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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部 第二章 建設戦争
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高速線運用

明日は18時代に投稿予定です

「第一閉塞進行確認!」


「第一閉塞進行確認!」


 主任機関士の声を受けてハインツ・エーベルは復唱した。


「釜の火の様子を見落とすな。安定して走らせるには火力の維持が大事だ」


「はい!」


 炎の色を見ながら猪人族の少年機関士ハインツは慎重に石炭をくべる。

 燃え方のおかしな場所を見つけてくべる。


「ふう」


 今まで以上に大きなE7機関車への乗務を命令されて動かしている。

 操作の配置や基本的な手順は変わらないので、何とかなっている。

 機関士から機関助士に降格された格好だが、新しい路線、王国鉄道の新型機関車へ乗務するため各地から優秀な機関士が集められている。

 各地で機関士だった人でも機関助士として乗り込み、機関車の運転に万全を期そうとしている。

 そのため、降格と嘆く人間は居なかった。

 ハインツも将来アムハラへの延伸が計画されており、実際に建設準備も行われている。

 その時、機関士としてE7機関車を動かすことをハインツは上層部から期待されており、今回の配置となった。

 そのため、ハインツは徹底的にE7機関車を知ろうと毎日精勤していた。


「ソロソロ、給水地点だ。給水準備」


「はい!」


 主任機関士に言われたハインツは給水車の脇にあるレバーを引いた。


「準備完了」


「直ぐに来るぞ、水位計に注意!」


 やがて、前方、レールの間に何か黒い箱が置いてある場所に近づいて来た。

 機関車はスピードを落とすこと無くその上を通過して行く。そして炭水車の下から、音が響くと共に水が流れる音が炭水車から流れる。


「水位上昇中。異常なし」


 炭水車の水位計を確認していたハインツが報告する。

 黒い箱は給水用の水槽だった。炭水車にある下部吸水口を展開させる事により機関車の自走によって自然と水が給水車に入ってくるのだ。

 実際にイギリスで使用されて給水停車を行わず表定速度を上げることに成功している。

 仕組みは簡単でレバーを引くとコロの付いたアームが伸びる。コロが水槽に触れると押し倒されて吸水口が炭水車から出てきて給水開始。水槽の端に来るとアームを倒すものが無くなり吸水口が収納される。

