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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部 第三章 車両戦争
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第三章外伝 宴1

時系列が無茶苦茶になっていますが外伝と言うことでご容赦を。

ただ単にこんなユリアを書いてみたかっただけです。

 新年を迎えたある日、王城の大広間にて新年を祝う宴会が行われた。

 数が少なくなったとは言え、王国の貴族、閣僚、上級官僚、大手商家、企業経営者、軍人など王国の有力者が参加している。

 勿論昭弥も鉄道大臣、鉄道会社社長、チェニス公爵の肩書きがあるので参加している。


「新年を祝って乾杯!」


「乾杯!」


 全員が杯を持って女王の唱和と共に祝った。

 昭弥も杯を持って祝う。

 一応、この世界に来て結構立つはずだし、日本の法律も異世界では適用されないだろうと思い酒を飲んでみた。


「苦っ」


 初めて飲んで不味そう思った、舌が痺れるような感じがする。

 エール、ビールの一種は苦みが先に来て厭だな。

 赤ワインを飲むと渋みがあって、苦手だ。

 白ワインの方がまだ飲みやすく、まあ飲める。

 ただ、蒸留酒の方はキツい。口の中が燃えるような感覚だ。意を決して飲み込むと、喉が焼けるように燃えながら喉を通り、食道を通過している様子がハッキリ解る。

 胃の中に到達すると胃袋の中が、ボイラーとなり、食道が煙突になっているように熱い。

 酒というのはこんなにキツいものなのかと思う。そのため、飲むのは最小限にして白ワインを中心に飲もうと思っていた。


「やあ、昭弥卿」


 だが、そうはさせまいという貴族達がやって来た。


「是非、我らと飲み比べを行いませんか」


「飲み比べ?」


「ええ、どちらが酒を飲めるか競うんですよ」


「え……」


 外国とかだと限界まで飲んで誰が最後まで正気でいられるかという勝負が有ると聞く。

 そんなことをさせる気か。


「まさか我らの酒が飲めないと」


「男なら飲み比べを避けることなどあり得ませんな」


「さあ」


 彼らの目が本気だった。怨嗟と嫉妬の炎に彩られた目はやれと強要している。

 鉄道で富を築いているのと、彼らの領地経営が鉄道で危うくなっていることからの嫉妬と怨嗟か。


「楽しそうですね」


 と、聞き慣れた声が響くと場に緊張が走った。


「へ、陛下!」


 宴会の主催者であり、この王国の最高権力者ユリアだった。


「ご、ご機嫌麗しゅう」


 貴族達が明らかに狼狽している。


「何やら飲み比べを行おうかと」


「い、いえ、そんなことは」


「あ、はい、飲み比べをしないかと」


 ごまかそうとした貴族の言葉を昭弥は訂正した。恨みがましい視線が向けられるが、昭弥はしれっとしている。


「あら、そうでしたの」


 ユリアは、穏やかな笑みを湛えていたが、禍々しい物だった。何しろ目は笑っていない。獲物を見つけた肉食獣の瞳だ。


「なら私も混ぜて下さい」


「ひっっ」


 貴族達は目に見ても解るほど狼狽している。

 ユリアは酒乱なのだろうか。だとしたら不味いことになりそうだ。昭弥は無意識に一歩下がった。


「いや、陛下に飲み比べなど」


「ルテティア貴族が、飲み比べを避けるなど、あるのでしょうか」


「ま、まさか……」


「では、始めましょう」


 そういって、エールのジョッキを用意させると、蒸留酒を注がせ始めた。

 酒瓶が継がれる度に、貴族達の顔から血の気が引いてゆき、土気色になっている。医師なら体調不良で即寝るように指示するだろうが、ここにそんな人はいない。

 満杯になったジョッキを手に取ったユリアが貴族に迫る。


「さあ、始めましょう。あ、まずは私から」


 そう言って、ユリアはジョッキを飲み始めた。ジョッキの傾きが徐々に増し最後には垂直に近い角度になって飲み干した。


「ふう、今年の酒の味は中々宜しいようで」


 そう言ってケロッとしている。勇者は肝臓も特別製なのだろうか。


「あ、昭弥卿の代打を行いますので、もう一杯飲んでおきましょう」


