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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部 第一章 アクスム総督
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捜索

「捜索はどうなっている?」


「未だ発見の報告はありません」


 ブラウナーの問いにティアナが答えた。

 砦にいたブラウナーは爆発音を聞いて捜索隊を派遣していた。だが、その間に響いたのは新たな銃声だけ。

 総督一行は発見出来ず、捜索も空振り。

 この間、殆ど情報は無く焦燥の色を濃くしていた。

 ようやく情報が入ってきたのは夜明けで、近くの警戒線の鉄条網を切断されたという報告だった。


「沿岸部に向かっていることは確かだな」


 警戒線に入り味方部隊に合流するのが安全だ。

 だが、それをしないのは、合流出来ない、あるいは合流すると危険と判断しているのだろう。

 何かしらの犯罪行為を行って逃走中?

 いや、何ら連絡が入っていないので、可能性は低い。

 猿人族の裏切りに遭い逃走中?

 なら、砦に戻って援軍を求めるはず。


「非現実的だな」


 残るは、周辺に配備されている部隊に総督を狙う部隊が居り逃げ回っている。


「あり得ないが、これが大きいな」


 最近増援を要請して、ようやく来てくれたが殆どが新編成の部隊で、この砦にも配備している。

 出来ればブラウナーが信頼している部隊で固めたかったが、突然の会談のため交代させることが出来なかった。


「もうちょい、時間があったらな」


 いきなりトップ会談などという無茶ぶりをやらないで欲しい、と愚痴るが、これ以上言っても仕方が無い。


「総督が出ていた時に偵察、巡回に出ていた部隊を集めてくれ、砦内で休養を許可する、と。その後は特別演習ということで訓練にあたらせるんだ」


「拘束するのですね」


「ああ」


 事実上の拘束だが、容疑が固まっていないので下手に捕まえる事は出来ない。砦内で任務を与えて他に行かないようにするのが精一杯だ。


「分かりました」


 ティアナは素直に従った。一行には秘書をしている姉のティナもいるのだ。姉を助けるためにも進んで協力していた。


「司令官はなんと?」


 このような緊急事態ではアクスム軍司令官に伝え指示を仰ぐのが普通だ。

 何か指示が会ったのでは無いかとティアナは思い尋ねた。


「俺に全て任せると」


「いいんですか?」


 予想外の指示に拍子抜けしたティアナは聞き返した。


「信頼出来る参謀長だから儂はゆっくりリュウマチの治療が出来ると言われたよ」


 さすがにティアナも絶句したが、階級の高い二人が何時までも絶句する訳にはいかない。


「ただ、敵に攻勢の気配があるという理由で、警戒線への緊急配備命令と移動指示の作成が命令された。精々使わせて貰うよ」


 基本的に参謀長は司令官の補佐役であり命令権はない。司令官の命令に従って命令書と指示書を作成して承認を貰って部隊に送るだけだ。

 だから、緊急配備と移動指示の権限が貰えたのは、ありがたかった。


「信頼出来る部隊は集まるか?」


 ブラウナーはティアナに尋ねた。

 まずは動員出来る部隊、裏切りの恐れが無く安心して捜索に加えられ、密林で一行を発見出来るだけの練度を持つ部隊を選別する必要があった。


「はい、虎人族の部隊を中心に、アクスム軽歩兵二個大隊が集結中です」


「よし、こっちも合計で一個大隊を集められそうだ」


 アクスム軽歩兵連隊を動員する事も出来るが、部族の連合体であるため部族間の利害が複雑で誰が信頼出来るか分からない。

 ブラウナーは、兵士出身だが転属が多く各地の部隊を渡り歩いてきた。また共同作戦が多く、数多くの部隊の下士官と連絡任務で知り合いも多い。

 彼らの多くは下士官兵だったが、軍の拡張により士官に昇進している。彼らの部隊にも協力するよう求める。命令を下しても良いのだが、こうした表に出せない依頼や任務は人との繋がりが大事だ。

