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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部 第二章 建設戦争
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北から来た貴族 3

明日は8時代に投稿予定です

「ふっふっふ」


 昭弥とティベリウスが来るのを自らの控え室で待つ間、ユリアはご機嫌だった。


「嬉しそうですね」


 話しかけて欲しいと悟ったお付きのメイドであり親友のエリザベス・ラザフォードが尋ねた。

 ラザフォード公爵の娘であり、昭弥にとって義理の姉か妹に当たる人物だ。


「そうよ。昭弥のあんな顔を見られたんですから」


 今日、自分がティベリウス卿と仲良くしているところを見た昭弥の表情。まるで捨てられそうになっている子犬みたいに不安になっていた。

 これまでずっと、やきもきさせられたユリアにとっては、やり返せたという思いだ。


「良いんですか? そんな意地悪して」


「いつも私をほっぽっておいて、何時までも付いていくと思ったら間違いよ。この前の調査でも一緒に付いていて上げたのに、全然来ないし。帰りなんてよそよそしいし。一寸は私の方を見て欲しいわ」


 鉄道ばかり目を向けて、自分にちっとも振り向かない。

 少しぐらい意地悪して、引き寄せないとユリアの気が済まなかった。


「でもティベリウス卿で良かったんですか?」


「まあ、顔は良いから、昭弥を刺激するには丁度良い相手ね」


「付き合う気は?」


「全くなし。領主として無難そうだけど、昭弥に比べたら小物よ」


 多少の偏見がありそうだが、まあ、妥当な評価だとエリザベスは思った。

 現状王国の経済は飛躍どころか跳躍と言って良いほどの経済成長を果たしている。

 一九六〇年代日本や一寸前の中国よりも著しい。

 これも鉄道によって大量の物品が流通するようになったからだ。

 その鉄道を建設し、発展するよう運営したのが昭弥であり、彼以外に誰がそのような偉業を達成出来るだろうか。

 勇者の血を引くユリアだが、新しい文明の利器である鉄道に対する政策も知識も無く、帝国が敷いた鉄道によって王国は滅びようとしていた。 

 そこに現れたのが昭弥だった。

 異世界から連れてきてしまったが彼は、鉄道に対する知識から正しい政策と事業を行い、王国を復活させたばかりか、更に発展させてくれた。

 ユリアにとって昭弥は救世主であり、何もかもを捧げても返しきれないほどの恩のある恩人であり、何時までも居て欲しい人だ。何があっても恩を返すために尽くしたい。

 だが、それはそれ、これはこれ。

 一人の乙女としては、好きな人に自分に見て欲しいし、大切にして欲しい、と思う。


「でも本当に良いのですか? ティベリウス卿で? 彼の二つ名をご存じですか?」


「快楽王でしょう。北方一の歓楽街を誇る町を持つから名付けられたんでしょう」


「そうですが他にも」


「私がティベリウスに入れ込むとでも」


「そうは思っていませんが……」


 その時、今話題にしていた二人がやってきた。


「あら、ティベリウス卿、お早い……」


 そこでユリアは絶句した。二人が仲良く朗らかに入って来たからだ。


「お待たせいたしました」


「少し遅れましたか」


 昭弥とティベリウスは、それぞれユリアに謝罪した。


「いいえ、まだ晩餐に時間はありますし……二人とも仲が良いようですが」


「ええ、意気投合しまして。今後の打ち合わせだけで無く新しい機関車を見せてもくれました。いや、昭弥卿は凄い。あれほどの大きな機関車を作り出せるとは。しかも知識や技術も強い。何より燃えるような情熱を持って鉄道事業に打ち込んでいる。類い希な人だ」


