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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部 第三章 車両戦争
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除雪車1

3/18文章追加、誤字修正

明日は朝八時台に投稿します。

 ルテティア王国に冬が到来した沿岸部はともかく、内陸部は非常に冷える。

 特に北方は零下二〇度近くに達し、ありとあらゆるものが凍り付く。

 こんな季節に活動出来る者など居ないと思われるが、寧ろ北方に住む者にとっては活動期、商売の季節なのだ。

 何故なら地面がガチゴチに凍るため、普段泥濘となる場所が広く平坦な動きやすい大地になる。

 強烈な風は、動力源となり橇に帆を付けて雪原若しくは氷上を滑走出来る。

 商品を運ぶのも便利だ。

 作物は凍って天然の冷凍食品となり腐る事はない。

 魚も釣った瞬間に凍り、そのまま運べる。

 彼らは南に運ぶため鉄道駅に向かっていった。

 鉄道はこの商機を逃さず、臨時の貨物列車を走らせている。

 鉄道は元々雪などに強い。軟弱で泥濘となる道を必要とせず鉄のレールの上で立ち往生することは無く、進むことは出来る。

 流石に、車体が埋もれる程の雪は無理だが、それ以下であれば簡単に走れる。

 だが、今年の冬は違った。

 強烈な大雪により車体が埋まるほどとなった。


「今年の冬は異常です。腰まで積もっていますよ」


 セバスチャンの報告に昭弥は、重々しく頷いた。

 鉄道管理局から一部列車に運休、線路の閉鎖がもたらされている。

 彼らに食料や必要な物資を運ぶ鉄道を動かしたいのだが大雪とは。

 建設前に降雪量について聞き取りだが情報を集めてきた。鉄道運転に支障のない範囲のハズだった。


「どうしてだ」




「ルテティア王国は大雪により混乱しているようです」


「そうか」


 帝国宰相ガイウスから報告を受けた皇帝フロリアヌスは頷いた。


「呪術師一〇〇人に大雪を降らせた甲斐があったな」


 帝国では異常気象を防ぐ為に気象を操る呪術師集団を有している。

 通常は日照りの土地に雨を降らし、大雨のとき軽減する呪術を行う。

 下手に干渉しすぎると後々異常気象となるので、最小限の介入を行う訳だが、それを無視すれば大雪を特定の地域に長時間降らせることも出来る。

 今回は遠隔地に長時間、広範囲に降らせるために一〇〇人ほど動員している。お陰で帝都から、激しい暴風雪をルテティア王国北方に降らせることが出来た。


「さて、これで王国の経済は崩壊するだろう」


 皇帝はニヤリと笑って、ユリアが破滅する姿を想像した。




「北方の支線はもとより幹線は潰れつつあります」


「可能な限り、列車を走らせてくれ。積もられると厄介だ」


 昭弥は可能な限りの増便を指示した。

 高頻度に列車が通る線路に雪は積もりにくい。そのため一部の会社ではより多くの電車を走らせる事さえする。

 運休に備えて列車を減らせとかいう指示が出るところもあるが、とんでもない話しだった。


「大雪の対策は出来ている。除雪部隊を動員して」


「失礼します」


 入って来たのは首席宮廷魔術師のジャネットだった。


「お困りのようですね」


「まあね」


 昭弥は警戒した。これまでの所行から何か良からぬ事を考えているのだろう。本人は良い考えと思っていても、結果が破滅という事になりかねない。


「でしたら私が良い物をご提供しましょう」


「見返りは?」


 昭弥はジャネットを見つめて尋ねた。


「どういう事でしょう」


「あなたがタダでそんなことを、するはずありません。必ず見返り、研究費をせしめるぐらいは考えているでしょう」


「流石社長、話が早い。簡単ですよ。今作っているトンネルの最下層にある魔法装置を使わせて欲しいのです」


「ああ、あれね」


 現在、アルプス山脈にある大迷宮の中にレパント海とインディゴ海を結ぶ路線を作っている。その大迷宮の最下層に彼女が設置した天然の魔力収集装置が設置されていた。


「あなたに扱わせるのは嫌なんですけど」


「けど、雪の対応は必要でしょう」


