、昭弥の義妹若しくは技師のエリザベスの書き置きが残されていた。
ユリアはウワバミですが炭酸で簡単に酔います。酷い酔いようなので後は任せます。骨はきちんと拾います。
「まじ……」
と思った瞬間、肩を掴まれた。
「昭弥」
据わった目でユリアに睨まれて昭弥は固まった。
「付き合いなさい」
「あ、あの。酒は一寸」
「白が好みなようですね」
「は、はい……」
思わず正直に答えてしまった。するとユリアは傍らにあった白ワインの瓶を取ると口にくわえラッパ飲みを始めた。
「ちょ、それは……」
止めようとしたが先ほどまでのウワバミを見て、大丈夫だと思ったが、この状態で平気なのか心配になった。
ギッ
だが、声を掛けた瞬間睨まれて黙り込んだ。
口に含んだまま、頬を膨らませた姿は可愛いのだが、眼光の鋭さは怯えさせるに十分だ。
「あ、あの、何をする気ですか」
「ほうふる」
口に含んだまま言うと、ユリアはいきなり昭弥に口づけをして、口移しで昭弥に飲ませた。
「飲んだ?」
「は、はい……」
「何か食べさせて」
「いや、この状態だと」
首にしがみついたままの状態では、取りに行けないのだが
「離れて貰いたいのですが」
「このまま運びなさい」
「でも……」
「いや、いや、このまま、運んで、はこんで」
昭弥に密着した状態のまま、ユリアは叫んだ。同時に魔力も周囲に飛んで大広間の照明やら、装飾やらが吹き飛ぶ。
「わ、解りました。しますよ」
そう言うとユリアの魔力暴走は止まった。
ホッとした昭弥はお姫様だっこの要領で、料理のあるテーブルまで行き、ゆで卵のスライスの載った小さなパンを取ってユリアの口に運んだ。
「はい」
「あーん」
小さな口を開けて食べると、もぐもぐ顎を動かして飲み込む。
「もっと」
「え」
「もっと、もっと、もっと!」
「わ、わかりました!」
再び魔力が暴走したので、昭弥は宥めて次の料理、スープをスプーンに掬って飲ませた。
はじめは、おっかなびっくりだったが、そのうちまるで子犬に飲ませるようで凄く可愛い。
「昭弥!」
「は、はい!」
いきなりユリアが叫んで、昭弥は驚いた。
「私はあなたに言いたいことがあります」
「は、はい」
「あなたは、いつもの逃げてばっかりです!」
「え」
いや、いつも鉄道の仕事をしていうるのだが。
「いえ、逃げている訳では……」
「じゃあなんでいつも離れているんですか」
「いや、遠隔地の仕事があって」
「女性を作る仕事ですか」
「違います」
「じゃあ何でいつも女性を侍らせているんですか」
獣人の女性秘書の事だろうか。
「あれは各部族から友好の証として」
「そう言って貰って置いているんでしょう」
「違います」
「じゃあ、送り返して」
「いや、無理ですって」
貰った物を返すのは礼儀違反だ。この場合人というのがアレだが、同じ事だ。
「居て欲しいから?」
「違います」
「じゃあ何で」
「それは……」
ユリアに言われて昭弥は言葉に詰まった。
何故と言われたら鉄道のためだが、何故鉄道を作るのか問われると昭弥は答えられ無かった。
「しっかりして下さいよ。昭弥は救世主なんですから」
言葉に詰まっているとユリアが昭弥を急かした。
「いや、それは違うでしょう。僕じゃ無くてユリアじゃ? ユリアは勇者の血を引いていますし」
すると、ユリアは昭弥の両頬を両手で押さえて言った。
「私の勇者は……あなた……です……」
「ゆ、ユリア……さん……」
返答しようとしたが、そのままユリアは昭弥の胸に崩れ落ち、寝息を立てて寝てしまった。
「はあ」
安堵か、惜しいのか、溜息を出して、ユリアを寝かしつけることにした。
離れていたところにいたエリザベスに来て貰って寝室に連れて行って貰おうとしたが、ユリアが昭弥の服を握ったまま話さずそのまま連れていくこととなり、一晩過ごすことになった。
尚、昭弥とユリアの間に何も無かった。
翌日、ユリアが自分が昭弥の服をずっと掴んでいることに気が付いて、顔を真っ赤にして離し、しばらくの間、ユリアの方が昭弥を避けていたとエリザベスは語る。