 何より地獄の南方戦線を共に戦った連中もいる。彼らなら総督を見つけ次第、無事に保護してくれるだろう。

 ティアナも虎人族を中心に人脈がある。何より、総督と鉄道会社がゴムを買ってくれるので彼らの貴重な財源となっている。

 今、昭弥が居なくなるのは非常に拙い。

 何より姉を助けるために、最大限に協力していた。


「移動コースから考えて海岸の鉄道路線に向かっているはずだ。沿線に部隊を配備する。何とか接触して保護しないと」


 その時ブラウナーは一つ気が付いた。


「現在、帰投していない部隊が居ないか確かめてくれ、予定時刻より遅延、あるいは未帰還の部隊もだ」


「それが総督達を襲った部隊ですね」


「可能性は高い。直ぐにやってくれ」


「はい」


 ティアナは連絡を取るべくブラウナーの元を離れた。


「だが、襲っているとしたら一体誰が襲っているんだ」




「一体誰が襲っているんだろうな」


 ティナの怪我を治療してから昭弥は呟いた。消毒用の高濃度蒸留酒を傷口にかけるだけでろくな事は出来ないが、やらないよりマシだと思っている。

 密林には傷口に卵を産み付けて、健康な細胞を食べる虫も居ると聞く。この世界にいるとは限らないが、用心に越したことはない。


「猿人族の過激派では?」


 セバスチャンが答えた。


「確かに長老も襲って来たな。けど王国正規軍の裏切り者はどう説明出来る?」


 討伐対象である猿人族と正規軍の一部隊が手を組む理由が分からない。


「産物の山分けでは? 彼らでアクスムの実権を握ろうとしていたのでは?」


「だとしたら、お粗末な攻撃だったな」


「バラバラに襲いかかって来たのでは? 過激派が襲撃した後、裏切り者が来たと」


 確かに最初に猿人族の過激派が襲って来て、次に正規軍の裏切り者がやって来て攻撃した、というのは筋が通っている。

 昭弥はハレック元帥と仲が悪い。ハレック元帥が昭弥の事業を妨害する為に刺客を送り込んできたとも考えられる。


「だが、あまりにもできすぎている。突然決まった会談現場に二つの勢力がやって来て時間差で攻撃してきたなど、上手く行き過ぎている。別々に立案してあんな風になるかな。連携を取っていたようにしか見えない」


「誰かが糸を引いていると」


「そうとしか考えられない」


 猿人族の過激派と王国正規軍の裏切り者。この両者を結びつける、あるいは個別に動かし目的を達成させようとする者。

 そんな奴がいると考えた方が自然だ。


「残念だけど。今は情報が少なすぎるわ」


 言ったのは狐人族のフィーネ・フックスだ。この中では一番の年長者で纏め役でもある。


「分かれば裏をかけるんだけど」


「そうね。けど、情報が足りないから無理。それより襲撃してくると言う状況を考えて行動しないと」


「そうだね」


 昭弥は頭を冷やして考えた。ともかく、襲撃されている状況から離脱しないと。

 何よりティアナの容態が心配だ。


「とりあえず、海岸を通る鉄道の線路まで行こうと考えているんだけど」


「先回りされている可能性が高いですね」


 ほぼ一直線に警戒線を突破して海岸を目指してきたのだから、敵に気づかれている可能性が高い。


「密林を突破して線路の所まで行こう。そして列車を止めて乗り込む」


 昭弥は決断した。それ以外に方法は無い。


「ですが、敵が何処にいるかわかりません。停車している間に襲われる可能性が有ります」


「合図して直ぐ止まって貰うにしても無理か」


 列車が停車するのにブレーキを掛けてから最長で六〇〇メートルかかる。積み荷と速度にもよるがそれぐらいは見込んだ方が良い。だがそれでも誤差が生じる。

 また合図を出そうとして相手に見つかり襲われる事も考えられる。

 目立たずに行うと機関士が合図を見落とす可能性も高くなる。

 まして負傷したティナが居るのだ。列車を追いかけて乗せるのに時間が掛かる。


「敵に気づかれず、列車を望みの場所に止めて迅速にティナを乗せて再び出発する。難しいな」


 昭弥は顔をしかめた。

 蒸気機関車は加速減速が苦手だ。

 夜間信号を出そうとするとばれてしまう。昼間も見つかりやすく難しい。

 敵に気づかれるからだ。


「! セバスチャン。銃の弾を分解して弾と雷管を渡してくれ」


「? 出来ますけど」


「やってくれ」


 セバスチャンは昭弥の工具を借りて銃弾から、弾と雷管を分解した。


「薬莢と火薬はどうします?」


「いらないから適当に処分してくれ」


 昭弥は弾を受け取ると、ハンマーで叩き始め帯状にして真ん中に雷管を包んだ。


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