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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部 第三章 車両戦争
182/763

自動連結器3

いつもありがとうございます。本日はこの後、12時代、18時代に投稿予定です。


4/21誤字修正

「さあ、こいつの自連替えを行うぞ!」


 好戦的な言葉を吐くのはアンナだった。先ほどまでの怠惰な態度は姿を消し、やる気の塊となっている。それどころか自分から積極的に進めて行く。気怠く参加していたとは言え、数ヶ月間、ひたすら練習した交換作業は身体に染みついており、自然と身体が動いていた。


「よし! 外せ!」


 担当の貨車に取り付いたアンナは、大声を掛けて作業に入った。

 まずは、それまで付いていたリンク式の連結器を外す。

 中には二〇キロもある重たい物もあり、これを二人がかりで抑え、他の二人がボルトを外す。


「引き出すぞ!」


 取り外したら、傍らに置いて、今度は車体の下部につり下げられていた、自動連結器を引き出す。

 最初から傍らに置いてあるのでは無く、貨車の床下に収納されていたのは、場所毎に用意しておくと数が足りない事態を避けるために膨大な予備を用意しなければならない。

 その事態を避けるため、貨車に予めつり下げておき、車検などで常に確認する事で準備を万全にし、一斉取り替えの時に引き出して取り付けることで、運ぶ手間も省こうというのだ。


「取り付けるぞ! 入れろ!」


 予め取り付け用の器具は既に車両に取り付けてあり、車体の構造体に連結器が接続できるように準備は整っていた。これらも、この日のために準備が行われていた。

 アンナ達は、引き出してた連結器を器具に取り付けてボルトを締め付けるだけだった。


「締め付けの確認完了! 作業完了!」


「よし! 次に行きましょう!」


 取り付けが終われば次に用意されている貨車に移動する。

 今のところ順調だったが、問題は発生する。


「上手く入らないぞ」


「どういう事!」


「器具がひん曲がっている。衝撃で歪んでいるんだ」


「どうにかなんない?」


「無理だ。特別班に引き渡すしかない」


 万が一、貨車の器具の方に、衝突などによって器具が曲がって接続不能になっていたとき、根本から取り替える特別班が待機しており、何らかの理由で交換できないとき彼らに代わることが決まっている。


「けど」


「仕方ないんだ。俺たちではどうしようもない。規定に従って、特別班に代われ。まだ他にも貨車はあるんだ。次に行くぞ」


「……解りました」




「少し発破を掛けすぎたか」


 総本部に詰めていた昭弥は作業の様子を見て、顔をしかめた。


「作業は順調に進んでいますが」


 昭弥の傍らに仕えるオーレリーが話しかけてきたが、昭弥の顔は晴れない。


「そうなんだけど、早すぎる。このままだと疲れて後半が持たない」


 幾ら最初のスピードが速くても、後半バテて、作業効率が落ちるのは問題だ。

 マラソンでスタート時先頭でもバテてリタイアでは、意味がないのと同様、最後の一つまで作業が終了するのが良い。


「ご安心下さい、全員肉体作業には慣れています。必要に応じて休憩も適宜入れる様に指導しています」


「最後まで、続くと良いんだが」




 昭弥の心配は半ば的中した。

 夜明けの六時頃から始まった作業は時間が経つにつれて、効率が下がってくる。


「作業中止! 昼食に入る」


 作業開始から四時間後、昼食を取るために休憩を入れた。

 アンナは、昼食のパンとシチューをを受け取ると、胃に流し込むように入れる。


「早く、作業に戻りましょう」


「まだ、時間になっていない」


「休んでおけ」


 組長も班長も時間が来るまで休むようだ。


「怠けですか」


「疲れて身体が動かなくなる方が支障が出るぞ」


「私はまだ大丈夫です」


「他が辛いぞ。休んでおけ」


「……はい」




 一時間の昼食を挟んで作業が再開された。

 昼食後で動きが鈍いというのもあったが、まだ動けている。

 しかし、時間が経つにつれて疲労が更にのしかかる。


「休憩に入れ!」


「まだやれます」


「いいから、三両やったら、あるいは一時間経ったら五分休憩。必ずやるように」


 これははじめから計画されたことだ。

 ぶっ続けで働くより、小刻みに短い休憩を入れた方が、より長く効率的に働くことが出来るし、集中力も持続する。

 小中高と授業が五〇分単位なのも集中力が一時間程度しか持たないので、五〇分単位で区切るようにしてある。




「作業中断! 休憩に入れ!」


 午後一時半、二回目の大休止に入った。


「まだ働けますよ」


「まだ続くと言うことだ。食事を取って休むんだ」


「また食べるんですか」


「腹が減ってはなんとやらだ。たっぷり喰って休んでおけ」


 一日二回の昼食と聞くと、おかしく思うかも知れないが、珍しいことではない。

 大工などの肉体労働者達は、エネルギー補給の為に午前十時と午後二時に食事を摂っていた。ちなみに午後二時の食事は<お八つ>とよばれ、子供へお菓子をあげる時間となった。

 昭弥は気温が最も高くなり、熱で倒れる者が出ないよう、午後二時での労働を避ける意味も込めて食事と休憩に一時間当てることにしていた。

 全員が作業を休み休憩に入る。




「現在、作業の七割が終わっています」


 この作業場の団長が昭弥に報告する。


「とりあえず計画通りか」


 報告を受けて昭弥はホッとした。

 予め、貨物の少ない時期を選び、晴天に恵まれ日の長い日を選んで行っている。すこし、気温が高くなるのが難点だが、最高の時期と判断している。


「他の地点はどうだ?」


 昭弥が尋ねてきてオーレリーが答える。


「大半は計画通りに進んでいますが、何カ所か問題が。前日、緊急輸送があり、偏りが出ています」


「それか」


 軍部からの要請によって、一個軍団の緊急輸送を行った。予定外の事であり、地方に運んだが、折り返しのダイヤ編成に余裕が無く近隣の貨物駅に集まっている。

 地方の本数が少なくなったのは嬉しいが、計画通りに行っても今日中に終わりそうに無かった。


「何とかしないとな」


 昭弥は人員の配置を確認して計画を練っていた。




「締め付け完了!」


「確認完了!」


「全作業終了しました!」 


 最後の車両が終わり、アンナが叫ぶと検査係がやって来て最終確認が行われた。

 自動連結器の位置を確認し、正しい位置にあるか確認。そしてボルトの締め付けをハンマーで叩いて確認する。


「確認完了」


 その報告と共に緑の旗が振られた。

 合図をみて機関車がやってきて、次々と列車を連結していった。

 スムーズに、確実に貨車は連結して行く。

 やがて最後の貨車が接続されると、一旦停止した後、緩やかに逆進を始めた。

 一両、前に進み、二両目が前に進む。更に次々と車両が前に進んで行き、全ての車両が前に進んでいった。


「成功だ」


 前にいた団長が、断言すると、周囲にいた作業員全員が歓声を上げた。


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