 これによって水槽に吸水口が激突することはない。

 約一キロほどの給水ポイントは直ぐに終わり、給水は完了した。


「給水完了! 吸水口収納します」


 不用意に吸水口が展開しないようにレバーを元の位置に戻しておく。


「これで一時間以上は走れるな」


 給水ポイントは六〇キロ毎に設置されている。

 一箇所で何らかの給水が失敗しても次の給水ポイントで給水して運転継続が出来る様になっている。


「ええ」


 その間、必死に石炭をくべることになる。

 自動給炭装置があっても気を抜くことは出来ない。

 だが長時間の運転は運転者の疲労による事故の元になる。

 その対策も考えられていた。


「交代の時間です」


「おう、ありがとう」


 後ろの扉から交代の機関士と機関助士がやって来た。

 炭水車の中に移動用の通路が作られており運転中に交代することが出来る様になっていた。


「現在、一八〇キロポイントを通過。給水成功、あと二〇〇キロは走れます。異常はありません」


「了解しました。運転引き継ぎます」


 互いに申し送り事項を伝えると、ハインツと主任機関士は炭水車を通り、追加給水車に設けられた休憩室に入った。


「さて、二時間ほど休憩だな」


「はい」


 一概には言えないが、列車の運転は一時間から二時間ぐらいが限界だとされている。人の集中力が切れずに運転出来るのはそれが限界だという仮説からだ。


「乗務には慣れたか?」


「ええ、お陰様で」


 ベットに横になりながらハインツは答えた。


「ああ、そのまま。身体休めておけよ。しかし、社長もえらいものを作ってくれたよな」


「そうですね」


「噂だとこれよりデカい機関車を考えているそうだ」


「本当ですか?」


「ああ、今までよりも更にデカい列車走らせるために、より大型の機関車を設計しているという話しだ」


 その話しを聞いてハインツは興奮した。

 現時点で最大のE7型機関車以上の機関車を開発投入するとは。


「是非乗ってみたいですね」


 ハインツは、興奮のあまり良く休憩出来ず、次の勤務ではフラフラだった。




「高速線の運用は順調です」


「よかった」


 セバスチャンの報告を聞いて、昭弥は安堵した。

 本来なら新幹線方式で行いたかったのだが、ATSどころか電気式の信号装置も無い世界でそんな高度なものを製造する能力がないので無理。目指してはいるがまだ先は長い。

 今はこれで我慢だ。


「帝国鉄道は?」


「一部の利用者を取られており、巻き返しを行うべくスピードアップと輸送量を増やしていましたが脱線事故を起こしました」


「ああ、列車が線路を飛び出して落ちたんだよね」


 昭弥は報告を読んで事故の理由について研究していた。


 原因はバラストが無いため、レールが不揃いに沈下したためだ。バラストは枕木だけに掛かる重量を分散して地面全体で受け止めてもらう重要な構成要素だ。それが無いため枕木の場所だけ沈んだ。一様に沈めば良いのだが、片方だけ沈むとか特定の場所だけ沈むなどの問題が起こっていた。さらに列車の輸送量が増えた、その分車輪に掛かる重量が増えて沈み込みが増えてしまった。結果、線路が波を打ち、そんな場所で高速を出したので、脱線していた。


「しばらくは改良工事に付きっきりだろうね」


 バラストを敷き詰め、レールの沈み込みを抑える必要がある。中々の大工事で時間が掛かるだろう。


「帝国鉄道は当然ですが、わが王国鉄道でも問題が発生しています」


「なんだい?」


「到着駅が一杯になりつつあります」


 王都南駅が王国鉄道の中心地であり多くの列車が乗り入れている。

 普段からオスティア方面、北方方面、チェニス方面、セント・ベルナルド方面の列車、それも各駅停車、急行に通過のみだが貨物列車も通っている。

 そこへ今回の高速線の列車が入ってくる。


「どうにかしませんとパンクします」


「通過式にしたけどやっぱり限界か」


 ホームには大きく分けて頭端式と通過式の二つの方式がある。通過式が最も多く通過駅に使われる。ようは片方から入って来て反対方向へ通り抜けることが出来る。

 一方頭端式ホームは終着駅やターミナルに多い方式だ。

 小田急新宿駅や梅田駅、南海の難波駅とかが有名な頭端式だ。

 大量の人々を捌けるのでターミナル駅には便利だが、欠点もある。


「列車の停車時間を短く出来るから良しとしたんだけど」


 こういう経験は無いだろうか? それまでものすごい勢いで電車が駅に侵入していたのに、ターミナル駅、頭端式の駅に近づくと急にノロノロになったと。

 混雑もそうだが、通過式と頭端式では進入速度が違う。

 何故なら事故、オーバーラン、停車位置を過ぎてしまう事を起こしたときの被害が違うからだ。

 通過式ならオーバーランしてもバックすれば良い。最悪でも数分の遅れが生じるだけだ。

 一方、頭端式は違う。オーバーランしたらホームに激突。最悪の場合改札まで電車が暴走する。

 どちらの被害が大きいかは自明の理だろう。

 それを避けるために万が一、ブレーキをかけるのが遅れても直ぐに止められるようにワザと進入速度を落としているのだ。

 線路を改造したり予め高速進入出来るよう、東京駅中央線ホームの様に設計していれば問題無いが、そんな高度なやり方が出来るほど昭弥は専門家ではなかった。


「機関車の入れ替えも無いから早く移動出来るんだけどな」


 何より便利なのは、機関車の付け替えをしたりバックで進入する必要が無いからだ。

 機関車は客車の前に繋がるのだが頭端式だと頭から入ったら、進行方向と逆方向になるため、北斗星やカシオペアの上野駅入線のようにバックで進入する必要がある。

 バックそれも長大な編成だと安全の為にノロノロと進入する必要があるから余計に時間が掛かり、捌ける列車の数に限りが有る。

 特に加減速、スピードを出したり遅くしたりするのが苦手な機関車を使う鉄道会社、特に運転本数の多い王国鉄道としては致命的に近い。

 昭弥は南駅を通過式にして駅の前後に車両基地を設けて進行方向と逆側の基地で客車を整備して機関車を繋げた後、駅に行かせ、お客を乗せたらそのまま出発させていた。到着はその逆でお客を降ろしたらそのまま前進させ、最寄りの車両基地に収めるのだ。

 これのお陰で大分、運転本数を増量させる事が出来たのだが限界のようだ。


「大丈夫だ。それに関してはもうすぐ解決するよ」

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