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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部 第三章 車両戦争
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お召し列車合戦2

本日は、夜にも投稿予定です。

お楽しみに

 王城から戻ってきた昭弥は、早速臨時の取締役会を開き、お召し列車の製造を宣言した。


「さて、女王専用列車の製造を行いますが……その前に良いですか?」


「なんや?」


 昭弥に視線を向けられたサラが答えた。


「何、ニヤニヤしているんですか?」


「いやあ、昭弥はんもやっぱ男やった、と思うとるところや」


「……なんか失礼な事を考えているようなのですが、無視して進めることにします」


「そうやな。で、どうするんや?」


「単純に豪華な車両を作りますね。豪華な装飾、高価な宝石や彫り物、家具を置いて、豪華にします」


「そうなるやろうけど、それで勝てるんかいな?」


「高速線用の列車は吹き抜けを設けて、シャンデリアを作りましょう。で、舞踏会が出来る様にしておけば、良いんじゃないですか」


「……凄く豪華そうやな。でも、豪華な装飾のアテはあるんかいな?」


「それはサラさんに任せますよ」


「うちかい!」


「私はそういうことに疎いので、サラさんの方が適任です」


「まあ、昭弥はんはそういうことに疎いやもんな」


 鉄道会社本社屋の装飾をどうしようか頭を悩ませ、結局サラに丸投げした前歴が昭弥にはあった。

 元商人であり、高価な家具や装飾の取り扱いも行っていたサラに頼むというのは、理に適った行為だが、ここは昭弥がやるべきでは無いかと思うサラだった。


「まあ、ええわ。けど、帝国の方が質がええのは覚悟しておいてや。帝室直轄の工房の腕が宜しゅうて、太刀打ちできへんや。で、昭弥はんは何をするんや?」


「ああ、私は仕掛けを用意しますよ」


「仕掛け?」


「装飾が劣ることは知っています。ならば他の方法で相手を凌駕する以外に方法はありません」


 そういって、昭弥は何らかの準備を始めた。




 少し気温が高くなった陽気のある日、皇帝が王都に行幸してきた時を狙ってユリアは、自分の専用列車のお披露目を行った。


「この度は私の列車に御行幸していただき、誠にありがとうございます」


 じんま疹が発症しそうになるのを、精神力で押さえつけ、極上の作り笑いを浮かべて、ユリアは皇帝フロリアヌスを自分の列車に迎えた。


「うむ、新たな列車を作り上げたというのは、めでたいことだ」


 一方のフロリアヌスも歯が浮くのを抑えるのに必死だ。

 互いにそれが白々しい上辺だけの挨拶でしかない事を知っていた。


「では、ご案内いたしましょう」


 そう言って、ユリアは先導して列車のあるホームに皇帝を案内した。


「これは……」


 階段を上がりきるが、そこに列車は無かった。


「どうしたのだ、列車が消えたのか?」


「間もなく参ります」


 その時、ホームの先から列車がやって来た。


「!」


 徐々に近づいて来る列車に皇帝は驚いた。

 まず始めに驚いたのは、その大きさだった。

 帝国鉄道の列車を遙かに上回る大きさ、高さだけで二倍くらいある。

 動輪が六つもある、巨大な機関車がゆっくりと構内に入ってくる様も、まるでモンスターが現れたような錯覚を覚える。

 そして、それが引く客車も目を引くものだった。

 色も皇族とそれに連なる王族のみに許された紫色の車体に金銀の装飾が施され綺麗だった。

 何より、驚いたのは列車が目の前に止まったことだった。予め自分が立っていた場所に、きちんとドアが来るように止まったことに度肝を抜かれた。

 列車の停止位置など適当で、バラバラなことが多い。にもかかわらず、列車はきちんと目の前に止まった。

 そのことに皇帝は背中に冷や汗を感じた。


「いかがでしょうか」


「うむ、大きい列車だな」


 気取られること無いよう、皇帝は淡々と言った。


「では、こちらへどうぞ」