「うちでも対応策を用意しているよ」


「私の魔法を持ってすれば、簡単に解決しますよ!」


 昭弥の言葉を畳み込むようにジャネットは言う。


「私の魔道装置に掛かれば雪程度など吹き飛ばしてご覧に入れます」




 採用する機は無かったが、ジャネットがあまりにも五月蠅く言うので、物は試しと実験を許可した。

 ただし、いきなり営業線で実行させる訳にはいかず、鉄道研究所の実験線で試すこととした。


「これが私の魔道装置、強制除雪魔道具です」


 レールの上に乗っかったのは巨大な口を持った車両、昭弥の現代日本の知識に照らし合わせると、ジェットエンジンの排気口を前方に向けた車両だ。

 旧式の貨車の上にジェットエンジンを載せたような感じだ。


「ここから強力な風を生み出して放ち、レール上の雪を強制排除します」


 その説明に、昭弥は悪寒が走った。


「では、スタート!」


 止める間もなく、ジャネットは装置を作動させた。

 大音響と共に前方から風を吹き出しレール上の雪などを排除して行く。余りに出力が高く、前方が真っ白い霧状の物に覆われて見えなくなった。

 よほど強力な、動力装置でも組み込んでいるのか、前に進んでいる。

 だが、昭弥には嫌な予感しかしなかった。




「ふふふふ、大成功。これであの鉄道バカも私の有能さに気が付くでしょう」


 運転室の中でジャネットは微笑んだ。

 魔法装置の魔力を取り出すために、提案したのは本当だ。奪った相手に協力するというのは屈辱だが目的のためには、我慢しなければ。

 とりあえず出来合いの装置を組み合わせて作り上げて動かしているが中々上手く走っている。


「どうだ。鉄道バカ」


 昭弥の方向を見ると喜んでいるのか手を振っている。

 よほど嬉しいのか、それだけでは足りず笛を鳴らしたり、赤い煙を出す花火を上げたり、赤い灯りを付けたりしている。

 これなら研究費を大量にふんだくることが出来る。

 ジャネットが皮算用した瞬間、突然魔法装置が傾き始めた。


「なに?」


 何が起こったのか解らないまま魔法装置は、横転し周囲に部品をまき散らして停止した。




「馬鹿げた物を作り上げやがって……」


 横転した魔法装置の横で、使われた実験線、いや、実験線のなれの果てを見て、昭弥は怒りに震えていた。


「折角の線路が……」


 確かに魔道装置は雪を吹き飛ばした。

 だが、その強い風力は、下のバラストまで吹き飛ばしてレールを宙吊り状態にしてしまい、装置の重量に耐えきれず崩れ、脱線させた。


「警告を全部無視しやがって」


 バラストが吹き飛んでいることを見た昭弥は停止させようと、緊急警笛をだしたり、非常信号花火を出したり、赤い旗を振ったりしたのだが、全部無視して動かした。


「本当に何をしてくれるんだ」


 そこへ、ジャネットがやって来た。


「おい! なんて脆い線路にしたんだ!」


「軸重三〇トンに耐える最高規格の線路だ! それを吹き飛ばしやがって!」


 責任転嫁して怒るジャネットに昭弥は怒鳴り返す。


「吹き飛ぶ線路を作るのが悪い!」


「そんな物走らせる予定などないわい!」


 実際には、旧国鉄が自衛隊から借りたジェットエンジンを載せて似たような事をしていた。最も、その時は吹き飛んだバラストの上を走る事は無かったようだが。

 スラブで作った線路なら大丈夫だったろうが、まだ導入する予定はない。

 と言うより、スラブでも耐えられるか疑問だ。

 それにこんな吹き飛ばす事で雪を排除する列車などよほど寒い土地、北海道とかじゃ無いと無理で本州、特に関東圏は無理だ。

 ディスる訳では無いのだが、何故なら寒さが違うからだ。北海道は寒すぎて水分は全て凍結し、乾燥している。雪も乾燥していてサラサラいわゆるパウダースノーで風で吹き飛ばしやすい。一方、南の方は温かいため、凍るか凍らないか微妙なラインで雪になることが多い。そのため、水と氷が入り交じった湿った雪、いわゆるぼた雪になりやすい。

 そういう雪は重いし湿ってくっつくので吹き飛ばす事は無理なのだ。


「大雪相手にどうする気だ!」


「自分たちで何とかする!」 

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