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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部 第二章 建設戦争
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高速線準備

2/13 誤字修正

 高速線の建設決定から数日後。

 早速工事が始まった。

 予め用地買収を済ませていたので行動は迅速だった。

 昭弥はその現場を視察しに来た。


「結構進んでいるね」


「ええ、早いものです」


 随行したセバスチャンが答えた。ちなみに先日秘書になったオークのムワイも連れている。獣人族の秘書は連れていない。本社で書類仕事をたんまりと与えて働かせている。

 下手に付いてくると昭弥の話を折るからだ。また彼女たちも昭弥の技術的なマシンガントークを聞かずに済むからだ。

 工事現場は活動的だった。

 標準軌の路線が脇に一つずつ、そして中央には巨大な盛り土と、そこへ土を運んで行く作業者。

 盛り土が高くなってくると軽便鉄道が引かれて、土を盛り土の天辺まで運んで土を捨てて、更に高くして行く。高くなったらそこに軽便の線路を敷いて前の線路を撤収しそこに土を投げて行く。

 そうやってドンドン作業を進めていた。

 ただ、不思議だったのは工事現場から音楽が流れてきたことだ。それも複数の楽器を使った複雑な曲で太鼓の様な振動音が特徴的だった。


「土はどうやって固めているんだろう」


「あちらです」


 見ると巨人と巨大猿人族、オークが岩を大量に入れた篭を担いで鉄下駄のような物を履いて周囲の楽師たちが奏でる音楽に合わせてタップダンスをしている


「……」


 何を言っているかわからないかもしれないが、昭弥にはそう見えた。


「……何をやっているんですか?」


 たまらず昭弥は現場監督に尋ねた。


「土を固めているんですよ。巨体を持つ人達に重い物を背負って貰いながら踊って貰い、土を固めるんです。地面は固まり楽しいので、はかどります」


「でしょうね」


 半ば感心、半ば呆れながら昭弥は同意した。

 ろくな機械が無い中ではアレが一番効率よく土を固める事が出来るだろう。


「計画書通りに進んでいるかい?」


 昭弥は建設計画書を見ながら現場監督に尋ねた。


「はい、一メートル毎にスラブを使った杭を打ち付けています。これで軸重三〇トンに耐えられるはずです」


 現場監督が答えた。

 普通に昭弥がいた世界の単位を使っているが、これは昭弥のせいだった。

 この世界の元々の単位、メル、リブラなどがある。昭弥もはじめはなるべく意識して変換していたが、鉄道計画を進める内に忙しくなり指示書に元の世界の単位を書くようになった。事務員の人が修正するようになったが、段々と量が多くなった上、この世界にない単位、圧力、気温などが出てくるとどう対応させるかが議論になった。

