クソウズ
第二部登場人物のリストを作りました。是非ご利用下さい。
明日も八時台に投稿予定です。
あと、明日は二話投稿予定です。
2/6 誤字修正しました
猿人族過激派の掃討により、アクスムの平穏が訪れる事となった。
昭弥は、直ぐに現地に赴き割譲される猿人族のテリトリーの視察を行い始めた。
「こんな所が必要だったんですか?」
随行者であるセバスチャンが昭弥に尋ねた。二人の他はいない。
随行者や護衛を後方に下がらせて、二人だけで進む。
危険だと言われたが大人数で行くのも危険だと昭弥は判断して、最小限にとどめた。
それに臭覚の鋭い獣人の彼女たちにはキツい。
「ああ、必要だよ」
一方の昭弥は自信満々に答えた。
やがてクソウズのある場所にやって来た。
「何ですかこれ」
セバスチャンは思わず鼻をつまんだ。硫黄のような、刺激の強い匂いが鼻につく。
近づくにつれて濃度が濃くなり、すっていると気分が悪くなる。
だが、昭弥は喜色満面で、歩く勢いを早める。
丘を越えると、刺激臭が更に強くなり、異様な光景が広がっていた。
丘の麓辺りは黒い沼となっており、所々何かが湧き出ている。
かつて教会で見た地獄絵図の風景を思い出し、セバスチャンは本能的な恐怖を感じた。
「気持ち悪い。こんなのほっといて帰りましょうよ」
「何を言っているんだ!」
だが昭弥は拒絶した。それどころか大声で糾弾するようにセバスチャンに言う。
「こんな宝の山を前にして帰ってたまるか!」
激しい言葉にセバスチャンはたじろいだ。
その間にも昭弥は真っ直ぐ沼に向かう。そして畔に着いて黒い液体を少し掬う。
指で擦って黒い液体の感触を真剣に吟味する。
「地面の方は重いのが残っているけど、軽いのが残っていそうだな」
「何に使うんですか?」
「ああ、これは」
と言ったとき、セバスチャンがいきなりタックルしてきた。
「な」
驚いたとき、一本の矢が通り過ぎた。
放たれた方向を見ると、肌が紫色の小さいやせた生き物が弓をつがえていた。
「なんだあれは」
「ゴブリンです!」
「え! 物語に出てくる魔物の」
「そうです! 辺境とかにはこんなのが散在しているんです」
「ファンタジーだな」
昭弥は感心したが、奇跡も魔法もある世界でゴブリンなどの魔物がいない方がおかしい。
「ぼけっとしていないで、逃げますよ」
「お、おう」
セバスチャンに言われて昭弥は逃げ出した。
だが、別の一団が昭弥達の前に立ちふさがった。
「囲まれました!」
セバスチャンが拳銃を出したが昭弥が止めた。
「銃は使わないでくれ。沼に落としたりしてくれ」
「は、はい」
セバスチャンは言われたとおり、ナイフを構えた。
「ぎゃっ」
ゴブリンはセバスチャンに棍棒を振り降ろしてきたが、簡単に躱して、背中を押すとそのまま沼の中に落ちた。残りゴブリンもナイフで牽制して、沼に追い込んだり、足払いして落としたりした。
複数のゴブリンを相手にして傷を受ける事無く、沼に落とす身体捌きは流石元盗賊といったところだ。
「落としても這い上がってきませんか?」
「大丈夫、上って来れないよ」
昭弥の言葉を受けて振り返ると、沼に落ちたゴブリン達は黒い液体が体中にこびり付き、もがいている。何とか上がろうとしても進まずそれどころかドンドン沈んで行き、最後には沼に飲まれていった。
「底なし沼状態なんだ。もがくほど沈むんだ」
自分がやったこととはいえ、セバスチャンは背筋が寒くなった。一通りゴブリンを始末したが、新たな集団が昭弥の方にやって来る。
「これ以上、相手に出来ません。逃げます」
「お、おう」
セバスチャンの指示に昭弥は従った。
だが、新たなゴブリンの集団にいるフードと杖を持った個体が、何かを呟き始めた。
「マジシャンゴブリン! ファイアーボールを打つ気か!」
「なんだそれは?」
「炎の球を作り出して放つ魔法です」
「! 息を止めて伏せろ!」
今度は昭弥がセバスチャンを地面に抑え込んだ。直後にファイアーボールが顕現して放たれた。
しかし、空中を飛翔したファイアーボールは進む間に大きくなり、突如爆発。周辺を火の海にした。爆発の威力は大きく、衝撃波と爆風が周囲をなぎ倒し、ゴブリンたちも吹き飛ばした。
ようやく爆風が収まった後、強い熱を感じて昭弥は起きた。
セバスチャンも起き上がって周囲を見回すと、沼が火の海となって燃えていた。
「……あ、あんな威力を持つファイアーボールを放てるゴブリンが居るなんて」
「いや、石油の自然噴出しているところに放って引火しただけだ」
「? 石油? 何ですかそれ?」
「燃える水だよ。他にも天然ガスが流出していたようだけど」
「けど社長室に持ち込まれた物は固形でしたし、燃えませんでしたが」
「あれは、燃える成分が無くなった残りカスみたいな物だよ。アスファルトって言うんだけど、燃える物が無いから火を出さない。灰みたいな物だと思ってくれ。けど、ここは頻繁に噴出しているようだから燃えたんだよ」
「大丈夫ですか、アレ?」
燃える沼地を見てセバスチャンが尋ねた。
「危険だな。酸素、息が出来なくなりそうだ。高台に避難するぞ」
昭弥はセバスチャンを連れて丘を登り退避した。
振り返ると黒い沼が、盛大に燃えていた。
「大丈夫ですか?」
「一部燃え残るところがあるかも知れないけど、そのうち消えるでしょう」
「それより問題は……」
昭弥は少しふらつき始めた。油田のガスを吸ったり、酸素が希薄な中で走ったので一種の酸欠状態に入っていたのだ。
セバスチャンも似たような状態で意識がもうろうとしている。
何とか高台まで行き、酸素を吸い込まないと危険だ。
二人は、何とか高台まで上り、そこにやって来た王国軍兵士を見て安心すると、そのまま気絶してしまった。




