デルモニア
唐突な展開ですが、次回決着します。
直ぐに投稿するのでそのままお待ち下さい。
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「……ここは」
昭弥は、朦朧とした意識の中、自分の記憶を辿った。
クソウズ、石油の自然噴出場所を視察していて、ゴブリンに襲われて、気を失ったことは覚えていた。
「そうだ、セバスチャン」
自分を助けてくれた忠実な秘書であり執事を探そうとしたが、身体が動かないことに気が付いた。
「なんだこれは」
自分の身体を見ると縄で縛られていた。
「お目覚めかな」
前に立っていたのは、緑色の肌をした巨大な体格を持つモンスター。
ゲームやファンタジー小説でオークと呼ばれるモンスター、魔物のような相手だった。
「あなたは」
「俺はオーク族のムワイ・オディンガだ。お前らの言う魔族だ」
「魔族」
昭弥は冷や汗が出た。喰われるのでは無いかと考えた。
そんな昭弥の怯える表情を見てムワイは言った。
「心配するな。とって喰おうとは考えていない。そのつもりなら捕まえた時点でくっているわ」
「ああ、そうですね」
ホッとしてから昭弥は尋ねた。
「魔族と言うからには邪悪な存在だと思っていたんですが」
「お前達が勝手にそういうレッテル貼りをしていたんだろうが」
「あー」
言われて昭弥は、一瞬黙ってしまった。確かに聞いただけで何も知らない。
「人を食べるとか聞きますが」
「そういう連中も居るが、他の動物だって人間を襲って喰う奴はいるだろう。それにお前らも牛や馬を食べるだろう」
「まあそうですけど」
それでも言葉を交わした相手を食べようとは思わない。その時昭弥は思い出した。
「もう一人側に居たはずだけど」
「お前より小柄の奴か。お前を誘拐したと伝えるために解放しておいたぞ」
「そうか……助けてくれた兵士が居たハズなんだが」
「ドッペルゲンガーが化けたんだ。あれは最初から魔族の偽装だ」
「……そんな事出来るのか」
もしかしたら誰かと入れ替わっているのでは無いかと昭弥は不安になった。
「まさか猿人族の過激派に手を貸したのは」
「我らだ。大砲を俺たちオークやオーガが持ち込んだ」
確かにこの立派な体格なら簡単に大砲を運び込めるだろう。他にも色々と手引きしていそうだ。
昭弥を誘拐したのも、その一環かも知れない。
「はじめから誘拐する気だったのか。一体誰が、誘拐を指示した」
「我らが魔王だ」
「魔王?」
「デルモニア国元首の名称だ」
「デルモニア?」
「アクスムの西方に位置する内陸の魔族の国だ」
「異世界から来たって人も名乗っていたな」
すぐさまユリアに潰されたらしいことを昭弥は聞いていた。
「そんなのは知らん。大昔から我らの魔王はデルモニアの元首だ」
「異世界から来たのですか?」
「この世界に元から居た。千年以上、自分たちと姿形が違うと言って迫害してきたのは貴様らだろう。異世界から来たなんて巫山戯たことをぬかすな。本当だとしても似たようなのがいるかもしれんだろう」
「でも、異世界に同じような人達がいるなんて都合の良い……」
そこまで言って昭弥は自分がこの世界に召喚されたことを思い出した。
「そういうこともありますよね」
「……やけに素直に認めたな」
「いやあ、人の話は聞かないと」
これ以上追求されないように、昭弥は話題を変えた。
「でも一国の大臣、総督を誘拐するのが魔王のやる事?」
「我らを一方的に虐殺、蹂躙する相手だとな」
一瞬昭弥は顔を引きつらせたが、直ぐに思い当たった。
「あー、リグニア帝国とルテティア王国が討伐してきたと言うこと?」
「そうだ」
リグニアとルテティアの歴史は侵略と征服の歴史だ。少数民族や種族を滅ぼし勢力圏下に収めてきたことは数限りない。
