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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部 第二章 建設戦争
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ダンジョンに鉄道を敷くのは間違っているだろうか? 6

 準備が整うとレホスは真っ直ぐドラゴンに突撃し、ドラゴンの胴体に剣を突き立てた。

 突然の攻撃にドラゴンは目を覚まし、咆哮を上げる。

 全ての者を怯ませる魂に直接、恐怖を与える声だが、レホス達は怯まずドラゴンに向かって行く。

 エルフの娘が妖精魔法を唱えシルフを呼び、気流を乱して飛べないようにする。魔女がファイアーボールを撃ち込み、クレリックが治癒魔法を唱えて傷を癒す。

 攻撃の中心は言うまでも無く、レホスとピニョンの二人だ。

 ピニョンはレイピアのため攻撃力が低いが手数と、正確さで堅い鱗の間に剣を滑り込ませダメージを与える。

 レホスも、左右の剣を交互に振り、着実にダメージを与える。

 ドラゴンが、クビをもたげ、ブレスを吐こうとした瞬間、ユリアが飛び込み胴体に大きな傷を与える。


「ギャアアアスッ」


 今までに無い悲鳴をドラゴンは上げた。

 堅い鱗を切り刻まれた経験は無いのだろうか、怒り狂い執拗にユリアへ腕を振って攻撃を仕掛ける。

 その間に、レホスとピニョンが脇に攻め込み、柔らかい下腹部に攻撃を仕掛ける。

 そして再びレホス達にドラゴンは攻撃を仕掛けるが、再びユリアの大剣の攻撃を受ける。

 そんなことを数度繰り返したが、ドラゴンは倒れなかった。

 だが、確実に傷を与え、自分たちに目立った損害が無い事で、ユリア達は自分たちに有利であると確信した。

 しかし、ドラゴンもそのことを悟り、後ずさり、動きを止めた。


「拙い! ブレスだ!」


 レホスが叫んで、魔術師達が魔法攻撃で援護をする。

 通常なら溜を邪魔されたドラゴンは接近戦を行うが、今回は怯まず溜を行い、ブレスを吐いた。


「ぐはっ」


 高温の炎が洞窟に高速で吐き出される。

 幸い防御魔法が張られ、昭弥達は軽い火傷ですんだが、なければ死者も出ていただろう。

 だが、近い場所にいたユリアやレホスはかなりダメージを受けたようだ。

 先ほどより、動きが鈍い。


「援護しないとまずいか」


 昭弥は自分の荷物から、紐の付いた細長い筒を取り出した。


「アルムさん。こいつをドラゴンに投げて」


「これは?」


「手榴弾みたいなものです。扱ったことあります?」


「擲弾兵を務めた事があり、手投げ弾を投げたことがあります」


 擲弾兵、グレネーダーズは、擲弾、手投げ弾を扱う部隊で、手投げ弾を投げるための投擲力と、その間無防備になるため敵に撃たれても投げるだけの精神力が必要な精鋭部隊だ。


「こいつは、当たっただけでは爆発しません。導火線が筒に来てから爆発します。気を付けて下さい」


「解りました」


 そう言ってアルムは受け取ると、導火線を切断して火を付けた。そして燃焼速度を見ると、残りの導火線に火を付けてしばし待つ。そして、タイミングを見計らって思いっきり投げた。

 筒はそのままドラゴンの背後に到達し、爆発した。


「ぎゃっ」


「ぐはっ」


「きゃっ」


 今まで経験したことの無い巨大な爆発に洞窟内の全員が驚きの声を上げる。

 空気全体がハンマーとなって全身を猛打したみたいで、これまでの爆弾の爆発が爆竹程度の小さなものに感じる。


「一旦後退しろ!」


 昭弥が叫ぶと、攻撃に出ていたメンバーが岩の後ろの後退する。

 あまりの威力に投げたアルムも一瞬放心したが、直ぐに次の筒に火を付けて、援護を再開する。

 再び爆発が起こりドラゴンは大きくのけぞった。更に筒が投げ込まれ、ドラゴンの正面や腹で爆発し、腕を吹き飛ばした。


「なんだあれは?」


 逃げてきたレホスが震えながら昭弥に尋ねた。


「ダイナマイト。強力な火薬だ」


 アルフレッド・ノーベルが作り出した黒色火薬より強力な爆薬。

 大豆油や獣脂を加水分解したグリセリンと、硫酸と硝石を混ぜて蒸留して作った硝酸を混ぜてニトログリセリンを作りだし、綿に硝酸と硫酸を混ぜて作ったニトロセルロースに含ませて作り出した強力爆薬。

