建設開始
建設を開始した昭弥。無事に建設できるか視察に向かう。
シャイロックとの会談から一月後。
王立銀行設立が宣言され、同時に王国の主要商家が設立した銀行も承認され定額為替、事実上の紙幣を即日融資。
そして、時を同じくして設立された王立鉄道会社に融資された。
資本金は、王家から出されているが、それだけでは足りず、銀行から融資されたのだ。
「よし、工事開始だ!」
王城の準備室改め、王立鉄道会社仮本社で宣言した昭弥は、建設計画を開始した。
鉄道会社の計画は二つ。
セント・ベルナルドからコルトゥーナまでの改軌と複線化の改良工事。そしてコルトゥーナから王都を経由してルビコン川に沿ってオスティアまで新設する敷設工事だ。
途中、幾つもの河川を通過するため、架橋する必要があるが困難な仕事ではない。
「凄い計画ですね」
「ああ」
「でも大丈夫でしょうか?」
「何がだい?」
「王都の南とはいえ、コルトゥーナ川の南岸。王都の間には川があるので不便ですよ」
「王都近くのコルトゥーナ川では川幅が広くて橋を、短期間で架けることが出来ないからね。南岸に駅を作ってその周りに町と港を作る必要があったんだ。それに工房の場所を作らないと」
「オスティアも問題ですよトラヤヌス港とは対岸ですから」
「そこも新しい港を作れば良いんだよ。トラヤヌスは古くなって使いづらそうだったし、新たな港を作って効率的に運用出来るようになれば万々歳だ」
「なるほど」
セバスチャンは感心した。
「さて、仕事が上手く行っているか確認しに行くよ」
「はい!」
二人が早速向かったのは、セント・ベルナルド。
ここからコルトゥーナまでの改軌が最優先事業と位置づけられていた。
「何しろ、現在資材の殆どは帝国から来ているからね。直接運び込めないと経費がかかりすぎて、問題だ」
「そうですね。けど、予め運び込んだのはレールと木材と小石ばかりですけど」
昭弥が運び込ませたのはセバスチャンの言うとおり、木の角材だった。セント・ベルナルドのみならず、コルトゥーナ川周辺からも木を伐採させるなどして調達させたのだ。
「木は枕木に使うんだ」
「枕木?」
「レールの下に敷くんだ」
「石じゃダメなんですか?」
「緩みやすいんだよ。木だったら、緩みにくいし加工も簡単だ。安く大量に手に入るしね。王国にも金が落ちるから良いでしょう」
「なるほど。石はどうして?」
「石はバラストだ。機関車は結構重量があるから、重さを分散させるために石を敷き詰めてあるんだ。これなら土手に枕木が沈み込むのを最小限に済ませることが出来る」
「考えているんですね。けど、お陰で王国鉄道で運ぶ荷物の殆どがここ数日枕木とバラストでしたよ」
「元から運ぶ荷物が少なかったから思ったより早く済んで良かったよ」
「そう思うことにしましょう」
セント・ベルナルド周辺では、大規模工事が行われていた。
元々広い操車場だったが、規模を倍くらいにする勢いで工事が進んでいる。
「何でこんな工事が必要なんですか?」
「帝国から来る列車を受け入れたり、送り出すために必要なんだ。多分、ここで峠を越すための列車が大量に待たされることになる。だから大規模な操車場が必要だ。ここ以外にも作る予定だ」
「他にも作っているんですか?」
「峠がボトルネック、輸送量を制限しているからね。ここに溜まりやすいと考えているからね」
「それだけ多くの列車が来るんですか……」
「結果的にね。将来的にはアルプスを越える鉄道路線がさらに必要になるよ」
「先の事も考えているんですね」
「ああ、だけど今は、この計画を達成しよう」
自信満々に昭弥は言ったが、工事現場を見た瞬間、驚きのあまり絶句した。
「何じゃコラ」
見上げるような人間、成人の三倍くらいか、まさしく巨人がツルハシとシャベルを持ち土を運んでいた。
「巨人族の人達ですね。こういう大規模な作業には活躍して貰っています。土手作りが得意なんですよ」
「そのようだね」
土手は兎に角、土を運んで埋め立てる仕事だ。
人一人が運ぶ量は少ないが、巨人なら何倍も運べるだろう。
「これなら早く済みそうだね。改軌の方は上手く行っているかな?」
続いて向かったのは改軌の現場だった。
今度は逆に、体躯の小さい、昭弥の胸程度しか身長のない小柄な人達が息を合わせてレールを動かし、枕木を石から木に変えていた。