何というか、入社して入った会社で頑張ってやっと管理職なって引き継ぎ確認していたら会社代々の犯罪行為を知って自分もそれの片棒を担いでいたと知ってしまった。例えるならそんな気分だろうか。昭弥は会社員をやったことが無いので分からないが、似たような気分になった。
「なんか、ごめんなさい」
鉄道の歴史は侵略と征服の歴史でもある。
鉄道が発明され発展したのは、一九世紀から二〇世紀にかけてだ。
丁度帝国主義時代の植民地獲得競争と重なり、アジアアフリカなどで、先住民の土地を奪ったり、破壊して線路を敷設したり、抗議する人々を弾圧したという記録が多い。
人々の幸せと発展の為に使える鉄道が、人々の争いの種になったことを知ったとき昭弥は悲しくなった。それを思い出して、昭弥は謝った。
鉄道が彼らを虐げた訳では無いが、自分の属する国が行ったと言われて昭弥は謝った。
「王国の総督が、簡単に謝るものでは無いぞ。王国が謝罪したと思われるぞ」
「そうですね。でも、どうしても」
「貴様がやったことではないだろう。王国の生まれではないだろう」
「そうですけど。だから……いや、だからこそ、大切にしないと。だから謝らないと」
昭弥がやったことでは無いとは言え、ルテティアの大臣職、総督職にいるのだから今の最高責任者なのだから、歴代の責任は免れない。
昭弥はそう思った。
「ふん、まるで国を背負っているような顔だな」
「少なくとも未来の責任は有ると思っていますよ」
鉄道によって昭弥の世界は大きく変わった。
それを知っているからこそ王国が、いや世界が鉄道によって大きく変わることを知っている。その未来にできる限り多くの人が幸せに行けるようにしようとしていた。
「だから、多くの人が幸せになれる道を作っておこうと思って」
「自分が作るんじゃ無いのか」
「作って渡すなんて押しつける、押しつけられるなんて厭でしょう。精々、道を提供して多くの人が通ってくれるようにするだけです」
「……本当に王国や帝国の人間と違うな。まるで別世界の人間を相手にしているようだ」
「よく言われます。というより、あなたも変わり者ですね」
ボロを出さないように昭弥は話題を変えた。
「オークは暴力的で力が全てだという考えだと思ったのですが」
「そういう奴も多いが、個人のそれぞれだ。それは人間も同じだろう」
「反論出来ませんね。同感です」
思い出すだけでも、暴力的な人間が昭弥の居た世界にも多くいた。
こちらにも暴力的な人間が居るように理性的なオークがいても不思議では無いだろう。
「それで質問なんですが、私を捕まえることがどうして平和に繋がるんですか?」
「それは、これから魔王様が教えてくれる。さあ、行くぞ」
そう言って、ムワイは昭弥を縛っているロープを解いた。
「逃げるとは思わないんですか?」
「逃げて生きて帰れるか?」
「無理ですね」
ろくな交通手段のない、見知らぬ場所から何千キロも離れた王国に向かって行くなど、自殺行為だ。
「さあ、来るんだ」
昭弥が連れてこられたのは、巨大なホールと言うべき空間だった。
そこに居たのは異形の魔族達だった。
堅い鱗に覆われた龍のような姿をした者。猪のような顔と身体をした者。骸骨。
ファンタジーゲームの悪役が一堂に会したような場所だった。
その中央、青白い肌と精悍な身体、頭部から二本の角を生やし黒い甲冑を着込んだ青年。
彼が魔王のようだ。
「私が第一六八代魔王デダンだ」
傲岸不遜に、魔王は口を開き自己紹介した。
「アクスム総督玉川昭弥か」
「そうです私が玉川昭弥です」
尋ねられたので思わず答えたが、疑問に思った事を尋ねた。
「どうして私を誘拐したんですか?」
「貴様を抑えればルテティアもリグニアも容易にデルモニアに攻撃をする事は出来まい」
