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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部 第一章 アクスム総督
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大攻略戦

2/6 誤字修正

「攻撃開始」


 翌日、ブラウナーは攻撃命令を下した。

 攻城砲の攻撃が始まり岩山に次々と撃ち込んで行く。

 攻撃開始から一時間ほど経った後、アグリッパ、スコット、ミードの各大佐に率いられた部隊が、前進を開始する。

 ティーグル中佐の部隊は待機している。

 予備兵力と言うことと、攻城戦について殆ど知識も経験も訓練も受けていないため、アクスム軽歩兵を一緒に出すと味方撃ちの可能性があったからだ。


「凄い」


 後方待機だが、初めて見る攻城戦にティーグル中佐は興奮していた。


「こんな作戦があるんですね」


「滅多に無いけどね」


 要塞に立てこもる反乱貴族を攻撃する事は度々あり、ブラウナーは攻城戦をルテティアで何度か経験した。

 アクスム方面は城塞が殆ど無い事もあり、攻城戦が発生することはまず無かった。何より大砲を運び込める環境では無かったからだ。

 だが、今回の攻撃は通常の要塞攻撃より規模が大きい。

 軽便鉄道による輸送により、大量の攻城砲が配備可能となり、現実に十数門の大砲が置かれていた。

 しかも弾薬が軽便鉄道により運ばれるので弾薬欠乏は心配ない。

 そのため、間断なく砲撃が行える。

 何より、この火力をアムハラの各部族に見せつけることも作戦の内に入っている。ティアナの様な反応をしめし、王国への反逆を企まないように、心酔させるのも目的だ。

 上手く行くかは分からないが、この砲撃戦の光景は彼らが忘れる事は決して無いだろう。


「前進開始!」


 ブラウナーの命令で各部隊が歩兵による前進を開始する。

 支援砲撃が行われているため、敵が反撃する様子はない。

 このまま頭を上げないように砲撃し、味方歩兵を敵の陣地に送り込むのが目的だ。


「あとは制圧を待つだけだな」


 ブラウナーが呟いた時、異変が起こった。

 突然、敵が潜む岩山から轟音が鳴り響く。


「大砲だと」


 岩山から突き出た岩盤の根本から大砲が出てきた。

 砲弾は、攻城砲陣地に降り注ぎ、攻城砲を破壊した。更に、弾薬にも引火し派手な爆発を起こした。


「どうやって手に入れたんだよ」


 ジャングルの中では大砲を持ち込みにくい。地形が起伏に富んでいる上、根が障害物になるため重量物を運ぶのはほぼ不可能だからだ。王国軍もジャングルを切り開き、軽便鉄道を敷設することでようやく運び込めた。

 猿人族は敏捷性が高く、木の上を軽々飛び上がれるが、力は弱い者が多い。ゴリラ族、チンパンジー族などの一部例外はあるが過激派には少なく、大砲を運び込めるあてはない。

 なので、こんなジャングルの奥に大砲を運んでこれるなど信じられなかった。

 だが敵は現実に大砲を持っていた。

 敵に重火器が無いと思い込み、一切掩蓋を設けず、野ざらしにしたのが失敗だった。また砲撃の修正がし易いように敵が見やすい位置に持ってきたのも失敗だった。敵に丸見えで簡単に破壊されてしまう。


