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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部 第三章 車両戦争
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自動連結器4

「全作業終了しました」


 団長が社長に報告した。


「うん」


 昭弥は報告を受けると、こちらを見ている作業員に振り返って話した。


「ご苦労! 諸君らの献身的な作業のお陰で、この作業場での作業は全て終了し完遂した。これ以上の感激は他に無い。今日この一日の功績は鉄道が続く限り、永遠に語り継がれ、恩恵を未来に与え続けるだろう。諸君、ありがとう」


 昭弥の言葉に全員が感動し歓声を上げた。


「万歳!」


 どこからともなく万歳の声が上がった。それらは急速に広がり全作業員が唱和する。

 唱和は留まること無く数分間も続き、やがて笑顔で終わった。




 ただ昭弥の顔だけは晴れなかった。

 演説を終えると直ぐに本部に移動して、報告を聞き始めた。


「どうだ?」


「臨時列車が乗り入れたため貨物駅で車両数が増え、遅れています」


「やっぱり」


 他の作業場所で遅れが生じていた。

 自動連結器の切り替えは全て終えなければ意味が無い。


「他の操車場は終了、あるいは計画通りに進んでいますが、この場所だけ遅延しています」


「こちらから作業員を出すしか無いか。だが行ってくれる者は居るかな」


 今日一日で半日、十時間以上の重労働だった。これ以上の労働を強いるのは拙い。

 だが、完遂させないと支障が出る。


「行きます!」


 直ぐに声を掛けたのはアンナだった。


「今日の作業は、鉄道事業に必要と聞きました。行かせて下さい」


「疲れていないか?」


「疲れています。しかし、全て交換できなければ、今日の作業は終わらず、私たちの作業は無意味となります。行かせて下さい」


「お願いします」


 アンナや他の作業員も前に出て頼み込んできた。


「……わかった。皆に感謝する」


 昭弥は、指示を下した。


「貨物駅への回送列車を用意してくれ、運転指令所に連絡してダイヤを編成。貨物駅には列車の受け入れと、作業員の割り当て用意を」


 直ちに、列車が用意された。

 先ほど交換を終えたばかりの貨車を繋げ、機関車を用意して移動準備を整える。

 その間にも、交換のための班の選抜が行われ、疲労の少ない技量の優れた班を中心に決定して行く。


「準備完了しました」


「よし、出発進行」


 選抜メンバーを乗せた列車が、前進を始めた。

 残った、作業員達の敬礼に見送られて、彼らは応援先の作業場に向かう。




「いつもより早いですね」


 貨車に乗っていたアンナが言う。時折、出張で貨物駅などに向かうことがあり、列車に便乗させて貰う事が多く、列車の速度がいつも以上だと言うことに気が付いた。


「他に列車が無いからな。今日は貨物列車は緊急用を除いて運転中止だ」


「そうでしたね」


 いつも以上の速度で走る列車すぐさま次の作業場である貨物駅に到着した。

 降りるとそこは、死屍累々の場と化していた。

 作業員の数に比べて、貨車の数が多く、明らかにバランスが悪かった。


「すぐに作業を開始する」


 応援の団長が命じて、アンナ達はすぐさま行動を開始した。

 予め指定されていた貨車に取り付き、交換作業を開始する。

 だが、それまでの作業の疲労もあり、一台当たりの作業時間が長くなっている。

 このままでは、時間内に終わらせるのは難しい。

 その時何本か貨物列車が貨物駅構内に入ってきた。


「あれは?」


「他の作業場の作業員だ。俺たち以外にも応援が居たんだ!」


 他の作業場からの応援を乗せた列車だった。貨車の中から何人もの作業員が降り立ち、作業に加わっていく。


「他の作業場に負けるな。今日中に終わらせるぞ」


「おう!」


 応援の到着に、他の作業員も俄然やる気になった。

 今日中に出来る、自分たちだけでは無い。それが彼ら、彼女らのやる気を、目標を達成できる確かな希望が、力を与え、作業を進める原動力となった。


「次に移るぞ」


「そっちに貨車はあるか」


「こっちにまだ残っているぞ」


 増援もあり、交換作業のスピードは更に上がって行く。

 そして、一時間の間に全ての作業を終えた。


「全作業終了!」


 貨物駅の責任者である駅長の宣言に、応援の作業員を含めて歓声を上げた。

 互いに健闘をたたえながらそれぞれ乗ってきた貨車に乗り込み、自分たちの作業場に戻って行く。


「何とか終わりましたね」


 興奮気味にアンナが話すと全員が頷いた。だがアンナの様子に直ぐにバテるのでは無いかと心配する班員の方が多かった。

 だが、そんなアンナの興奮を更に上げる事態が待っていた。


「これは」


 本来の作業場である操車場に戻ってくると、作業員の全員が帰らずにアンナ達を待っていた。


「頑張ったな」


「お疲れ様」


「良くやった」


 全員が口々に祝いの言葉を述べる。

 そして、ずっと待っていた昭弥が出てきて、全員に宣言した。


「先ほど、全ての作業場から作業終了、応援要員の機関が報告された。交換作業は無事に成功! 全作業の終了を宣言する! みんな! 良くやった! ありがとう!」


 昭弥が言い切ると、その日一番大きな歓声があがり、自然と自連替えの歌が歌われ始めた。その後も歌は続き、宿への帰路でも歌い続け、その夜の宴会でも歌われ、深夜まで歌い続けた。

 特にアンナは興奮が収まらずある決意を決める事になったが、それは後日に結実する。




 翌日、貨物列車の運転が再開され、順次動き始めた。

 連結作業時の、事故はほぼ皆無となり、三桁に上った死傷者の数は一桁か十数人へ激減した。

 史上最大の鉄道作業であり、この日の連結器全交換は後々まで語り継がれる事となった。

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