「それは過剰な期待では?」
侵略拡大政策を持つリグニアとルテティアが標的を前にして躊躇するとは思えない。
精々気候的地理的に難しいとか、国内事情で動けないから攻めない、といった程度でしかないと昭弥は考える。
「だが、鉄道が無ければここまで大軍を送ってこられまい」
「そうですかね」
確かに昭弥は王国鉄道の社長をしている。経営を行っているが実務を担っているのは、現場の技術者達だ。経験豊富な彼らなら、困難が生じようとも開通させてくれるだろう。
「しかし、お前が居なければ彼らは集まらず、鉄道も作られまい」
「そうかな?」
皇帝か国王の大号令が出たら攻め込んでくる、と昭弥は思うのだが。
「それに貴様が居れば動けまい」
「何でです?」
「重要人物が握られているのだ。下手に手出し出来まい」
「人質という訳ですか」
いきなりやる事が小悪党に見えてきた。人質を取って、自分の要求を通そうとするなど小さすぎる。
「そんなの関係なしに攻めてくると思いますけど」
「強がるな、貴様と女王が懇意であるというのは知っているぞ」
「そりゃあ……大事にして貰っていますけど」
召喚されてしまって、孤独となった昭弥にユリアは、なにかと気を遣ってくれた。
何より鉄道オタである昭弥に、鉄道の最高責任者に据えて貰い、思う存分活躍させて貰った。
「だからといって私のために要求を呑むとは思えないんですが」
「さて、どうかな。それにお前にはやって貰うことがあるしな」
「なんです」
「鉄道の知識と力を出して貰う」
「え?」
思いもよらない言葉を聞いて昭弥は呆気にとられた。だが、昭弥の気持ちは決まっている。
「お断りします」
「敵に協力する事は出来ないと」
「いや、王国の鉄道の仕事があるので」
タダでさえアクスムへの敷設という仕事が佳境に入っているのに他の事をしている余裕など無かった。更に、新たな鉄道関連の仕事を立ち上げたいと考えていたし、余裕もない。
「ふん、見上げた忠誠心だが力尽くで協力して貰う」
そう言って、周りを囲んできたのはオーガやホブゴブリンなど巨漢の魔物だった。
「果たして何時まで持つかな」
どれも拳で昭弥を痛めつけ、言うことを聞かせようとしている。
「無理です」
向きになって昭弥は拒否した。
嫌がる事を無理矢理やらされて失敗すると責められた、前の世界での記憶が蘇り、強要されると反発してしまう。
「ふむ、その様子だと聞きそうに無いな」
そんな昭弥の様子を見て魔王は方法を変えた。
「ならば別の方法を取るまでだ」
「え?」
昭弥が呆気にとられていると、オークやオーガの間から、コウモリの翼を生やした女性サキュウバスや下半身が蛇の女性ラミア、蛸のように何本も触手を持つ女性スキュラ、鳥の体を持った女性セイレーンなどなど。
神話に出てくる女性の妖怪や魔族が現れてきた。
「な、なにを……」
嫌な予感がして昭弥に冷や汗が流れた。
「力で従うように思えないから色仕掛けで支配しようとな」
下卑な笑いを浮かべて魔王が言うと昭弥は蒼白になった。
昭弥は一応男だし、鉄オタだが健全な精神を持っている。だが、彼女たちを相手にした後の事を考えると原始的な恐怖がこみ上げてきた。
「まっぴらゴメンです」
そのまま走って逃げようとしたが、と当然現れた糸に手足を絡まれて倒れた。
「あたしの糸からは逃げられないよ」
そう言ったのは、下半身が蜘蛛の女性アラクネだった。
自ら出した糸で昭弥を絡め取り、引き寄せる。
「さあ、楽しい事をしましょう」
そう言って体中に触手を絡めるスキュラ。
馬乗りになるサキュウバス。
耳元に囁くセイレーン
昭弥を籠絡しようとあの手この手で、攻めてくる。
「や、やめて」
昭弥が言ったとき、ホールの入り口から爆音が響いた。




