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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部 第二章 建設戦争
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案内人アルム

 何とか女性陣の誤解を解いて、昭弥は大迷宮の入り口へ案内してくれる案内人の家に向かった。

 入り口は辺鄙なところにある事が多く、到着するまでに迷うことが多い。

 だから案内人が必要なのだ。


「お待ちしておりました」


 山の麓の一軒家の前で一行を迎えたのは、白い口ひげあごひげを生やした白髪の老人だった。


「案内人を務めさせてもらいますアルムです」


 ただ声には張りがあり、身体はがっちりしており背筋も伸びていて、老いを感じなかった。

 昭弥には国民的に有名な山の某少女の、お爺ちゃんに見えた。


「お聞きしていた人数より大分多いようですが」


「ええ、急に予定より人数が増えてしまいました。食事の用意とはしてきたのでご迷惑は掛けないはずです」


「いえ、女王陛下までご参加とは。私のような老いぼれが案内して良いのかと」


「いや、あなた以外に案内を頼めそうな人はいないので、どうかお願いします」


「はい、誠心誠意、案内させて貰います」


 アルムは深々と頭を下げて言った。




 互いの紹介を手短に済ませると一行は入り口に向かった。


「あそこが入り口です」


 歩き始めて二時間ぐらいで到着する。

 大した距離ではないが、いきなり入るのは危険と判断し、入り口手前で野営して周囲の安全を確保、内部へは余裕を持って入る事にした。


「野営に適した場所はありますか?」


「この先に川があり、降る途中に平らで木が疎らな場所があります。そこが宜しいかと」


「うむ。良い場所だな」


 とマイヤーさんがいった。


「どうしてです?」


「水が確保出来るのは良いことだ。飲み水などを確保しやすい。かといって河原だと洪水の可能性もあるが、中腹なら水浸しになる心配は少ない。それに木が疎らで見張がし易い。良い場所だ」


