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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部 第三章 車両戦争
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人事と給与

 帝国鉄道が王国内で路線の延伸を行っている最中、とある問題が発生したため皇帝は担当者を呼び出した。


「ここのところ、列車の本数が著しく少ないようだが」


 帝国鉄道が列車を直接運行する様になってから、駅にやって来る列車の数、走らせる列車の数が少ないという苦情が、皇帝の耳に入るようになっていた。


「はい、現在帝国鉄道は路線の延長を行っております。ですが延びた路線へ配属出来る機関車、客車、貨車の絶対数が足りません。そのため、少ない数で運用しなければなりません」


 車両の数が少ないため、運転本数が少ない。

 主要幹線であるセント・ベルナルド、オスティア間はともかく、他の路線では二時間に一本、酷いところでは一日に一本という路線もある。


「それでは王国鉄道に勝てないでは無いか。何としても列車の本数を多くして、連中から利用客を奪え」


「しかし、車両が足りません」


「帝国の工房に早急に作らせろ、利用客はいくらでも居るのだ。すぐにやれ」


「陛下、これ以上生産するには職人が足りません」


「どこかにいないのか。いや、いるぞ」


「帝国国内には居りませんが」


「王国だ。王国鉄道の車両工場に居る職人共だ」


「確かに、王国鉄道は王国各地に工場を作り、車両や機関車の製造を行っておりますが」


「その職人共を引き抜け。我々の生産力が上がり、連中の生産力が低下する。一石二鳥だ」


「しかし、工房の給金を上げるのは難しいのでは」


「我が帝国から一部出すといえ。横流ししたら承知しないがな」




「君の会社は凄いね」


 会社の顧問に収まったティベリウスが昭弥に話しかけた。

 はじめは悪寒がしたが、会ってみると中々好青年で、話しやすいし親切だし一緒に居て疲れない。それどころか、落ち着く。

 会社の役員になって欲しいと嘆願してようやくなって貰った。

 ただユリアさんからは、絶対反対の意見で一悶着あったが、何とか納得させて顧問になって貰った。


「何がだい? ティーベ?」


「離れていく人少ないことだよ」


「ウチは定期昇給制だからね。長年居ればいるほど給料が上がるから」


 製造業は経験がものを言うことが多いので経験者が欲しい。特に長い年月での変化を感じ取れる人が欲しい。

 そのため、定期的に昇給するようにしている。

 王国工場より給金が良いと言っても、初任給だけで、勤めが長いと帝国工房以上に給金を貰う事が出来る。


「昇進制度もあるし、行きたいと思わないだろうね。ティーベ」


 平の工員から主任、班長、組長と管理職に昇進する方法があり職階が上がるようにしている。

 また技量に応じて二級、一級、特級と認定し、技量に応じて手当を出す資格手当を出している。管理職では無く作ることに専念する人のために用意した制度だ。

 管理職にならなくても、安定した生活が可能だ。


「功績を認められて、昇進したりするのは嬉しいものだからね」


「それに退職金制度もあるしね」


 この世界では、職人は渡り鳥みたいなモノで、条件の良い工房に職人が移って行くことが多いし、より良い工房を求めて渡り歩く者も少なくない。

 工房をクビになっても腕さえ良ければ他の工房に移る事も可能だ。

 そのため各工房で、定着している職人の数は少ない。

 そこで、昭弥が考えたのが退職金制度だ。

 普段の給料から一定額引き抜いて積み立てておき、一定期間勤め上げると、会社が上乗せして返す仕組みにしている。

 これなら、長ければ長い時間、勤め上げるほど高い退職金が貰えるので、工場の定着率が良くなった。

 日本の定年退職制度を真似て作ったのだが、上手く行った。元々日本の定年退職は、職人を自分の会社に引き留めるための制度で、長年勤め上げれば多額の退職金を渡すという条件で職人を引き留めた。


「定年退職や企業年金という事も考えたんだけど、やめたよ」


「なんだいそれは?」


「特定の年齢になると、お疲れ様と言って退職して貰うんだ。で、その時、退職金を満額で与える。その後も、企業年金を毎年いくらか渡すようにして老後を過ごして貰うんだ」

「素晴らしい、制度じゃないか。何故実行しないんだい?」


「エルフとか居るから」


 多種族が居るこの世界で導入するには、あまりにも寿命が違いすぎるからだ。

 人間が五〇年ほどなのに、エルフなど平気で二〇〇才を越えていたり、寿命が三〇年しか無い種族も居る。

 人間のみが社員としか考えていない日本式を取り入れるのは不可能に近いので、変形させざるを得なかった。


「流石に三〇年ほど働いただけでその後、一〇〇年ほど払い続けるのは会社としても、無理なんでね。でも他の制度よりマシだと思うけど」


 定期的に給料が上がるので、長年勤めようと思うし、明確に求める技量を伝えて、達成したら資格を与えて、手当を与えるようにしている。

 これなら、他に移ろうとする人は少ない。


「それでも不満は出るだろうけど」


「それはしょうが無いさ。けど、十分優れている制度だと思うよ」


「お世辞は良いよ」


「いや、実際に効果があるよ。帝国の工房が王国の工場の前に求人の広告を出しても、離職者が少ないんだから」


 最近、引き抜きを行う為、帝国の工房が帝国鉄道の力を借りて王国の工場の前に広告を出していた。


「しかし、広告を出すことを許すなんて、工場の前の広告スペースも王国鉄道の所有だろう」


「広告事業を行おうと思って、広告部門を置いている。あそこは入札制だから、最高額を入れたのが帝国だっただけ」


「工場の所長は青ざめていたけど」


「落ち着かせたよ。そして帝国と王国の職場での収入の違いを紙にして一人一人に配布したんだ。王国の方が良いと解って移る人はいなかったよ」


「本当に君は親切だね。けど離職者が出たらどうするんだい?」


「その時は、その時さ。元々、安心して仕事に打ち込んで貰うために作った制度だ。ウチで安心できないというのなら余所に行って貰うよ。まあ、対策もしてあるしけどね」


 そう言って二人は、お茶を飲んだ。

 この様子はロザリンドがしっかりと目撃し、ユリアへ手紙と直接の報告を行って、彼女の危機感を募らせる役目を果たした。

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