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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部 第二章 建設戦争
167/763

外伝 貴族の嘆願 3

本章終了。

次週から新たな章を始めます。


3/6文章追加

「大丈夫ですか昭弥様!」


 入って来たのはユリアだった。

 救いの英雄、いや勇者か。昭弥は助かったと思った。

 が、直ぐに絶望に変わった。

 ユリアは入って来た途端、顔を凍り付かせ、額に青筋を浮かべ、大剣を握る手を強め、背後にどす黒いオーラを纏わせ、まるで魔王のような雰囲気で尋ねてきた。


「……どういう事です」


「なっ」


 多少、ちびってしまったがしょうが無いだろう。

 何もかも取られて、虎の檻に入れるようなものだ。


「その痴態は何ですか」


「!」


 裸でベットの上にいる男女。

 どう見ても誰もがそう思うだろう。


「行方不明になったと聞いて、誘拐かも知れないと聞いて飛んできて捜索してみれば」


「ち、ちがう。マリアベルが、っていない!」


 いつの間にかマリアベルが消えていた。

 屋敷に何者かが侵入して主人を守るために離れただけだったのだが、昭弥には逃げたと思った。そして、昭弥とユリアだけが残された。


「既に名前で呼び合う仲ですか」


「そう思われるのは勘弁願いたい」


 これまで受けたマリアベルの仕打ちを思い返して昭弥は素で言った。


「じゃあ、どういう仲なんですか」


「ええと」


 ダメイドに誘拐されて鉄道を敷設するように脅されたが、王国に処罰される可能性に気が付いて色仕掛けで迫ってきただけ。

 出来の悪い小説のような、話しを信じてくれるか。自分なら下手な言い訳だと言って切り捨てる。


「答えられないんですね」


 ユリアは大きく件を振りかぶった。


「ま、まって」


 昭弥の声を聞かず振り下ろした。魔力を含んだ鋭い斬撃で刀身から魔力の塊が飛び出し壁を破壊した。

 怒りのあまり力みすぎたため昭弥の脇に逸れたのだ。


「ひいいいい」


 昭弥は逃げた。空いた穴から脱兎の如く逃げ出した。


「待ちなさい!」


 目尻に涙を浮かべたユリアが剣を持ったまま追いかける。

 だが、昭弥は止まらない。ユリアは、剣を振りまくり、周囲を破壊するが、心が乱れており、昭弥には命中しない。

 周囲の熱気が高まったこともあり、昭弥はフラフラになり、崖から転落した。


「わっ」


 落ちた先は池だった。幸い、水深は深く落下の衝撃を抑えた。そして昭弥は気が付いた。


「温かい」


 某古代ローマ風呂漫画の主人公のような顔になって辺り一面を見渡した。

 池から湯気が立ちこめていた。

 そして、熱すぎず、冷たすぎない、適温。

 極上の温泉だった。


「大丈夫ですか」


 心配になったオーレリーが、駆けつけてきて岸から話しかけた。


「これは温泉ですか」


「ええ、この辺りには多いですよ。料理を温めたりするのに使っています」


「他にもあるんですか?」


「はい、そこら中に。一寸掘れば直ぐに出ますよ」


 昭弥は驚き、次いで何かのスイッチが入った。


「オーレリーさん」


 昭弥は神妙な面持ちで尋ねた。


「はい」


「鉄道を建設させて頂けませんか」


「建設して下さるのですか!」


「はい。出来ればこの辺りの開発権、建物や町を作る権利も」


「はい、お願いします」


 昭弥は池から出るとそのまま歩き出した。


「昭弥、何処に行くのです」


 そこにユリアが追いついてきたが、昭弥は振り返ると答えた。


「本社に戻ります。計画を立てなければ」


「ごまかすんですか」


「本気でここに鉄道を通します! 温泉開発も含めて!」


「ひ」


 あまりの迫力にユリアが気圧された。裸のままでも鉄道が絡むと凄い意志力を見せる。


「さあ、建設するぞ」


「って、服を着て下さい」


 スタスタと歩く昭弥にユリアが自分の上着を掛けようとした。




