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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部 第三章 車両戦争
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工場と工房

「今日からウチの工房で働いてくれるんだな」


「はい、ジャンです。宜しくお願いします」


 給料が良いというので王国鉄道の機関車生産工場で働いていたジャンだったが、帝国鉄道の方が給料が良かったので、移ることにした。


「向こうの工場では、加工を行っていたんだな」


「はい」


「じゃあ、旋盤加工をして貰おうかな。頼むぞ」


 そう言って資材と、旋盤の前に連れて行く。

 目の前の旋盤を見てジャンは


「……」


 固まった。


「あの……」


「何だ?」


「どう動かせば良いのでしょうか?」


「そいつに固定して、適切な削り量を入れて回せば良いんだ」


「どうやって固定するんですか?」


「そこの爪に固定すれば良いんだ」


 そう言われてジャンは固定した。そして機械を動かしたが

 斜めに固定したため、素材が揺れまくり刃から離れたり逆に深く削りすぎたりした。


「だあああ、止めろ」 


 刃が壊れる前に止めた。


「何をやっているんだ! お前本当に工場で働いていたのか!」


「働いていました。でもあまりにも違います」




「帝国の工房に移った人が何人かいますね」


 質問してきたのは、鉄道大臣補佐、鉄道会社社長秘書見習い、チェニス公爵執事見習いとしてやって来たオーレリーだ。

 貴族では幼少期に他の貴族に仕えて、将来の勉強をする習わしがあり、オーレリーに自分の家に来ないか誘った。

 自分の領地に鉄道が敷かれた事に恩義を感じていたからか、オーレリーは二つ返事でやって来た。ただ、メイドは、連れて来ないように言った。メイドが手伝っては修行にならないというのが、表向きの理由だが、あのダメイドから引き離さないとオーレリーの将来がダメになる。

 メイド本人は、半狂乱状態で懇願したがオーレリーの命令では、引き下がっている。

 ただ、それによって毎日、ご主人様を帰せという嘆願書が一時間に一通やってくる問題も生じているが。

 しかし、通常の業務では今のところ問題無いのでほっといている。


「使い物になるのかな」


「ウチの工場での製造経験があるから大丈夫では?」


「うーん、うちの工場と帝国の工房だと違うから」


 昭弥はオーレリーに説明した。


「ウチは熟練工じゃ無くても生産出来るようにしている。普通の人でも、昨日まで畑を耕して器械加工をしたことが無い人でもね」


「何故ですか?」


 指を顎に当て、頭をかしげながら聞いた。その姿は年寄り幼く、可愛らしく見えた。男の子であると覚えていなければロリに目覚めるほどだ。

 手右屋は自分の自制心を総動員して、オーレリーに答えた。


「簡単、役割分担をしていて、一人が行う役割を一つか二つにしているんだ」


「人数が増えて非効率では? いくつかの役割を果たすようにすれば、少人数で出来るのでは」


「生産量が少ないのならね。けど、大量生産になると、一つの役割をずっと続けて加工していてくれた方が簡単に仕事を覚えられる。その結果作業が早く進むんだ。複数の作業をこなすというのは、次の作業に移る時間、道具を持ち替えたり、下準備をしたりする時間が必要になるから不便なんだ」


「なるほど」


「他にも、生産する機関車の種類を厳選しているしね」


 王国鉄道では、機関車の種類は実は七種類ほどしかない。そのうち二つはサラマンダー用で生産が縮小されつつあり、実質五種類しか走っていない。

 初期に足りなくて他から購入したものや実験用を除けば、非常に少ない種類しか運用していない。


「多くの種類を作ればそれだけ生産しなければならない部品が多くなるからね」


 数千、数万の部品で構成される蒸気機関車。いくつか共通する物もあるがそれでも何千という種類の部品を製造しなければならない。

 数種類の蒸気機関車を作るとなれば更に部品、単純計算で一台当たり数千の部品×製造形式分をだ。五五種類だけ生産していても三万点以上の部品を生産して組み立てる必要があるのだ。


「だから制限しているんですね」


「そう。それに、いくつかの部品は共通化しているからね」


 例えばD5、C6、E7という機関車を王国鉄道は使っているが、その動輪は全て同じ大きさだ。

 他にもピストンとシリンダーも同じ物を使っているし連接棒も一部同じだ。

 何故、このような事をするかというと共通の部品を作ることで製造する部品の種類を減らすことが出来るからだ。

 それによって必要な工員の数を減らし、一人当たりに要求する生産量を増やすことが出来る。

 一方、工房の方は、注文を受けたその都度新たな機関車を作って居る。前の肩のマイナーチェンジが多いが、強いように会わせて全く違うタイプを作ることがある。

 そのため、どうしても違う形になるし専用の部品を製作することになる。


「部品供給も簡単に済むから」


 故障した部品は取り替える必要があるが、一台一台が手作りに近い工房の機関車だと必要とされる部品が違う。酷いときには、そのネジはその箇所にしか使えない、と言う事さえある。世界でたった一つだけの部品というのは、列車の運転に支障を来す。