 硫酸は石油精製の過程で出来た。

 ニトログリセリンとニトロセルロースのダブルベース爆薬は火を付けたら燃えるだけなので、黒色火薬で爆破しその衝撃で爆発させる。

 歴史を一変させたと言って良い、発明品だ。


「トンネル工事に使えると思って試作品を持ってきたんだが、ドラゴン退治に使うとは思わなかった」


「……お前に降伏して良かったよ」


 あんな恐ろしい爆弾、まともに食らったらバラバラになる。アレに比べれば連発式の銃なんて可愛い玩具だ。


「ただ、問題が一つあって、試作品で持ってきたのが数本だけ。これ以上打つ手が無い」


 ニトログリセリンや硝酸の製造に手間が掛かるため大量生産には至っていない。

 そのため今昭弥が持っているのは、ほんの数本だ。


「一時撤退だ」


「それには及びません」


 と言って前に出たのは、ジャネット女史だった。


「あんな雑魚、私が出るまでも無いと思い、後ろに下がっていましたが、どうやら私が相手にするに相応しい生け贄のようですね」


 何やら自信満々に碌でもない事を言っている。

 嫌な予感しかしない。


「いでよ。最強魔法ゴーレム、ギガス!」


 黒い水晶を投げたと思ったら、いきなり黒い霧が吹き出しあっという間に、人型になってドラゴンの前に立ちふさがった。

 身体は筋肉質の人間に似ているが、ドラゴン並みに大きかった。


「ほほほほほ。最高の魔術師ジャネットが作りだしたゴーレムに掛かればエンシェントドラゴンなどトカゲに等しいですわ」


 だったら、最初から出せよ。全員思ったが、それはそれで最悪だと言うことに気が付いた。

 ゴーレムはドラゴンに襲いかかり動きを封じ込めようとした。ドラゴンは逃れようと暴れ、もみ合うが、力は拮抗し動かなくなった。その時、ゴーレムの身体が光り始めた。


「うん? どういうことでしょう。って、皆さんどちらへ?」


 ゴーレムの身体が光り始めた瞬間、昭弥達は全速力で大迷宮の方へ引き返し始めた。

 光が最大になった瞬間、ゴーレムは昭弥の作ったダイナマイトの数十倍の爆発を起こして吹き飛んだ。


「いつも通りになったな」


「まったくだ」


 昭弥が呟くとレホスが同意した。


「レホスはジャネット女史の事をしっているの?」


「ここで何回か、魔法実験やって吹き飛んでいるから」


「そんなに来て何をやっているんだよ、あの人。確かに何度も喰らうものじゃ無いな」


 昭弥達は何とか、大迷宮の脇道に逃げ込み爆発の衝撃から逃れたが、余波でも結構身体を猛打された。

 何とか立ち上がり、主通路に向かう。出てくると、他のメンバーも出てきた。

 幸い死者は出ていないようで、負傷した人をクレリックやフローラが、治癒魔法をかけていた。

 不意に冷たい風が吹いてきた。

 振り返ると、入り口を塞いでいた大きな岩が無くなり、洞窟の先の方まで通り安くなっていた。

 昭弥はそちらに向かって歩いて行った。ドラゴンがバラバラになった場所を通り過ぎ、さらに先の方に行くと、目の前には険しい山岳地帯が広がっていた。


「アルプス山脈か」


 吹雪がふくなか、昭弥は、周囲を見回した。


「外縁部のようですね。見て下さい、海が見えます」


 追いついてきたセバスチャンが白いもやの向こう、遠くにかすかだが青い海が見える。


「レパント海か……」


 目的地を見つけて昭弥は呟いた。


「最大の難所を通り抜ける目算が立った。あとは、ここからレパント海に出て行くだけだ」


「しかし、ここから先は王国ではなく他のかたの領地ですが」


「心配ない、この先はトラキアで建設資材獲得のため買収してあったんだ。借金も多いから借金の肩代わりに鉄道建設を認めさせる事が出来る」


 鉄道を使った、国ぐるみの詐欺行為で破綻状態にあるトラキアだ。権利を貰う事など簡単だ。


「レホス」


 昭弥は二刀流の剣士の元に向かう。彼らはドラゴンが溜め込んでいた宝物に集まり分配を議論していた。


「お、おい、まさか俺たちの宝物を横取りする気じゃ無いだろうな」


「まさか、僕たちも戦ったんだからきちんと分け前を貰うだけだよ。簡単に人数割りでどう?」


「しっかりしているな。全部奪うかと思ったよ」


「まさか。これまで納税していなかった分、たっぷり払って貰うだけだよ」


 一応、大迷宮の町はチェニス公爵領にあるので、彼らが持っている金貨などに課税をする必要があると昭弥は考えていた。


「え、でも」


 抗議しようとすると昭弥はダイナマイトを取り出した。


「もう無かったんじゃ無いのか」


「帰りに土砂で塞がっている事考えて予備を持っていたんだよ。使い切ると危ないからね」


「用意が良いな」


「君たちほどじゃないよ。で? 返事は?」


「わかった。きちんと納税するよ」


「ありがとう」


「しかし、命を預けて戦った戦友に課税するなんてひでえぞ」


「大丈夫、こっちからも仕事を依頼するよ。列車が通るとき魔物に襲撃されないように討伐して貰う。依頼料を払うよ」


「俺たちから奪い取った金で支払うんだろ」


「取り返すつもりでやれば大丈夫だよ。それに金額には色を付けるからさ」


「しっかりしているな」


 レホスは、怒鳴ってから肩を落とした。


「そういえば、アルムさんとジャネット女史は何処だ」


 見当たらない二人を昭弥は心配した。

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