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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部 第一章 アクスム総督
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勇者と魔王

これで第二部第一章を終えます。

明日からは第二章建設戦争となります。

しばらくは鉄道三昧の日々に突入です。


2/7 文章修正

2/7 誤字修正

 魔族達が昭弥を籠絡しようとしていたとき、突然ホールの扉が吹き飛んだ。


「何事だ!」


 魔王が怒鳴ると、屈強な牛の頭をした怪物ミノタウロスだろうか、倒れ込みながら伝えた。


「に、人間の一団が攻め入ってきました。門番にあたっていた者達が倒されました」


「どれだけの兵力だ」


「数人のパーティーですが、一人が小さいくせにとんでもなく強いです」


「たった一人に潰されるとは……この役立たずが!」


 怒った魔王は腕を斜めに振り上げ、ミノタウロスに振り下ろした。

 横撃を顔に受けたミノタウロスは、そのまま潰され身体を残して頭部を床にぶちまけた。

 屈強なミノタウロスを一撃で倒すとは流石魔王と言ったところか。

 だが、昭弥として一番気になるのは、入って来た人物だ。

 魔王と敵対しているのなら自分の味方で助けに来てくれた可能性が高い。しかし、昭弥は悪い予感しかなく、助かったと言うより死亡フラグにしか思えなかった。

 何しろこんなことを出来る人物は一人しか居ないし、この状況では、怒らせることしかない。

 煙が晴れると、高いヒールを床に響かせながら入って来たのは、昭弥の予想通りユリアだった。


「昭弥! 大丈夫……」


 最初のかけ声は昭弥を見た瞬間、尻すぼみになった。

 女性の妖魔に揉みくちゃになっている昭弥を見たからだ。


「……これはどういう事」


「いや、あの、これは」


「人質になったというので来てみれば」


「色仕掛けで協力しろと言われて」


「それで受け入れたと」


「違う」


 必死に昭弥は否定するが、言い訳する毎にユリアの怒りがドンドン上昇して行く。

 青筋が増え、顔の表情は笑顔なのに暗くなり、背中からはどす黒いオーラが出てくる。


「本当、いつもそうですよね。勝手に出ていって」


「いや、王国の為を思って鉄道を建設しようと」


「仕事だと言って、全く帰ってこないじゃないですか。帰って来ても会議だ、閣議だと言って会いに来てくれない」


「謁見はしていますよ」


「他人行儀で終わればサッサと出て行くじゃないですか」


「いや、後がつかえていると思って」


「何より酷いのは、大変だろうから、こっちから赴いたらいつも女性と、しかも新しい女性といちゃついていて」


「それは望んでしたことじゃなくて」


「言い訳しないで下さい!」


 いきなり痴話げんかを始めた二人に周りの魔族は呆気にとられた。

 ただ、ユリアの放つどす黒いオーラと迫力に何も言えず、ただ黙って見ているだけだ。


「ふん、これは思わぬ獲物だ」


 ただ一人魔王だけ、捕らえるチャンスとばかりに前に出て行った。


「ユリア女王。ここに来たからには、我が貴様を」


「人の大事な話を邪魔するな!」


 次の瞬間、ユリアは大剣を振り抜き魔王を壁に向かって叩き付けた。

 叩き付けられた魔王は、鎧ごと薄く広がり、タペストリーのように壁に張り付いてしまった。


「ま、魔王様」


 実力主義で力の強い者が上に立つ魔族の社会で頂点に立つ、魔王を一撃で倒したことに、他の魔族達は戦慄した。


「他に邪魔したい人はいる?」


 肩に大剣を担ぎながらユリアは剣呑な表情で尋ねた。

 その瞬間、ホールにいた魔族達は一斉にひれ伏した。


「め、滅相もございません。新魔王様!」


「へ?」


 突然の事に昭弥は呆気にとられた。


「あのー、魔王が、貴方方のリーダーが殺されたんですが良いんですか?」


 敵討ちとか復讐戦とか。

 起きなくて幸いだが、どうしておきないのか昭弥には不思議だ。

 その疑問をオークのムワイが答えてくれた。


「我がデルモニアでは勝った者が全てを決め敗者は絶対服従だ。特に魔王は常に勝負を挑まれ、受けなくてはならない。戦って負ければ、勝者に魔王の地位を譲るのが習わしだ」


「勇者相手でも?」


「そうだ」


 冗談のつもりで昭弥は言ったのだが、本当だったようだ。


「かつての勇者も魔王を倒した後、魔族を全て従えて、人間との戦いを止めさせたのよ」


 戸惑う昭弥にユリアが補足した。

 なるほど、勇者が魔王を倒して平和になったという話しは、勇者が魔族全てを従えて争いをやめさせたからなのか。

 勇者による魔王討伐によってもたらされる平和は勝者独占のデルモニアの政治体制によって起きた平和だった訳だ。

 アクスムは諸部族の連合体で、一つの部族が賛同しても他が離反したり中立となったり、分裂していると思えるような状態のため、半ば内戦のようになった。

 それと対照的にデルモニアは素直に従ってくれるのは有り難い。

 何か色々腑に落ちないが、それで良いのだろう、と昭弥は思うことにした。


「魔王様、どうか魔族にお言葉を」


「うーん……」


 突然の成り行きにユリアは考え込んだ。


「よし、デルモニアはこのまま王国に編入される。今後はルテティアの指示に従え」


「それでもはデルモニアの独立は……」


 抗議の声を上げようとした魔族達の声は、ユリアの大剣が床を叩く音が衝撃波を伴ってかき消された。


「全ては、新魔王様の御心のままに」


 次の瞬間、魔族達は全員が床に伏せて服従のポーズを取った。


「陛下、そろそろ帰りませんと」


 親衛隊長のマイヤー隊長が促した。


「それに昭弥様が必要ですし」


 女王付メイドのエリザベスも促している。


「そうね」


 ユリアは、気まずそうに昭弥の方を見た。


「と、兎に角、緊急事態が起きました。直ぐ王都に帰投してください」


「え? 何が起こったんですか?」


 昭弥が尋ねるとユリアは顔を逸らした。


「い、いいから、来て下さい」


 先ほどまでの勢いとは裏腹に、弱気な態度で昭弥を促した。


「あの」


 責め立てるつもりはないが、何が起きているのか知らなくてはならない。なので非常に気まずいが昭弥は尋ねた。

 そんな昭弥の気遣いを分かったユリアは躊躇いがちに、そして申し訳ないという思いで答えた。


「王国鉄道に危機が迫っています」

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