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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部 第二章 建設戦争
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軽便建設

「社長、陳情が集まってきていますよ」


 書類の山、陳情書の束を持ってきてセバスチャンが言った。


「どんな陳情だい?」


「ウチの町や村に鉄道を敷いてくれ、という陳情です」


 現在、安全確実で有効な大量輸送機関が鉄道しかないため、ウチの村に通してくれ、町に鉄道をと言う依頼がひっきりなしなのだ。


「王国鉄道は既存の計画線を作るだけで精一杯だよ」


 だが、昭弥は断っていた。現在の所、計画を達成するだけで手一杯で、一から新規線を作る余裕はない。


「オスティアやチェニスに向けてもう一本作っているのに、どうしてウチに通してくれないんだと力強く書いていますよ」


「あれは高速線だからね」


 最近完成した高速線の事をなじられているようだ。

 あれは需要量が王都とチェニス、オスティアの間で多いから作ったのであって、十分利益が出ることを考えて作られている。鉄道の運営というのは、それ相応の経費と維持費が掛かる。路線を延ばすというのは、それだけ経費が掛かるし収入が見込めない限りやるべきでは無い。

 事業が拡大するのは良いことだが、目が届きにくくなると言うことでもあり、不用意にやるべきでは無い。

 それに今は計画した路線を作っていくだけで精一杯であり新たに建設していくというのは難しい。


「ですが、酷く多くて断るだけでも大変です」


「しょうが無い、自分たちで作って貰いましょう」


「え?」


 とんでもない提案にセバスチャンは驚いた。


「自分たちで建設出来るんですか」


「軽便鉄道が有るだろう。それを敷設して貰う」


 軌間五〇〇ミリを標準にして昭弥は製造していた。


「アクスムの警戒線建設が終わって大量に余り始めているからね」


 縦横無尽に走らせる為に作っていたのだが、アクスムの内戦が終了し始めているので、キャンセルが多くなり工場に在庫が出始めている。


「これを安く売るんだ。簡単に敷設出来るから簡単に開通出来る」


「しかし、王国鉄道に接続出来ませんよ」


「良いんだよ。利用の大半は町中か村の中だろう。畑の作物を収穫して一箇所に集めたり、近くの駅に運ぶ程度だから大丈夫だ」


「納得してくれますかね」


「納得して貰うよ。と言うより、接続なんてしてみろ。ダイヤが乱れて混乱するぞ」


 勝手気ままに貨車を王国鉄道の中に走らされては事故発生は確実だ。


「……確かに」


「安全の為にも分離させておく必要がある」


「建設は出来るんでしょうか?」


「指導者は必要だろうけど、建設自体は簡単だよ。建設の指導者を紹介したり、軽便鉄道の機関士を紹介したり、訓練するための体制を作れば安全だ」


「整備はどうします?」


「日常の点検とか簡単なものは自分たちでやって貰う。けど、ボイラーの検査とか分解検査はウチでやるよ」


 アクスムでも行った事だ。十分出来るはずだ。


「わざわざ行くんですか?」


「いや機関車は小型だから、標準軌の貨物列車に乗せて運ぶことが出来るから、工場に運んで検査させれば良いよ」


「それだと便利ですね」


「陳情書を出す人達に軽便鉄道を紹介して。後は自分たちでやれば良いし」


「けど機関車を買えるところ有りますかね」


「貨車のみで手押しだけでも十分に使えると思うよ」


「まあ確かに簡単に運べますね」


 一般に鉄道は車両の五十分の一の力で動かせる。例えば車両の重さと積み荷の合計重量が一トンでも二十キロぐらいの力で運べるのだ。

 エンジンが止まった自動車でもニュートラルにしてブレーキを踏まなければ、平坦な地面なら大人一人で押して運べるのと同じだ。


「さあ、これらの利便性を説明する計画を立てよう。各町村や農協や駅長会に通達しておこう」




 王都から東の位置にあるカンザスの町。かつては小さな村だったが鉄道開通により町に発達している。

 そこの農協の役員をしているガブリエルが幼なじみであり駅長であるトムの元を訪れた。


「よお、ガブリエル。今度の貨物列車はダイヤ通りにやって来るぞ」


「解っているよ。それより相談があるんだ」


「なんだ?」


「軽便鉄道を敷けないかな?」


 ガブリエルはトムに問いかけた。


「農協の全国会から紹介がやって来たんだ。軽便鉄道を畑の周りに敷いて作物を製粉所や駅に繋げれば能率が上がるって言うんだ」


 そう言ってガブリエルは全国会が配っていたチラシを見せた。


「出来るかな」


「ああ、大丈夫だ」


「早いな。大丈夫なのか?」


「本社から軽便鉄道の建設に協力するように言われているんだ。手続きの窓口となり、技師の紹介や手配などを行えと」


「それはいいな。どれくらい掛かる?」


「手空きの技師が来れるかどうかにもよるけど、数日で来てくれると思う」


「村中に広がると良いな」


「いや、最小限に抑えておけとの社長命令だ」


「どうしてだ?」


「下手に広げすぎると、維持管理が難しくなるそうだ。だから最小限に抑えろと。俺も同意見だよ」


 保線作業の経験もあるガブリエルが答えた。

 軽便はどうか知らないが標準軌での保線作業は結構な力仕事だ。研修の一回のみだが、もう二度とやりたくない。


「最小限に抑えておいた方が良い」


「機関車が走るのは外せないぜ」


「ここだと機関車があった方が良いな。作物の取扱量が多いから運ぶ量も多いんで機関車じゃ無いとやっていけないだろう」


「そりゃいいや」


「とりあえず見積もりはこんなものかな」


「直ぐ出せるのか」


「簡単な見積もりぐらいは出せるようになれと言われているんだ。専用のマニュアルもあるしね。総延長と機関車と貨車の車両数から出しただけだから大雑把だが、正確に見積もればもっと安くなると思うよ」


「助かる。農協の役員会に出してくるよ」


「おう、良い知らせを待っているよ」


 そう言って二人は別れた。


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