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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部 第三章 車両戦争
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電車

「路面電車の方は上手く行っているようだ」


 昭弥は満足そうに言う。


「それじゃあ、本格的な電車の製作を行うか」


「路面電車を大きくするんですか?」


 オーレリーが尋ねてきた。


「いや、総括制御方式にする」


「何ですかそれ?」


「複数の車両に付いている制御器を運転士が運転台からレバー一つで操るんだ」


 路面電車では運転台に取り付けた制御器を運転士が直接操作していた。

 これは、構造が簡単なため、直ぐに開発可能だからだ。

 だが、運転士の近くに高圧の電流が流れるため、高電圧は扱えないので、複数の車両のモーターに繋ぐのはほぼ不可能だ。

 そこで作られたのが総括制御方式だ。


「複数のモーター車に制御器を付けておいて、それを運転台から操るんだ。制御器はモーターで動かして、制御器を望みの位置に動かすようにするんだ。これならモーターに位置を指示する電流だけで済むから非常に小さい電力で済む」


「複数の車両に動力を積む必要があるんですか? 機関車の様に一両で済ませた方が良いのでは」


「確かに一両だけにモーターを積み込んだ動力集中方式の方が整備は楽なんだけど、動力分散方式の方が、加速性能が良いんだ」


 機関車だと、全ての重量を引く必要があるが、電車の場合、各所にモーターがあるので各所で力を入れて進むことが出来る。

 本棚の移動を考えて貰いたい。一人でひっぱたり、押したりしても、大きく重いと進まない。よほど体力のある人で無ければ無理だろう。そこで何人かの人が本棚の周りに付いて押すと進みやすくなる。これに似たような事が電車で出来ると考えて欲しい。


「高い加速力で高頻度の運転が出来るぞ」


「加速力?」


「スピードを上げる力のことだよ。これが大きいと速度を上げるのに掛かる時間が短くなる」


「そんなに必要なんですか?」


「所要時間が短縮される」


「最高速度を上げた方が、早く着くんじゃ」


「それも必要だけど、より重要なのは平均速度で、そのためには加速力が必要なんだ」


「? どういう事です?」


「列車は直ぐに最高速度を出せる訳では無いということ」


 一〇〇m走で、トップスピードが同じ選手が居たとき、勝負はスタートダッシュが優れている方が、勝てるのと同じだ。

 最初の加速で距離に差が出来て、徐々に距離の差は広がらなくなるが、縮みもしない。差が付いたまま、ゴールに入ることになる。そしてタイムはスタートダッシュが優れている方だ。

 列車も同じで駅に止まってから加速し最高速度に移るまでどうしても時間が掛かる。それを短縮するには、加速力を大きくする必要がある。

 新幹線の三〇〇系から七〇〇系へ交換が早まったのは加速力に優れた七〇〇系を投入することで所要時間を短くする為だ。

 私鉄でも京急の電車や阪神のジェットカーは、この考えの元、加速力に優れた通勤電車を投入している。


「これで旅客人員を増やすことが出来るぞ」


「素晴らしいですね。でも、長距離の急行列車では無く王都近郊の各駅停車に新技術を投入するとは」


「なんだい?」


「いや、長距離の列車の方が鉄道会社の顔のような気がするのに、地味というか各駅停車に新技術を投入しているのは技術の実験みたいで、通勤の人達を格下に見ているような」


「確かに、新技術をいきなり投入しているように見えるけど、実態は違うよ。新技術を投入しないと抜き差しなら無い状態なんだ」


 簡単に言うと、通勤客が多すぎて彼らを捌くには、高性能で大量に輸送できる新型を次々と投入しなければならないからだ。

 これは高度成長時代の国鉄や私鉄と同じだ。

 乗車率一〇〇%どころか二〇〇%、三〇〇%などという巫山戯た数字を解消するためには、新技術を取り入れた電車を次々と投入しなければ、更に抜き差しならない状況に陥るからだ。

 そのため、通勤電車の改善に全力を尽くしたため、特急などにまで手が回らなかった。

 寧ろ特急電車などの優等列車のほうが、後回しにされていたと言った方が良いだろう。


「架線や変電所の設置、整備などに労力と資金が必要なので距離が短く、利用客が多くて収入の良い都市近郊に作らないと採算が取れなくて電化も電車も投入できない」


「結局王都近郊に作るしか選択肢は無いと言うことですか」


「今のところはね。でも将来的には、全土に広がる幹線全てを電化したい」


「すごく費用が掛かりそうですけど」


「けど、効率的には良いんだよね。負担も少なし」


 電車なら、スイッチを入れるだけで電車を動かすことが出来る。

 蒸気機関車の場合、ボイラーに火を入れて水を温め、蒸気を作り、圧力を高めてようやく動くことが出来る。

 その間数時間。直ぐに行動することが出来ない。

 なので、稼働率が高まるし、付きっきりで火の番をするという必要も無い。


「ですけど、他の路線、幹線以外はどうしますか。ずっと蒸気機関車ですか?」


 セバスチャンは自身の不安を危惧した。

 何しろ王国鉄道には多数の支線があり、幹線に人や荷物を運んでいる。支線の就役が悪化すれば幹線の収入にも影響がある。


「それもきちんと考えているよ。そのための手もきちんと打ってあるよ」


 昭弥は自信たっぷりに答えた。


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