「そんな褒めすぎですよティベリウスさん」


「他人行儀にならないでくれよ昭弥。さっきも言ったとおりティーベと呼んでくれ」


「わかったよティーベ」


 二人が仲良くなった、と言うより良すぎないか。


「そういえば、何時まで滞在するんだい、ティーベ」


「しばらくは滞在するつもりだ」


「それは良かった。暫く滞在して欲しい。それに出来れば鉄道会社の社外取締役として支えて欲しいんだけど」


「僕に出来ることなら何でもやるよ」


「ティ、ティベリウス卿」


 ユリアは慌てて話しかけた。


「貴族たるもの領地をいたずらに空けすぎるのはどうかと思いますが」


「それなら大丈夫です。有能な代官をおいておりますので、私が居なくても領地経営に滞りはございません」


 穏やかに返事をされてユリアは言葉に詰まった。


「しばらくの間は滞在出来るよ」


「それはよかった」


「ティベリウス卿、一寸宜しいでしょうか」


 ユリアは有無を言わせずティベリウスを引き寄せると、昭弥に聞こえないように小声で尋ねた。


「ティベリウス卿、正直に話して貰いますよ」


「何でしょう」


 どすの効いた声でユリアは尋ねたが、ティベリウスは何処吹く風という体でいなすように答えた。


「昭弥とどうする気なの?」


 聞かれたティベリウスは片目をつぶって真面目に答えた。


「昭弥君とはお近づきになりたいんだよ。友達以上にね」


「なっ」


 その言葉にユリアは衝撃を受けた。

 そして悟った、拙い人間を引き入れてしまった、と。


「ああ、昭弥。その姿だと晩餐に良くないな。僕が服を選んで上げよう」


「いや、これでいいよ」


「もっと良い服があるよ。僕が選んで上げるよ」


 そう言って、ティベリウスは昭弥の腰に手を回して、二人して部屋から出て行ってしまった。ユリアは放心状態でそれを見送るしか無かった。


「姫様」


「はっ」


 エリザベスに尋ねられてようやく我に返った。


「どういう事! あのティベリウスって野郎は!」


 先ほどの態度から豹変して、詰問するようにエリザベスに尋ねた。


「先ほどもお伝えしたとおり、ティベリウス卿は快楽王の二つ名を取っております。町の歓楽街を代々保護しているという意味もありますが、当代は自ら歓楽街の状況を確かめるべく足繁く通い売春宿や男娼館にも足を運ぶとか。その過程で二刀流を体得し、その行為は非常に優れているとか」


「……」


 そこまで聞いてユリアは気絶した。

 エリザベスはユリアに近づくと往復ビンタをして意識を回復させた。


「はっ」


 起きたユリアはエリザベスに詰め寄った。


「どうして教えてくれないのよ」


「噂でしたし、ご存じかと」


「そ、そんなこと知る訳無いでしょう」


 辺境の王国の女王としてやる事が多くそのような噂話を聞くような事はしなかったし、好みでも無かった。


「そんな危険人物、今すぐ国外追放、いえ私が成敗してやるわ! って、まずい、昭弥の危機」


 そう言って、おいてある大剣を持ち出そうとしたとき扉が開いた。

 そこに立っていたのは、昭弥だった。


「あ、昭弥、無事だった……の?」


 昭弥の姿に安心すると共に放心してしまった。

 いつもボサボサの髪が整えられ毛先が整っている。肌も化粧水を使ったのか、張りがありつやつやしている。

 服も身体に合った燕尾服で背筋も伸びており、美男子然とした姿だった。


「変じゃないかな」


 ユリアに見られて、そしていつもと違う姿に自信が無いのか、あるいは照れているのか顔が少し赤かった。それが、アクセントになってより、格好良く見えた。

 ユリアは大剣を床に落とすとそのまま昭弥に近づいた。

 近づくとほのかにバラの香りが漂い、更に舞い上がって自然とユリアから言葉が出た。


「いいえ……すっごく素敵」


「そう、良かった」


 落ち着いたのか、ようやく昭弥に笑顔が戻り、朗らかに言う。その姿が、更に落ち着き優しさに満ちていて、ユリアはドキッとした。


「よかったね昭弥」


 そう言って昭弥の後ろに現れたのはティベリウスだった。


「私がコーディネイトしました。昭弥君は素材が良いですから。ただ色々と忙しく身を粉にしているから、身だしなみを整える時間が無くて、一寸残念になっていました。ですが、このように一寸、変えればこの通りです」


 身だしなみに気を遣っているらしくティベリウスは服装や化粧に付いて詳しく、昭弥の身だしなみを整えた。そのため、いつも油やインクの匂いをさせていたが、今の彼の姿にユリアは心を奪われた。

 そして、ティベリウスはユリアに囁いた。


「私を近くにおいていただければ、このような姿をいつも見れますよ」


「!」


 ユリアの全身に悪寒が走った。

 彼が危険人物というのは、よく分かった。

 だが、このような昭弥を見せてくれるのは彼以外には居ないだろう。だから手放したくは無いが手放さないと、昭弥の身が危険だ。だが、今の昭弥をもっと見たい。

 彼の提案は悪魔の囁きのように聞こえた。


「ティーベ、ありがとう。服を貸してくれて」


「気に入ったようだね。それと貸してはいないよ昭弥。君にあげる」


「悪いよ」


「いいや、これからお世話になるんだ。家賃の前渡しみたいなものさ」


 ユリアの横で着々とティベリウスの滞在が着々と進んでゆき、ユリアは絶望的な状況に置かれた。

 そして、ティベリウスは、止めを刺した。


「それでは、今後も宜しくお願いします。ユリア陛下」

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