「全員退避しろ! くそっ、攻城砲が全滅だ」


 攻城砲は重く機動力が殆ど無いため、移動準備している間に破壊される。ならば兵員だけでも助けることにした。

 命令が届くのが早く、兵員の損失は最小限で済んだが、攻城砲は全滅、支援が不可能になった。

 更に問題が発生した。


「伝令! 敵の銃の発射速度が著しく速いです。調査の結果、後装ライフル銃を使っている模様」


「何だと!」


 ブラウナーは思わず叫んだ。

 王国軍でも実戦配備されたばかりの新型銃を猿人族、それも少数派の過激派が所有しているなど信じられなかった。

 あの銃は、今までの銃より加工技術が必要で、精密な作業が必要だ。王国以外で作れること自体、信じられなかった。


「鹵獲品を持ってきたか」


 これまでの戦闘で、新型銃を持ったまま行方不明や捕虜になった連中がいる。彼らから奪ったとしか思えなかった。


「それほど弾薬を持っているとは思えない。暫く撃たせて弾切れになったところを攻撃する」


 しかし、いくら待っても弾切れの様子は無かった。岩山の高台から銃撃を浴びせ続けている。それどころか銃撃と砲撃の援護で岩の隙間から敵が前進を始めた。

 互いに同じ銃を持っているが敵の方が優勢だ。地の利があり、遮蔽物を利用して前進出来る。攻撃力が同じなら防御力が高い方が勝つ。


「司令官、撤退しては?」


「だめだ」


 ティアナの進言をブラウナーは却下した。


「連中は俺たちに勝利することで、その成果をもって反乱を使嗾するはずだ。雪崩を打って総督府に歯向かう可能性がある。そうなれば今までの成果が無意味になる」


 これまで抵抗を見せなかったのは俺たちに優位な場所におびき寄せ、絶対に勝てる状況を作り出すためだ。その証拠に移動の困難な大砲を所有し据え付けている。


「何としても勝たないとダメだ」


 ブラウナーは、敵の配置をもう一度見て考える。敵の弱点は、反撃の切っ掛けとなる場所は、何をどうすれば良いのか考えた。


「大砲だな。敵は大砲で優勢に立っている」


 現状敵が優位なのは砲撃によって、こちらの頭が上がらないようにしているからだ。これを破壊すれば何とかなるはず。

 だが残った連隊砲で撃ち返すにも、防御出来ずろくな観測もないなか命中させるのは無理だ。


「敵の陣地に突入して直接破壊する」


「そんな無茶です。敵は雨のように銃撃を浴びせてきています」


「いや、連中は十分に銃を活用していないし、死角がある」


 銃声で気が付いたが、敵は味方に比べて発射速度が遅い。装填訓練が不充分で次段装填に手間取っている。


「直ぐに部隊を集めてくれ、後装ライフル銃の部隊が居るといいんだが」


 だが、後装ライフル銃を持った部隊は前線に送ってしまった。一度引き返すように命令したのだが。


「敵の攻勢が激しく、部隊を引かせることは出来ないとの報告です」


「だろうな」


 敵の攻勢が激しく、有力な部隊を手放したくないのだろう。中には引き抜き可能な部隊もいるかも知れないが、自分が指揮官でも手持ちの部隊それも有力な部隊を指揮下から外したくない。


「しょうが無い。俺たちだけでやるぞ」


「ですが、旧式の前装式ライフル銃のみです」


 雷管式に改造されているが、前装式の銃と発射速度は変わらず後装式に比べて倍の装填時間が掛かる。


「十分だ。部隊を二手に分けて、一方に援護させつつ残りで突入する」


「無茶です!」


「大丈夫だ。考えがある。突入の志願者を集めてくれ」


 ブラウナーは直ぐに志願者を集めさせ、全員に銃を支給。


「いいか、支援部隊は交代で敵へ銃撃を浴びせて撃たせるな。その隙に突入部隊は敵の大砲の真下まで走りきるんだ」


「大丈夫なんですか」


「大丈夫だ。俺も突入する」


「無茶です」


「後方にすっこんでいる訳にはいかないからな。命令だティーグル中佐。俺の突入の援護を行え」


 ティーグルはなおも抗議しようとしたが、その前にブラウナーは突撃を開始した。


「突入部隊! 我に続け!」


 自らもライフルを持って岩場に向かって駆け出した。

 敵が銃撃を始めるが、ジグザグに動くブラウナーに当てることが出来ない。


「お、俺たちも前に行くぞ」


 指揮官が前に出て行くのを、見て獣人達も駈けだした。自分たちだけが、突入しない訳にはいかない。


「うそ」


「な」


「クソ、俺も行けばよかった」


 三人の指揮官もそれぞれブラウナーの行動に唖然とした。

 敵は銃撃を激しくしてくるが、援護部隊の銃撃もあってろくに狙うことが出来ない。

 大砲もバラバラに走ってくるブラウナー達を狙えず、見当違いの所にあたってしまう。

 運悪く倒れる者もいたが、大半が高台の麓に張り付いた。


「このままここを昇るぞ」


「上から撃たれませんか」


 ブラウナーの指示に突入隊員は躊躇した。


「俺たちを撃とうとすると援護部隊に撃たれる。問題は無い。昇るぞ」


 そう言ってブラウナーは上り始めた。

 敵も気が付いて銃を向けようとするが、援護部隊の銃撃で次々撃たれた。

 銃は直線的にしか撃つことが出来ない。

 平原を走る敵に同じ平原の障害物や伏せた状態で狙い撃つのは簡単だが、真下の敵を銃撃するには、大きく高台から身を乗り出して、銃を下に向ける必要がある。

 敵は身を乗り出したとき、援護部隊に銃撃され次々と落ちて行く。


「よし、皆俺に続け!」


 一方、突入部隊はブラウナーを先頭に崖を登る。敵の反撃がないので簡単に上り詰め、高台に到達。

 激しい接近戦の末、大砲を占領する事に成功した。


「全軍突入して!」


 こうして突入口が確保されるとティーグルは残りのアクスム軽歩兵大隊全てを投入して昇らせた。背後からの奇襲を受けた敵は、挟み撃ちに遭いに次々と討たれて行き、大砲も奪われる。


「私たちもぐずぐずしていられない。総攻撃! 司令官に続け!」


「ここで手をこまねいていてはルテティア貴族の恥よ! 突撃!」


「突撃だ! 突っ込め!」


 残りの部隊もブラウナーの大砲奪取を見て突撃を開始。

 大砲の支援が無くなったことにより、敵が戦意を喪失した事もあって、反撃は散発となった。急激に状況が不利になったこともあり、同様で装填作業が出来なくなったところを銃撃あるいは刺突されて、次々と制圧されていく。

 抵抗手段を失った敵は降伏した。

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