 明朗とした意見に昭弥は感心した。

 ただ女王の近くに居るだけでは無いのか。


「なんか失礼なことを思っていないか?」


「いいえ!」


 昭弥は反射的に答えた。

 マイヤーの追求を避けた後、一行は野営の準備を始めた。

 テントを張り、水を汲んで、夕食の準備をしていた。


「何を作るつもりです?」


 調理担当になった昭弥にティナが尋ねてきた。


「クレソンがありましたから、野菜は良いんですけど、出来れば肉ですね。干し肉が有りますけど出来れば新鮮な肉があると良いですね」


 鉄道写真を撮るために野外で食事を取ることもあった昭弥はキャンプ料理のスキルもあった。

 小川の近くにクレソンがあると香り付けに使ったり、山菜を入れたりしている。

 生肉も醤油漬け、タレ漬けにして腐敗を抑えて持って行き食べることがある。

 ジャーキーをシチューに入れるのも良いが、バターで腐敗防止をした生肉を入れる方が美味しい。


「そうですか。一寸待っていて下さい」


「え?」


 そう言うなり、ティナは近くの森の中に入っていった。

 そして数分後、動物の断末摩が響き渡った後、ティナが鹿を担いで持ってきた。


「上手く見つけられました。一寸そこの河原で解体してきます」


「う、うん」


 そういって、トコトコと歩いて行った。


「これで、メニューは鹿鍋に切り替わったな」


 紅葉鍋だろうか。いやバターとか多いからどうしよう。


「一寸取ってくる」


「私も失礼」


「え?」


 料理の事を考えていた昭弥を尻目にユリアをはじめとする彼女たちは次々と森の中に入って行く。

 そして森は地獄になった。


「こら! 逃げるな!」


「それ私の獲物!」


「早い者勝ちよ!」


「邪魔だどけ!」


 戦場と間違うような怒号と悲鳴が轟く。彼女たちの攻撃、いや一方的な虐殺により、動物たちは獲物となった。

 終いにはユリアの魔力攻撃により森の一部がクレーターと化して消滅した。


「そこまでやる必要は無かったんだけど」


 帰ってきた彼女たちに昭弥はいった。


「まあ、食事の為にそこまでやってくれて嬉しいけど」


 採れた食料の種類が豊富になってしまった。鳥に熊、狐と豊富だ。

 鳥の巣を発見して卵も手に入った。


「食事にしようか」


 野菜を混ぜたペミカンを中心に採れた鹿肉を入れてシチューにする。案内人のアルムがミルクを持ってきてくれたからホワイトシチューにする。

 熊の肉は、普通に煮込んで臭みを取った後、赤ワインで煮込む。

 鶏肉は焼き鳥にしたり、丸焼きにした。


「思いもかけず豪華になってしまった」


 だが、大人数にこれらの料理は好評だったようで、全員が満足していた。




 夜中、皆が寝静まった中、見張に付いたアルムが周囲を警戒していると、誰にも気づかれないように森の中に入っていった。

 足音を立てずに歩いて行くと、目の前にゴブリンの群が居た。

 大迷宮の中から出てきたのか、入り口から一行がキャンプをしている方向へ歩いていた。

 そこへ、アルムはゆっくりと近づき、最後尾が過ぎると直ぐ後ろの列に加わる。

 暫く、一緒に歩いてゴブリンと行動を共に取るようになったとき、最後尾のゴブリンのクビに腕を絡めると、一挙に力を込めてへし折った。

 命を奪われ力の無くなったゴブリンを物音を立てぬように地面に降ろすと、再び歩き、何事も無かったかのように二匹目のゴブリンを同じように殺した。

 それを幾度か繰り返したが流石に一匹が気が付き、声を上げようとしたが、アルムの投げたナイフの方が早く、喉を潰され倒れた。

 残ったゴブリンも声を上げる前に喉を裂かれ、地面に倒れていった。

 一団を全滅させたアルムは、ゴブリンを物陰に一体ずつ押し込み、見えないよう木の葉で覆った。


「お見事ですね」


 死体を片付け終わった時、セバスチャンが声を掛けた。


「見ていたのですか」


「結構警戒しないといけないので」


 元盗賊として、昭弥の周辺を警戒する必要があり、怪しい奴は調べておかないと行けない。


「しかし見事な腕ですね」


 離れてゴブリンの群に入った瞬間、裏切り者かと警戒していたが、手際よく処理した姿に寧ろ感心を抱いた。


「そんな腕を何処で」


「ここいらは何ら産物がありませんで、各地に出稼ぎを」


「その腕で」


「はい」


「傭兵と言うことですか」


「そうです」


 何ら隠すこと無くアルムは肯定した。

 傭兵。

 兵隊が少ないとき貴族が募集する兵隊となったり、戦場で売り込んで兵隊になることは多い。何の産物もない場所では人間を売り出し、傭兵をするところも多い。

 アルムもその口で、数年前まで傭兵として各地で活躍していた。


「しかし、今回は普通に案内人をすれば良いのでは?」


 セバスチャンはアルムの事を疑っていた。これほどの凄腕が何か隠しているように思えてならなかったからだ。


「我々以外にも依頼主がいるのでは?」


「村長からの依頼でして」


 アルムは躊躇うように答え始めた。


「女王が暴れないように見るようにと言われました」


「必要ですか?」


「昼間の行状を見る限り」


「済みません」


 最新のクレーターを思い出したセバスチャンは反射的に謝った。


「辺鄙な土地の森のように見えても薪を得たり獲物を得たりするのに必要なので、壊されると困ります。しかもジャネット女史も居りますし、幾度か仕事で酷い目に会いましたから」


「敵として?」


「味方の時、巻き込まれて酷い目に」


「あー」


 凄く共感出来る言葉だったのでセバスチャンはそのまま認めた。


「今密かに処理したのもそのためですか?」


「見つければ、また戦闘でしょう」


 確かに新しいクレーターを作る必要などない。と言うより彼らが困る。


「……なるべく破壊しないようこちらでも何とかします」


「どうかお願いします」


 そう言って互いに納得した二人はキャンプ地に戻った。 

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