 だが、短期間で建設しなければならず、そんなことに頭を悩ます暇は無かったので、昭弥のいた世界の単位をそのまま使う事となった。

 幸い、殆どの単位が元の世界とほぼ同じだったので、大きな混乱は無かった。

 それでも微妙に違うので、専用の物差しを作るなどの手間はあったが、王国鉄道の規格として王国鉄道を中心に広がりつつある。


「沈み込まないように頼みます」


「お任せ下さい」




「しかし、一寸不便なような気がします」


 セバスチャンが昭弥に疑問をぶつけた。


「どうしてだ?」


「高速線は途中駅が少ないので沿線の住民が使えないような気がします」


「それは正しいよ」


 新幹線の近くに住んでいるが、駅が遠いという人は多い。

 東北新幹線の上野、大宮間とか、品川、新横浜間とか、新幹線が目の前を走っているのに使う予定が無いとは言え、乗車出来ないという人は多いだろう。


「そこで脇に作った作業線だ。あそこを鈍行線の運行用にして周辺住民が使えるようにする。高速線への接続箇所もいくつか設けている」


「あの一寸気になったんですけど」


「なんだい?」


「高速線を走る車両はどんな車両が走るんでしょうか?」 


「良い質問だね。一寸大きめにする」




 そう言って昭弥が連れてきたのは、車両試作工場だった。

 そこで製造されていたのは


「何じゃこりゃ」


 セバスチャンが見上げるほど大きな巨大列車だった。


「高速線で専用に走る超大型車両だ」


 スーパーライナーという車両群をご存じだろうか。

 アメリカの二階建て客車なのだが、非常にデカい。映画の暴走特急に出てくる車両で全高四.九メートルと二階建ての家に匹敵する。

 日本の総二階建て新幹線Maxが四.五メートルだから四〇センチほど高い。


「これなら乗客を今までの二倍は乗せることが出来る。一編成辺りの収入を増やすことが出来る」


「凄いですね……でも引っかからないんですか?」


「実は最初からこれを導入する事を念頭に駅の設計をしていたんだ」


 移動通路を地下にしたり、高架を高くしておいたり、出来ないときは後から高さを上げられるようにしておいたりしたある。


「これなら確実に上手く行くだろう」


 昭弥は胸を張って答えた。自己陶酔に近いが、その姿は自信に満ちていた。


「凄く生き生きしているな」


 意気揚々と話す昭弥に新たに秘書になったオーク族のムワイ・オディンガが言う。


「この程度で驚かないで下さい」


 隣にいたセバスチャンがムワイに注意した。


「どうしてだ?」


「身が持ちませんよ。いつもあっと驚くことばかりやるんですから」


「どうしたんだ?」


 ウンザリした気分で話すセバスチャンを見て昭弥は尋ねた。


「いえ、何でも」


 昭弥に尋ねられて、セバスチャンは、ごまかした。


「ところでどれくらいの所要時間で結ぶんですか? 高速線と言っていますけど」


「王都からオスティアまで十時間チョイだね」


「え? 表定時速百キロですか」


「そうだよ」


 表定時速とは時刻表上の速度だ。例えば百キロ先の駅に一時間で到着出来るとすると表定時速は時速百キロになる。営業最高時速、お客や貨物を乗せて走らせる最高時速はあるが、常に列車が動いているとき出している訳では無い。普通、出発するときは加速して到着するときは徐々に減速する。さらにカーブと直線では通過速度が違う。そういった走行を考慮した上で、駅間の距離を予想所要時間で割ったのが標定時速だ。

 乗客と運転管理者には重要な指標になるだろう。


「けど、停車時間や入れ替えを考えると実行出来ますかね」


 しかし最高速度、平均速度と一致する訳では無い。出発して最高速度になるまで時間が掛かるし停車駅があると減速の時間、停車時間が必要になる。

 そのため最高速度を長い時間維持して平均速度を上げる必要がある。


「それだと最高速度で一六〇くらい必要では」


「営業最高速度はそうなるね、平均速度は一二〇位で行けるはずです」


「停車駅少なくしても給水が必要になりますよ」


 特に蒸気機関車だと機関車の入れ替え、給水という作業が必要になる。蒸気機関車の水は蒸気にしてピストンを動かした後、外に放出する。大体二時間位の運転で満水にした炭水車の水が無くなる。

 王国鉄道では各駅に給水場所を設けて給水時間短縮を行っている。


「そのためにこの機関車を用意しているんだ」


 そう言って昭弥が見せたのは、動輪が五つの大型機関車だった。


「E7大型機関車、高速線用に作って有る」


 車輪配置は、2-E-2。


「動輪が五つというのは、知っている限り日本には無かったんで、作るのに少し神経を使ったよ。動輪が五つもあるとカーブが曲がりにくいからね。第一と第五の動輪をフランジレス、車輪がレールから外れないように車輪の縁の出っ張り無くして動かそうと思ったが、新幹線並みの曲率半径なら消耗せずに使うことが……」


「あの社長」


 昭弥の話が長くなりそうだったのでセバスチャンが口を挟んだ。


「それでも今までの大型機関車と変わりませんよね。給水はどうするんですか?」


「考えてあるよ、追加の炭水車を付けている。いや水だけだから給水車か。これで倍ぐらいには増やすことが出来るはずだ」


「それでも四時間程度ですね。余力を設けておくことを考えるとかなり厳しいのでは?」


「そこもきちんと考えてあるよ」 

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