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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部 第三章 車両戦争
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除雪車2

「除雪できそうか」


「ダメだ。完全に埋まっている」


 線路を見た保線員達は、絶望に包まれていた。

 膝下までレールが完全に埋まっており、これでは走らせる事は出来ない。

 下手に走らせると行きに乗り上げて最悪脱線だ。


「あまりにも長い路線を保線するには人数が足りない」


 フレデリクスバーグの駅長は、途方に暮れた。これ以上は何も出来ない。

 人員に対して雪の量が多すぎる。


「駅長、本社より駅構内の雪を排除しておくようにとの命令です」


 フレデリクスバーグ駅に配置された連絡員の魔術師が本社からの命令を伝えた


「確かに駅構内ならこの人数でも何とかなるが、意味ないぞ」


「応援を派遣するから受け入れの準備をしておくようにとのことです」


「どうやって来るんだよ。除雪しながら来るのか?」


 引き返すとき、雪が積もって後退できない事態になりかねないのだが。


「兎に角、準備をしておくか。寝泊まりできる場所を用意しておけば良いのか?」


「食料と燃料も運んでくるそうです」


「それは有り難いな」


 とりあえず、駅舎内に寝泊まりできる場所、待合室に空箱を敷き詰めて上に絨毯を敷いただけだが、無いよりマシだろう。それと、駅のホテルの空き部屋、近隣の宿にも部屋を用意しておいた。

 だが、本当にここに来れるのだろうか。


「駅長! 王都の方から何か来ます!」


「応援かな」


「それが、何か変なんです」


「変?」


 ホームに出て、王都の方角を見ると、線路上に何かいた。

 と言うより、何かしている。雪を盛大に線路脇へ放出している。

 いや、雪を一旦取り込んで、脇に放している。


「新しいモンスターか」


 駅長は、駅員に武装を命令しようとしたとき、気が付いた。


「まさか、列車か」


 雪を吐き出している物の背後で上へ黒い煙を上げている。

 断続的に上げている黒い煙の様は、蒸気機関車のそれだ。

 そしてそれは、徐々に近づいて来る。線路上の雪を飲み込み、線路脇へ勢いよく放出している。

 やがて除雪の済んでいる駅構内に入ると、その姿がハッキリ見えた。

 前方左右に大きな板を広げ、真ん中には、白煙を上げながら回転する螺旋状の刃、その背後には、回転する巨大な扇風機のようなローターが付いている。

 その車両の後ろには、D5蒸気機関車が、二台接続されその怪物車両を押している。

 やがて、その車両は広げた板を線路の幅に収め、ホームに入ってきた。


「何だこれは……」


 驚きのあまり、絶句する駅長に答えるように、その怪物車両の扉が開き、中から女性が降りてきた。


「鉄道総合研究所鉄道技術研究所の研究員アンナです」


「フレデリクスバーグの駅長です」


 敬礼したまま、呆けたように駅長は答えた。その意味を理解したアンナは、説明した。


「これは社長が命じて開発したロータリー式の除雪車です」


「ロータリー式除雪車?」


「はい、前にある除雪板で雪を集めて真ん中にあるローターで雪を砕き、背後のローターで遠くへ排出します」


「どうやって動いているんですか?」


「後方の蒸気機関車から蒸気を貰っています。最大で蒸気機関車一台分の蒸気を使って作業する事が出来ます。そのため、除雪動力用の蒸気機関車と推進用の蒸気機関車の二台が必要になりますが」


「白い煙が出ていたように見えますが」


「あれは、除雪動力用に使った蒸気を排出しているんです。それを雪に当てることで、溶かしながら削り、雪を排除しやすくしているのです。ローター軸の中やブレードの縁に蒸気管を作るのは苦労しましたよ」


「は、はあ」


 駅長は流暢に答えるアンナに驚いた。


「大分、この除雪車に入れ込んでいるね」


「はい! はじめて開発に携わった車両ですから!」


「新人なのかい?」


「はい! 元は検査係でしたが、自連交換の後、技術開発部門への転属を志願しました」


「そうか……」


 あの一大作業はここフレデリクスバーグでも行った。

 幸いにも車両数が少なかったこともあり、簡単に済んだが、王都の方は貨車が集中して大変だったと聞く。

 そして、それ以来、技術開発部門に移る人間が増えたという。

 新しい技術が役に立つ事を見て、開発に携わろうという人間が増えていると言うことだ。 アンナという女性もその一人なのだろうと、駅長は思った。


「しかし、大型過ぎて市街地近くなどで使うのは難しいのでは?」


「その通りです。ロータリーの回転を制御することで飛ばないように調整できますが、より狭いところで使うために、雪を線路脇に排除するだけのラッセル車を作ってあります。雪の量が多いと使えませんが、役に立つはずです」


 ロータリー車の背後には斜めに取り付けられた板を装備する車両が待機していた。更に後ろからは多くの列車がやって来る。


「後ろには、応援と救援物資を搭載した列車が待機しています。受け入れお願いします」


「ああ、わかった」


 その後やって来たのは大量の列車だった。多くは南方系で雪を見るのは初めてという職員ばかりだった。大雪で雪の降る範囲が広くて、雪かきの経験のある場所は自分の持ち場を守るだけで精一杯で、雪を見たことのない人間を呼ぶしか無かった。

 だが、人手の必要な今は貴重な戦力だ。

 それに雪かきはコツを教えれば、十分な戦力になる。

 駅長は指示を出して除雪を始めた。




 まれに見る大雪だったが、王国各地から鉄道員をかき集めて北方へ投入し、全力の除雪を敢行し、混乱を収めることに成功した。

 数日後には吹雪も収まり始め、人員の大量動員という事もあり、線路は徐々に開通していった。




「王国鉄道が再び動き始めたぞ。もっと吹雪を与えられないか」


 皇帝は王国鉄道の復旧を聞いて宰相に更なる吹雪を起こすように命じたが


「無理です。呪術師達は連日の詠唱により既に疲労困憊です。これ以上の詠唱は無理です」


 幾ら優秀な呪術師を多数抱えていても彼らの人数には、限りがある。

 その彼らをずっと酷使を続けるのは無理だ。


「王国鉄道の連中は、雪をものともしないのか」


「大量に人員を集めて投入しています。また新しい車両を投入して排除しているそうです」


「そんな子供だましで上手く行くのか」


「しかし、数を揃えることが出来ます。素人でも戦力になりますし、車両も直ぐにいくらでも投入できます」


「忌々しい」

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