 ユリアに促されて中に入ると、フロリアヌスは再び絶句した。内部が非常に豪華なのだ。

 吹き抜けの天井に、半球形のシャンデリア。根本は天井に固定され、球面に沿って金の装飾に嵌め込まれたガラスが輝き、部屋を照らしている。

 部屋の大きさも広く、大きなテーブルに椅子が並び晩餐会が出来るほどだ。


「ふ、ふむ。中々の装飾ではないか」


 大きさに少し圧倒されるが、まだ驚くほどの事では無い。


「他にも様々な設備がございます」


 そう言ってユリアは、内部を案内した。

 自分お部屋にゲストルーム、大浴場、サロン室。

 どれも豪華で設備も良かった。あまりの豪華に皇帝が色を失うほどだ。

 だが、まだ十分挽回できる。豪華なだけでこれなら帝国でも直ぐに出来る。

 そう言い聞かせて平静を保った。


「では、一度戻りまして昼食といたしましょう」


 そう言って再び先ほどの吹き抜けの豪華な車両に戻った。

 一同が席に座った瞬間、列車が走り始めた。このまま試運転走行を行い、乗り心地を確認する。

 発車の衝撃は少なく、走行中の揺れも少ない。

 安定した走りは設計が良い証拠だ。

 フロリアヌスの額から冷や汗が流れる。


「お暑いですか陛下?」


 ユリアが話しかけた。


「まあな、今日は少々、陽気が良いからな」


「ならば涼しくいたしましょう」


 ユリアが、そう言って乗務員に話すと、直ぐに彼は脇に下がり何かのスイッチを入れた。

 そして、周りで風が吹くのを感じるとそれが涼しいことに皇帝は気が付いた。


「なっ」


 風が吹き付けた事による冷たさでは無く、明らかに空気自体が冷たい。それも外気を冷やしたものではない。

 妖精や魔法を使って冷気を出しているのだろうか。

 だが、呪術師や魔法使いが居る様子はない。


「いかがでしょう。我が王国鉄道会社の最新式冷房装置は?」


「冷房?」


「はい、蒸気機関を利用して作られた冷房装置です。いつでも涼しい風を送ることが出来ます。魔法使いや呪術師がおらずとも冷風を出すことが出来ます」


 自信満々にユリアが言うと、フロリアヌスの背中に滝の様な冷や汗が流れた。




「ぎゃふんと言わせることが出来たかな」


 傍らに控えていた昭弥は二人の様子を見て、独り言を言った。

 クーラーと言うより、蒸気機関で出来た高圧蒸気を冷やして、噴出させて熱を吸収するタイプで、冷媒を使う現代のクーラーとは違う。

 適切な冷媒を入手できなかったためだが、まあ、使い物にはなっただろう。

 快適に過ごせるように取り付けた。熱いときに涼しい風を送ることが出来ることは驚きのハズ、これなら下手に真似できず、皇帝は度肝を抜かれるはずだ。

 だが、それにしては驚きすぎだと思うのだが。

 まあ、ユリアの求めた帝国全体を冷やせないかという要望は却下させて貰った。熱力学的に不可能であり、無意味だ。精々、車内を冷やす程度だ。

 しかし、皇帝の顔色が悪いのが気になる。寒すぎるのか、温度調整が必要なのか考えていたが、思考を中断された。


「まさか協力するとは思いませんでした」


 ユリアのお付きのメイドであり義妹か義姉のエリザベスが話しかけてきた。


「なんで?」


「いえ、大衆のために鉄道を提供していると思っていましたから。このような豪華な車両を作るのは金と労力の無駄だと断ると思っていたので」


「作りすぎることはどうかと思いますが、この程度は良いと思っています。それにこの後の事を考えますと必要でしたし」


「この後?」


「実は、豪華列車の製造を考えていまして、その試作としてご用意しました」


「……実験に使ったと言うことですか?」


「十分、実用に耐えられるよう実験て設置しました。まあ、実用試験を兼ねていることは否定しませんが、故障の可能性は少ないはずです」


「……専用列車なのに大衆用にするのですか?」


「いや、装飾は抑えますよ。冷房とか揺れの少ない台車を応用するんです」


「必要なのですか」


「生活水準が上がると、平均の基準も上がってしまうので、それに合わせようと思いましてね」


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