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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部 第二章 建設戦争
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ルテティア勅令

 昭弥が原油産地で誘拐された直後、皇帝フロリアヌスが王都ルテティアにおいて後にルテティア勅令と呼ばれる一つの宣言を行った。

 帝国の随行員及び王国の昭弥を除く閣僚とユリアを集め、文武諸官が立ち並ぶなか、皇帝は口を開いた。


「先の大戦により帝国は領土を拡大し、広がった。また新たな英雄が生まれ、帝国に尽力してくれる貴族となり帝国を支えてくれよう」


 芝居がかった台詞を皇帝は情感たっぷりに述べて行く


「そして帝国の支配下に置かれたからには彼らを保護し迎え入れなくてはならない。また帝国貴族がその力を発揮出来るよう、彼らの土地と帝国を結びつけなくてはならない。これは帝国為政者として当然の義務である。故に私は彼らが帝国中に移動出来るよう、帝国政府主導の元、新たな領土とを結ぶ街道と鉄道の整備を行う事を宣言する。諸王国、諸侯はどうか協力してもらいたい」


 この宣言は目の前で聞かされたユリアはじめルテティア王国要人に衝撃をもたらした。

 新領土の殆どは、ルテティア王国周辺にある。新たな帝国貴族の領地もルテティア国内若しくは周辺にある。

 つまり、ルテティア王国内に帝国鉄道が張り巡らされるという意味だ。

 これまでは王都にしか来ていなかったが、帝国の鉄道が王国中に張り巡らされる。

 既に王国中に伸びている王国鉄道と競合することになる。

 下手をすれば帝国鉄道に乗客を取られる。


「しまった」


 思わず、ユリアは舌打ちした。

 景気よく皇帝が王国内の人間を帝国貴族に任命していたのは、この時の為だ。

 彼らの領地に帝国鉄道を敷くという大義名分で鉄道を建設出来る。


「皇帝陛下、恐れながら申し上げます」


 焦ったユリアは、皇帝に意見した。


「既に王国には王国鉄道が敷かれ、各地を結んでおります。これ以上の鉄道の敷設は不要かと。利用者が疎らになる可能性も有りますし」


 もし帝国鉄道が国中に張り巡らされてしまったら王国は再び衰退してしまう。

 そうなれば今までの苦労が全て水の泡だ。

 重複することで不要な建設費が掛かるのでは無いかと述べて再考を促す。

 古来から街道を作っており新しい街道が古い街道の利用者を奪って衰退しやがて無くなったことも多い。また幾つもの街道が同じ方向に向かった結果、それぞれの街道から日とがいなくなり全て廃道になったという例もある。

 それらを指摘して中止させようとした。

 だが、皇帝は聞かなかった。


「ユリア女王の懸念はもっともだ。しかし、それは王国の鉄道だ。帝国のものではない。帝国には帝国各地を結ぶ街道などの交通手段を整備する義務がある」


「ぐっ」


 皇帝が言うように帝国政府には帝国中に街道や水路などを整備する義務がある。これは古来からの法律であり、帝国が資金を出すとは言え、諸侯も手伝うこと、土地の提供や、労働力の提供が義務となっている。

 その法律を拡大解釈あるいは現状に当てはめて鉄道も含まれると皇帝は言っていた。

 現にこうして帝国は各地に鉄道を敷いていた。

 帝国法を前に押し出されてはユリア達には、何の対応策も無い


「これより直ちに計画を実行する。直ちに仕事に入り給え」


「お待ち下さい。只今担当の大臣が居りませんので、相談してから」


「帝国としては一刻も早く新たな臣民、市民を受け入れなければならない。これ以上待つ訳にはいかない。寧ろ、今まで行わなかったことこそ、帝国の不名誉だ。雪辱を果たすためにも今すぐにでも始める。これ以上の遅延を求めるのは帝国への反逆にあたるぞ」


 そこまで言われてユリアは黙るしか無かった。

 自分は確かに勇者の血を引き、絶大な力を持つ。だが、それは破壊するだけの力であり個人の力だ。大勢を畏怖させることはあっても、導いたり承認される資格はない。

 公的な資格は帝国内にあるルテティア王国の女王。帝国の法によって守られる代わりに帝国の法に従わなければならない。

 そして、いま帝国から離れる事は出来ない。

 国力が増しているとは言え、帝国への中継ぎ貿易などで国を成立させているため、離れる事は出来ない。


「さてユリア、返答を聞かせて貰おう」


「……陛下の御心のままに」


 結局、ユリア達は帝国の宣言を受け入れるしか無かった。




「これで鉄道に頼る王国に帝国の鉄道網を広げることが出来るなガイウス」


「左様です陛下」


 布告を終えた皇帝は控え室で帝国宰相ガイウスに言った。

 この日のために慎重に事を進めてきたのだ。

 ルテティア王国内の貴族を幾人も帝国貴族に任命し領地を認め、新領土領有の交換条件に小さいとは言え帝国直轄地を各地に設定。

 そうやってルテティア国内に幾つも結ぶ先を設けて、鉄道建設の口実を作っておいたのだ。

 そして、鉄道に詳しい昭弥が帰ってくることの出来ない状況を作り出して、ユリア達が単独で決断しなければならない状況に陥れ、帝国の政策をごり押した。


「久方ぶりに上手く行ったな」


 このところことごとく、思惑を外されてきた皇帝としては久方ぶりにユリアを出し抜けた事に深い満足感を感じていた。


「先の大戦ではルテティアを利するだけであったな。だが、今度は違う。外部からでは無く内部から滅ぼしてくれる」


 帝国鉄道を敷設することにより、王国鉄道から利用者を奪うという手段に出てきた。

 戦争によって滅ぼすことが出来ないのなら、内部から崩壊させてしまえば良い。粗を見つけ出して王国を取り潰しても良いのだがルテティアの経済力は魅力的だし、その資金が下手に使われた帝国の経済に大きな損害を与えられたら目も当てられない。

 だからこそ、回りくどいが王国を内部から崩壊させるため、鉄道で王国を衰弱させる策を使うことにした。

 幸い、帝国法があり王国はそれを遵守する義務がある。

 帝国貴族領と直轄地を結ぶという大義名分の元、好きなように王国内に街道、鉄道を作ることが出来る。


「資金は十分か?」


「はい、マラーターが鉄道利用料の低減、優遇使用を条件に多額の融資を行うと申し出てきました」


「小さな島国のくせに溜め込みおって。まあいい。香辛料などが格安で入ってくるのは帝国としても喜ばしいことだ。黙認しよう。しかしデルモニアという国を作った魔族、魔王も不甲斐ないな」


 呆れ気味に皇帝は呟く。


「小物一人誘拐して確保出来ぬとは、伝承通りに滅ぼされおって」


 出来れば昭弥を奪い自分の手駒にする事で、より大きな打撃を与えたかったのだが、デルモニアの失敗のお陰でご破算となり、ただ一つ失敗した。


「はい鉄道の専門家を確保することが出来なくなりました」


「なに、本国にも鉄道建設に携わった者達がいる。彼らに任せれば良いであろう」


「既に手配済みです。近日中に着工し、早期に完成させる予定です」


「よろしい。ユリア、貴様の王国を取らせて貰うぞ」

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― 新着の感想 ―
なんか、時系列がおかしくない? なんで魔王がやられたことを、王国にいる皇帝がこのタイミングで知ってるの?
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