北から来た貴族 2
本日はこの後、19時頃にも投稿予定です。お楽しみに
「あら、お話し中でしたか」
「陛下」
入って来たのはユリアだった。
室内にいた昭弥とラザフォード、そして伯爵は、目上に対する礼をした。
昭弥は大臣、ラザフォードは宰相であるから当然だし、伯爵も王国の女王とは言え皇族の一員であるユリアに対して礼をするのは当然だった。
「そうかしこまらないで突然入って来たのは私なのですから」
「ありがとうございます」
そう言って伯爵は改めて自己紹介した。
「私は帝国伯爵ティベリウス・マリウスと申します。以後お見知りおきを」
「ティベリウス卿、先ほども言ったように表を上げて下さい。我が国に来訪しているにも関わらず、出迎えせず申し訳ありませんでした」
「いえいえ、この度は公にせず参りました。どうぞお気遣い無く」
「ではせめてもの歓迎のために今宵、晩餐に参列して欲しいのですが」
「陛下のお誘いとあらば」
二人が丁寧に挨拶することに昭弥は、何故か居心地が悪くなった。
確かに二人とも金髪で肌が白く、美形美人のお似合いカップルであり非常に絵になる。
だが何故か昭弥は心から祝福出来ない。
ユリアが昭弥の方をちらりと見たが直ぐに視線をティベリウスに戻して、話しを続ける。
「ところでティベリウス卿はどのようなご用件でいらしたのでしょうか」
「はい、我が領内に王国鉄道を敷いて貰いたいと依頼に来ました。幸い我が領への道は冬以外は使いやすく、冬も鉄道ならば簡単に行き来出来ます。双方にとってメリットがあります。どうか、建設して貰えないかと昭弥卿に依頼しているところです」
「そう」
するとユリアは、笑顔のまま昭弥の方を向いて指示した。
「昭弥、鉄道を敷いてはどうでしょう」
「え……」
今までに無い指示に昭弥は驚いた。
確かに新たな鉄道路線を建設しなければならない、と考えており伯爵領を通るルートは有力だ。伯爵の協力が得られるならこれほど素晴らしいことは無いし、作っても問題は無い。
ダメでも他のルートも建設する予定なので、建設しておいても問題は無い。
だが、これまで殆ど昭弥に一任されていた鉄道関連にユリアが口出ししてきた事が、昭弥には衝撃だった。
「ダメなのですか?」
「いえ、伯爵の協力、用地確保など伯爵の協力が得られるなら」
「伯爵、協力して貰えますか?」
「勿論です。こちらから依頼したのですから、その程度の事は私がしなえければ」
「どうでしょう?」
「あ、ありがとうございます。早速建設の準備をいたしたいと思います」
「そう。では話しはおわりね。伯爵、出来ればこの後のお茶会に参加して貰えませんか? 昭弥は忙しそうなので」
「喜んで」
そう言って女王は手を差し出すと伯爵は手を取り、二人は出て行ってしまった。
「暫く滞在して下さい。ちょくちょくお茶会にも誘いたいですし」
「光栄の極みです」
取り残された昭弥は暫く呆然としていて、義父であるラザフォード公爵に声を掛けられなければ何時までもその場で立っていただろう。
鉄道会社本社に戻った昭弥は、新たな建設計画のために計画書の作成を行っていた。
「どうしたんや昭弥はん?」
ただ、どうも心ここに有らずといった雰囲気であり、打ち合わせに来た重役のサラ・バトゥータが尋ねた。
「え、なにか?」
「いや、仕事が手に付いてないようでな」
「そんな事ありませんよ。きちんと書いていますよ」
「その書き込んでいる地図、逆やで」
「え、うそ!」
と慌てて、ひっくり返そうとして気が付いた。地図は正しい方向だった。
「からかわないで下さいよ」
「一寸したフェイントで動揺するなんて、心がぐらついとる証拠や」
図星を指された昭弥は一瞬、言葉に詰まったが、直ぐにペンを取り出して、計画書に没頭することにした。
「ユリアはんのことか」
不意に出たサラの一言で、昭弥はペン先を潰してしまった。
「やっぱり、何かあったんか。ケンカでもしたんかいな」
「違いますよ」
「じゃあ、新しい男でも出来たんか」
「……」
「強力なライバル出現か」
「何も言っていませんよ」
「外れともいっとらんからな」
「……今度の建設予定路線の領地の領主ですよ」
「ああユリウス伯爵か。行ったこと無いが賑やかなところだときいとる。領主も美形で貴婦人達の憧れの的ともな」
「そうですか」
「ユリアはんも心を奪われるかもな。女の子やしな。二人一緒なら、絵のような綺麗なカップルや」
サラの言葉と共に昭弥の沈黙の度合いが深まって行く。
「で、どうなんや昭弥はん」
「どうとは?」
「どうしたいんや、といっているんや。このままだとユリアはんを奪われるで」
胸の中でずきっとしたが、昭弥は平静を装った。
「それはユリアさんが決めることです」
この世界に召喚されてからユリアには色々お世話になった。特に鉄道に関して全権を任せてくれたのは嬉しい。
出来れば恩返しもしたいが、一緒に居たいと思う。
しかし、ティベリウス卿を見ていると、彼の方が似合っているように思える。
鉄オタで、女性との経験が無い昭弥はどうしても気遅れしてしまう。
「違うわ、商売と同じで双方が決めることや。昭弥はんが決めないと相手も決められへん」
「でも……」
その時、社長室の扉が開いた。
「失礼します」
入って来たのはあ件のティベリウス・ユリウス伯爵だった。
「詳細な打ち合わせをするために参りました」
「ありがとうございます」
昭弥は、丁寧に迎え入れた。
「ええ男やな。顔もええが礼儀正しく爽やかな好青年や」
あっという間に、サラは彼に高評価を与えた。それが余計に昭弥を刺激した。
「では、早速説明しましょう」
そう言って、昭弥は資料を持ってソファーに座った。
「どうぞ」
「はい」
そう言ってティベリウスは、昭弥の横に座った。
「? どうしました?」
「いえ、反対側だと書類が読みにくいので」
「ああ、そうですか」
テーブルごしの説明は昭弥も苦手であり、上下反転した書類を見せながら説明するのは厭だ。こちら側に来てくれるのなら同じ書類を見ることが出来る。
「調査計画と、予定ルートはこのようになっています」
それから昭弥はティベリウスに計画している路線の案内、調査計画、建設計画、資金調達、完成後の運用計画などを話した。
「最大のネックは、伯爵領より先ですね。帝国鉄道と接続する必要がありますが、出来れば伯爵領ないや他の貴族領へも独自の路線が欲しいところです。勿論、輸送出来る採算のある商品がある事が条件ですか」
「私の領地やその周りの領地には森林の他に鉱山資源があるので、良い値段になると思います」
「それはよかった」
「では、計画は実行と言うことで宜しいでしょうか」
柔らかい笑顔をティベリウス卿が言うと昭弥は頷いた。
「はい」
「本日は有意義なモノとなりました。ああ、そうだ。女王陛下から今日の晩餐に昭弥卿も招くように言われているのですが」
「はい、わかりました」
そう言って二人は部屋から出て行った。
「……」
後に残されたサラは、背筋が凍っていた。
「……ええ男なんやが。えらい危険人物に見えるわ」