 数ヶ月後アスリーヌ伯爵領は王国有数の保養地となった。

 それまでは温泉の存在を知らなかったのと、交通の不便、水運は山がちな場所では通しにくいため、行く者が少なかったのだが、鉄道の開通により変わった。

 大勢の人々が温泉で疲れを癒そうと列車に乗り行くのだ。

 特に中心にある巨大な温泉池は公衆浴場となり、湯浴み着を着た男女が入り談笑する。

 その公衆浴場の周囲には商店や宿が建ち並び、彼らを相手にしている。

 浴場の周りに点在する温泉にも宿が出来て大勢の温泉客を迎えている。

 中でも王国鉄道株式会社が作った宿は、従業員の慰安目的と言うこともあり大きく広く家族連れで入れると評判で他の宿の見本となった。

 折しも環境劣悪なアクスム、デルモニアでの建設作業による疲労が溜まりやすい従業員達の休養地として活用され、アスリーヌ伯爵領は驚異的な発展を遂げた。

 泉質も良いため、疲労回復によく効くため、リフレッシュした作業員達が現場に直ぐ復帰して工事が進むようになった。


「はあ」


 昭弥は、再びアスリーヌ伯爵の屋敷に入った。

 前回は、入らなかったが屋敷にも温泉があり、視察に来た昭弥を泊めた。

 一般の宿に入ろうと昭弥は思ったが、お礼がしたいとどうしても止まって欲しいと懇願されて泊まり、温泉に入れさせて貰っていた。


「温泉に入れるとは」


 元々、ルテティアとリグニアは風呂に入る習慣があり、大浴場もあちらこちらに存在している。

 しかし、それらは生活の一部であり、遠くの温泉に行って入るという事は無かった。

 そこで、昭弥は日常の疲れを癒す保養地として建設することにした。

 鉄道によりそれまでより短時間で移動でき、泊まれる宿、収容人数十分な温泉。飽きたら周辺の森や山を散策すれば良い。

 保養地として最高の立地条件を持った場所だ。

 そして、人々がやって来るときは鉄道を使う。

 最高だ。


「昭弥様」


 声がしたので振り返ると、湯浴み着を来たオーレリーが立っていた。


「あ、オーレリーさん。って一寸待って下さい」


 昭弥は慌てて湯浴み着を着ようとした。誰も入っていないことだし、日本の習慣で裸で入っていたのだ。


「ああ、お気になさらず。お体をお流ししようと」


「いや結構!」


 とんでもない提案に、思わず振り返ってしまい、オーレリーの身体を、裸を見てしまい、昭弥は絶句した。


「アスリーヌ伯爵! 昭弥様が来ていると聞きましたが、まさか一緒に風呂に入っているのでは」


 昭弥が再びアスリーヌ伯爵領を訪れたと聞いたユリアがやってきて乱入した。


「って、何やっているんですか! 殿方のお風呂に入るなど……」


 そしてユリアは絶句した。

 オーレリーの両脚の間にある、男子の証を。


「ああ、女王陛下。お着きになっているとは知らず、お迎えせずに済みません」


 正面を向いて挨拶したため、ハッキリと見えた。


「お、男の子」


 オーレリーという名前は男にも女にも付けられる名前だ。また、容姿のため昭弥もユリアもオーレリーを女の子だと思っていた。

 なので、オーレリーの正体を見て衝撃を受けた。


「きゅう」


「ユリア!」


 ショックでユリアが倒れ昭弥はオーレリーと一緒に介抱することになった。

 そのため、オーレリーはユリアを倒した唯一の人間という評価を得ることになる。

 なお、オーレリーは貴族としての修行と、これ以上変な事に巻き込まれないよう、具体的にはダメイドから隔離するために鉄道大臣補佐という肩書きで王国に出仕する事になった。

 一種の修行なので、メイドの随行は許されなかった。そしてこれは昭弥の復讐の一つでもあった。

 オーレリーと離れる事にマリアベルは血涙を流したが、オーレリーの命令では従うしか無く、離れる事になった。

 なお、この事件に関してマリアベルは、オーレリーの心情も考えて行われず、オーレリーの為とは言え昭弥に不満が残った。なのでメイドの随行不許可は昭弥のせめてもの復讐と仕返しだった。

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