路面電車
昭弥はモーターの作成と路面電車の製造に入った。
問題なのはモーターと台車、架線の敷設、変電所、発電所の建設だ。
発電所は蒸気機関による発電で何とかなるし、変電所も大型の機械になるが上手く行くだろう。
問題は、架線とモーターに台車だ。
架線の方は、道路の真ん中にポールを立てる方式を採用しようと考えていた。
建物にワイヤーを張って取り入れる方法もあるのだが、空中にワイヤーが通るので眺望が悪くなるため、環境に配慮して使わない。
その点、中央にポールを立てて架線を張ることが出来れば他所憂っ費用が掛かるが眺望を損なうことは少ない。
日本でもいくつかの都市で取り入れられており、今後路面電車が復活する際は主力の方法となるだろう。
「上手く行きますかね」
「大丈夫さ既にレールは引いているし」
既に馬車鉄道として王都内の交通機関として使われている。
線路は既に出来ており、後は架線を張り変電所と発電所を作るだけだ。
「これで馬から解放される」
馬車というのは馬という生き物が引っ張るため、性能は馬の状態に左右される。
力の強い馬でも、体調が悪かったりして力を発揮できないことがあったり、加齢によって力が弱くなってしまう。
だが、路面電車は違う。
整備をしっかりすれば、何十年も持つ。大事に使えば故障も無く、毎日働いてくれる。
「王都の交通も変わる」
「けど電気を取り入れるとき感電しませんか」
一度不用意に電線に触ってしまって感電したことのあるセバスチャンは身震いする。
また、同じような事になるのは勘弁して欲しいし、乗客が感電するのは拙いと思っていた。
「大丈夫、ちゃんと絶縁するよ。それにゴムがあるし、何より碍子の製造も順調だから」
碍子とは、絶縁の為の磁器製の部品である。
架線やパンタグラフの周辺に白い円盤を幾つも重ねた物がワイヤーや架線、パンタグラフを支えているのを見たことが無いだろうか?
あれが碍子である。
電線の電気が流れて漏電するのを防ぐ役目を果たしており、これが無ければ、パンタグラフから取った電気がそのまま客車に入り、乗客が感電してしまうので非常に重要な部品だ。
長い電線では垂れ下がりを防ぐ為、非常に強い張力が必要となるため、力の掛かる碍子には強い強度が必要になる。
昭弥はこの碍子を作るために陶磁器の製造会社を作って壊れにくい磁器のカップを製造させ、電線に使う碍子として転用できるよう準備していた。
「あとは敷設するだけだ」
こうして王都に路面電車が動くことになった。
はじめは一系統だけだったが、徐々に路線を広げて行きやがて全域を結ぶようになる。
馬車鉄道と違い、トラブルが少なく、人も多く乗れる上、頻繁にやって来るため人々はこぞって路面電車に乗るようになった。
一方馬車鉄道の馬は馬車引き用に使われ路面電車の通っていないところへ、バスのように運転したり、辻馬車と言ってタクシーのような役割を果たすようになった。
「最近、王国の王都では路面電車が動いているそうだな」
王都の様子を聞いた皇帝は、鉄道の担当者を呼んで話した。
「帝都にも敷け」
「はい早速」
そういって建設を始めるが電線を張り巡らせているとき皇帝が不満を漏らした。
「帝都の美観を損ない、相応しくない。電線は排除せよ」
こまった担当者は、レールからの給電方式に変えた。
「帝都で新しい路面電車を作るそうです」
帝都にいるティーベ、ティベリウス卿から報告書がやって来てセバスチャンが答えた。
「それは良いんだけどね」
「何でも電線から給電するのでは無くレールから給電するそうです」
「え?」
昭弥は驚いた
「線路脇にもう一本敷いてそこに繋げるの」
「いいえ、車輪が乗る二本のレールから取るそうです。頭良いですね、これなら架線が必要ありません」
「何処が良いんだよ。ティーベには近づかないように言っておいてくれ」
「どうしてですか?」
「一つは、高電圧が掛かっているんだ。低いとはいえ六〇〇ボルトは結構高いからね。うっかりレールを踏んだら、感電するぞ。しかも道路に作るから被害者は多くなるぞ」
昭弥の予想通り、レールを踏んで感電する帝都民が多かった。中には馬車を引く馬が感電し、驚いて暴走する事故が起こっている。
「確かに危険ですね」
何人もの人が同時に感電する姿を思い浮かべてセバスチャンは戦慄した。
「まあ、まだマシだけどな」
「どうしてです?」
「雨の日が最悪だからね。水に濡れると電気が通りやすいから。レールと水たまりが繋がったら周囲の人間が広範囲に渡って感電するぞ」
開業後の最初の雨の日に濡れた路面をつたって感電する人間、馬が続出するに至って、運転を中止。素直に架線式に切り替えて運転を再開した。