 工房が近くにあるならまだマシだが、遠隔地で運転していると部品の取り寄せにも時間が掛かり、運転できなくなる。

 その点、王国は共通する部品が多かったり大量生産しているため、各地に部品を配給し売ることが出来る。いざとなったら、同型の機関車と同じ部品を取り付ければ良いのだ。


「なるほど」


「他にも工作器械に専用機を使っているしね」


「専用機? どう違うんですか?」


「工作器械は汎用機と専用機の二つの種類に分けることが出来る。専用機は文字通り特定の部品を作るだけの専用機、例えば寸法が一〇ミリになるよう削るという作業しか出来ない様にしてあるんだ。勿論微調整は出来る様にしてあるけど、基本は固定だ。一方、汎用機は寸法を自由に変更して五ミリとか一二ミリとかの部品を作れる」


「汎用機の方が使い勝手が良いのでは?」


「うん、いろんな種類を作る上ではね。けど、作る種類が少なくて、大量に作る必要がある場合は、専用機の方が効率が良いんだ。何より、他の種類が出来ないからね」


「? どういう事です?」


「削る量を間違えて不良品を作る可能性が少ないと言うことさ。不良品が少なくなるのは望む所さ」


「確かに削る量が変更できないなら、その部品しか作れませんね。けど万一不良品が出来たら」


「直ぐに排除すれば良いよ。そのための検査キットを作って有るし、治具も作ってある」


「治具?」


「部品を固定するための補助の道具かな。部品を嵌め込んで、器械にセットすると自動的に正確な位置に固定されて、正確に加工してくれる。そして、何より重要なのは治具自体が検査キットになっていてね、きちんと嵌め込めない部品は不良品である可能性が高い。簡単に両不良が解るようになっているんだ。それに治具の種類や形を変えると、専用機でも別の部品を作ることも出来る様になっている。これで専用機の稼働率を上げているんだ」


「なるほど、それでも不良品が出るのでは?」


「そのために、各工程で検査をするようになっている。検査のための器具も配備しているからね。次の工程に行く前に不良品を排除するようにしているから問題無いよ」


「器械にも人にもよく考えて作っているんですね」


「そうだよ」


 ただ、この方法には欠点があり、余りに特定の分野しか覚えられない、ウチの工場以外で役に立たないスキルしか身につかない。

 などの欠点があり転職は難しいだろう。


「色々な作業を覚えて一人何役もこなすのが工房だからね。一つの器械と仕事しか覚えていないウチの工員だと役に立たないんだ」


「そういうことですか。そうそう、お茶が入りました」


「ああ、ありがとう」


 そう言って、昭弥は紅茶を取り砂糖を入れて飲もうとしたが、銀のスプーンをお茶に入れた瞬間、スプーンが黒くなった。


「……オーレリー。紅茶を変えた?」


「あ、はい。マリアベルが高級茶葉が手に入ったので、昭弥卿に入れると良いと言われました。あ、何も言わずに出して飲むと良い事があると言われていたんだ。済みません」


「ははは、それは別に良いけど。今度からマリアベルさんの贈り物はきちんと申告してね」


「? は、はい」


「じゃあ、この書類を届けてきて」


「はい」


 そう言って部屋から出て行くと昭弥は、棚の端の檻に入れているハツカネズミを取り出すと、紅茶を飲ませた。

 ほんの数秒で鼠が激しく暴れだし、嘔吐して、亡くなった。


「ヒ素かな、それとも青酸かな。良く暗殺に使われるけど」


 ティベリウスが贈り物としてくれた銀のスプーンのお陰で助かった。

 今は、帝都の方に商談とか交渉のために行って貰っている。帝国貴族と言うことで有力貴族に顔が広く、鉄道の売り込みなどで活躍出来ると言っていたからだ。

 昭弥としては、この王都で活躍して欲しかったのだが、ユリアさんが強く進めてきたので送り出すしかなかった。

 このスプーンは彼が出発前にくれた物だが、本当に助かった。


「本当にあのダメイドをどうにかしないと問題だな」


 昭弥は新たな問題に頭を痛めた。

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