 そう言って、ユリアは二杯目を手に取ると一杯目と同じように飲み始め。


「ぷは」


 飲み干した。


「さあ、次は卿らの番ですよ」


 先ほどと変わらない笑顔で、ユリアは蒼白になった貴族達に迫った。




「頼りない方達ね」


 完全に潰れた貴族達を指してユリアは言う。

 ちなみに彼らは一杯目を飲んだ時点で潰れてしまった。その後の状況は余りに酷いので割愛させていただく。

 ただ、昭弥に酒の強要は絶対厳禁と決意させるだけの惨事だったことは確かだ。


「大丈夫ですか?」


「は、はい」


 昭弥は素直に ユリアに感謝を述べることにした。


「本当に助かりました」


「この国の慣習にまだ慣れていないでしょうから代わりに。出過ぎた真似でしたでしょうか?」


「いえ、助かりました」


「そう、でしたら良かった」


 ぱっ、とユリアの顔に笑顔が咲いた。昭弥の役に立ったのが嬉しかったのだろう。

 ただ、その笑顔がもたらされた経過を知る昭弥にとっては、冷や汗が出る物なのだが。


「そうだ、飲み疲れていませんか。宜しければこれを」


 そう言って昭弥は透明な液体の入ったグラスをユリアに渡した。


「これは?」


「ウチの会社の新商品です」


 そう聞くとユリアは、喜んで受け取って、飲み始めた。


「中々、良い雰囲気のようだな息子よ」


 そう耳元で話しかけてきたのはこの国の宰相であり、昭弥を俺の息子宣言したラザフォード公爵だった。


「いきなりやめて下さい」


「ははは、玉なしで度胸が無いと思っていたが、ようやく進展しているようだな」


 言われて昭弥は顔が赤くなった。同時に、公爵を睨み付けた。

 この人はいつも飄々としてとらえどころが無いが、いつも昭弥とユリアを見てからかっている。反撃しようにも飄々と逃れていく上、反撃の好きを与えない。

 何時か狼狽させてやろうと、昭弥は決意していた。


「ところで飲んでいるのは、なんだね」


「ウチの新商品です。あ、どうぞ。試して下さい」


「ほう、見たところ普通の水だが、何だね?」


「サイダーです」


 砂糖水に二酸化炭素を入れて作り上げる簡単な炭酸飲料だ。二酸化炭素消火装置の開発ついでに作り上げたのだ。旧帝国海軍では消火装置を使ってサイダーを作り乗員の嗜好品にしていたという話を昭弥は聞いており、自分でも行う事にした。炭酸の弾ける清涼感をお客様に提供したいと思って製造し、試作品がこの前で来たばかりだ。

 この会場でお披露目と試飲を兼ねて持ってきたのだが。


「ぶはっ」


 飲んだ瞬間、公爵が吐き出した。

 突然のラザフォードの狼狽に昭弥は驚いた。見たいとは思ったが、いきなり見られるとは思わなかった。

 しかし何故、狼狽する。炭酸の刺激が強すぎたのか。炭酸の刺激が初めてだからか?

 いや、ビールがあるから慣れているはずでは。


「昭弥卿」


 ラザフォード公爵は、直ぐに普段の平静を取り戻した。いや、目には恨みがましい、あるいは憎悪の含まれた視線が昭弥に向けられていた。


「は、はい」


 あまりの迫力に昭弥は気圧される。

 まるで核ミサイルの発射ボタンを押した相手に向けるような視線を昭弥にラザフォード公爵は向けてくる。


「昭弥卿、大人というのは自分の行動に責任の取れる者だと思うのだが」


 そして、肩をがっしりと掴み、逃さないようにして脅迫するように言う。


「は、はい、そう思います」


 あまりの迫力に昭弥は気圧され反射的に答える。


「知らなかったから仕方なしと言って逃れるのは無責任だと思わないか?」


「そう思います」


 これはハッキリと言った。

 暴言塾オーナーと発覚して塾を辞めた後、何故あんな塾に入れたのか母親を問い詰めたら、知らなかったんだからしょうが無いでしょう、素人に塾選びなんて無理でしょう、といって逃れたのを見て、そんな醜態は曝さないようにしようと決めた昭弥だ。

 ラザフォード公爵の言葉には激しく同意する。


「ならば、きちんと取って貰おう」


 その瞬間、ラザフォード公爵は手を放し、回れ右をしてサッサと大広間から出て行ってしまった。中座するのは失礼に当たるのではと思い追いかけようとしたら、いきなり背後から肩を掴まれた。

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