「ドワーフの人達です。細かい作業とか土木工事が得意です」
「そのようだね」
まあ、レールを一度外し、バラスト石を敷き詰め、枕木を交換してレールの幅を改めるだけだ。
人数が居れば、一時間ほどで終わる作業だし、ドワーフの人達は非常に手早く動いている。問題は無い。
一方大変なのは、複線化だ。
これは土手を広げる必要があるため、巨人族の人達でも土を運ぶのに時間がかかるし、運んだ土を固めなければならない。
鉄道というとレールの上を走る列車に注目が集まるが、むしろ鉄道で必要なのは列車が走るレールとそれを支える土木工事が大きい。
実際、鉄道の建設費の大半は車両ではなく、土木工事の費用だ。新幹線の建設でも車両費は三パーセント位であとは、土地の購入費や高架、トンネルの建設費だ。
「賃金の支払いや資材の支払いは問題ないかい」
「はい、各工事区に十分な資金が投入されています」
王立銀行や鉄道銀行から潤沢な資金が供給されている。遅滞なく流れているのでいくらでも供給できる。
「支払いは着実かつ正確に行ってくれ。少しくらい高めに払っても良いけど、予算内に納めてくれ。そのためにすこし多めに計上しているんだからね」
「ええ、各担当者に伝えておきます」
必要な指示を終えてから、昭弥は呟いた。
「期日に間に合いそうだね」
「ええ、改軌は一週間後に終わります。コルトゥーナまで通じれば、セント・ベルナルドまで運び込んできたレールを運び込みコルトゥーナ川の川船に乗せることができますので、全線での工事が可能になります」
「一気に作業が進むね」
「王都までは単線ですが三ヶ月で完成。更に三ヶ月後にはオスティアまで単線が完成します」
「凄まじい速さだね。やっぱり巨人族のお陰かな。工事の記録を見たときは目を疑ったよ。でもレールは簡単に敷けるけど橋の建設には時間がかかるね」
「はい、建設期間の大半は橋の建設にかかっています」
建設期間短縮、建設費短縮のために川の土手を利用して建設しているが、川の合流部が多く。これらに橋を架けなければならないので、時間がかかる。
「時間がかかるのは仕方ないね。でも、内陸部に作るより早いはず」
土地の収用や地質の調査などを考える必要が無いので期間を短縮出来るはず。
それに橋の建設は王国では盛んだから、皆手慣れているはずだ。
「それでもこの建設期間は早すぎないか?」
「そうでしょうか? 普通ですよ」
普通なら数年、最短でも数ヶ月かかるはずなのに三ヶ月ほどで完成させてしまうのは、異常だ。
土木機械が発達していない、この世界でどうやって川に基礎工事をしているんだ。
だが、記録を見る限り、街道に橋を建設する際、三ヶ月で完成させている。
「実際見れば納得しますよ」
次に向かったのは、橋の建設現場だった。
そしてセバスチャンの言うとおり、昭弥は絶句した。
「カッパか……」
肌が鱗で覆われ、銀色に輝くカエルのような生物を見て昭弥は尋ねた。
「彼らは半漁人達ですよ。水中に潜れるので、くい打ちとか石積みとかをやって貰っています」
「そりゃ簡単にできるね」
水中で何の道具もなく、作業が出来るのだから早い。
これで出来なければ詐欺だ。
続いて昭弥が向かったのはラザフォード伯爵領だ。
ここも鉄道が通る予定であり、駅や線路の建設作業が急ピッチで進んでいた。
昭弥の調査で瀝青炭が大量に眠っていることがわかり、先日創立した石炭会社が採掘を行う予定になっている。
既に試掘がはじまっており、分布を見てから施設を作って運び出す予定だ。
「こちらも工事が進んでいるようだね」
「はい、あとは採炭場を造って川船を通す水路の建設で、まもなく開始されます。けど必要ですか?」
「何が?」
「石炭ですよ。こんなに必要なんですか? 蒸気機関車にはサラマンダーで十分では」
「いや、サラマンダーは数が少ないし動物だから体調で左右されてしまう。燃えるだけの石炭が必要だ」
「でも、この石炭は硫黄が多くて煤が付きますよ」
「いや、蒸気機関車にはドネツの無煙炭を使う」
そちらにも施設を作って試掘を行わせていた。
「じゃあ、どうしてラザフォードの石炭を採掘するんですか?」
「レールや機関車を作るためだよ」
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