表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部 第一章 アクスム総督
130/763

逃走

 会談で交渉が妥結したとき、突然外から轟音が響いた。


「何が起きたんだ!」


「襲撃のようです!」


 直ぐに案内役の兵士と獣人の秘書達が銃を持って外を警戒する。外に顔を出すと銃撃が浴びせられる。

 幸いまだ死傷者は出ていないが、このままでは


「一体何者だ」


 どこのどいつが、妨害しているのか昭弥は考えた。この極秘会談は双方のトップしか知らないはず。となると漏れたのはウチか猿人側となる。


「敵だというのは分かっていますよ」


「そうかい」


 思案顔の昭弥にセバスチャンが答えた。


「急いでここから離れましょう」


 セバスチャンの意見に猿人側も承諾した。


「うむ、二手に分かれよう。そちらは地上を儂らは樹上に逃げる援護を頼む」


「はい」


 考えても仕方ない、交渉は妥結したのだから双方が助かることを優先するべきだ。

 そして打ち合わせ通り、昭弥側が根の影に隠れて敵に銃撃を浴びせ牽制する。

 その間に猿人側は、大木を上り樹上に移った。太い枝の元に来ると昭弥達の援護を開始した。


「走って!」


 セバスチャンに促され昭弥は根の影から飛び出し、密林に駆け込んだ。

 兵士もセバスチャンも秘書達も後に続いて密林に入り込む。


「皆大丈夫かい?」


「はい」


 見たところ負傷者は居ない。

 猿人側も無事に離脱したようで、銃声が遠くなっている。


「とりあえず合意は得られた。後は互いに無事に戻るだけだ」


 昭弥達は、味方の砦に向かって走って行く。その時、前方から一団がやってきた。


「誰かな」


 見ると王国正規軍の制服を身に付けた兵士だった。


「良かった。味方だ」


 案内役の兵士が旗を揚げて味方である事を示そうとした途端、相手は銃を構え案内役の兵士を射殺した。


「!」


「どうしてだ」


「兎に角逃げましょう!」


 一行はセバスチャンに引っ張られた昭弥を中心に逃げ始めた。

 三人ほど牽制として残り銃撃を加える。

 昭弥はセバスチャンと一緒に走って行く。一刻も早く逃げようとしていた。

 ジャングルの中で足場は悪く、それほど速度は出ない。

 だが、獣人秘書達が木に登ったり側面に回るなどして牽制し、足止めしたため、昭弥達は無事に逃げることが出来た。


「何とか逃れられたようだね」


「ええ」


 暫く走って、追いかける者が居ないのを確認して、追っ手を撒いたと考え休むことにした。

 牽制していた彼女たちとも合流出来て、一行は状況を整理することにした。


「会談を行うためにここまで来て、交渉は妥結した。そして会談を終えようとしたとき襲撃された。そして、戻ろうとしたら王国軍の兵士に銃撃された」


 昭弥が起きたことを順繰りに言い返す。


「その通りです。問題なのは、どこで会談の場所が漏れたか。そして、なぜ妨害するのか。王国軍もどうして関わっているのか」


 情報が少ない。少なくともブラウナーが捜査に兵士を割いてくれるハズだが、その捜索の兵士がまた襲ってこないとも限らない。


「確実に味方と言える連中と合流する必要があるというわけか」


 昭弥は、うんざりした。

 同じ王国側というのに危害を加える人間が居るなんて。いや、何処も同じか。昭弥もこの世界に来る前小中高と同級生から虐めを受けていたのだから。


「となると、砦の方角は危ないでしょう。敵味方不明です」


「もっと言うなら警戒線の兵士も危ないだろうな」


 ブラウナーを信用しない訳ではないが、最近の軍は交代が激しく掌握が難しいのだろう。大戦で兵員が増大したこともあり兵士一人一人に目が届きにくいことも拍車を掛けている。スパイが侵入しても、おかしく無い。

 特にアクスムへの配置は気候と疫病から不人気で志願者は少なく、手当目当てで入ってくる程度。強制的に配置を言い渡し、配属させる貧乏くじ扱いになっている。


「接触は危険だな。安心出来そうなのは、沿岸部を走る鉄道会社の列車だな。大概の機関士とは顔見知りだ」


 昭弥は時間があれば駅などに行き機関士達と歓談しており、顔を覚えている。アクスムの沿岸を走る機関士ならほぼ全員だ。


「無駄に時間を使っていましたからね」


「役に立っただろう」


「それは認めます」


 渋々セバスチャンは認めた。


「では、沿岸の線路に行く必要がありますね。問題は警戒線でしょう」


 猿人族を封じるために警戒線を各所に張り巡らせている。

 鉄条網と監視塔で見張られているため、そこを突破するのは難しい。


「夜間に移動して突破するしかないな」


「でも鉄条網を突破出来ますか?」


「今の俺たち何に変装しているんだ?」


 昭弥はセバスチャンにいたずらっぽい笑顔を見せると持っていた工具箱から道具を取り出した。

 やがて夜がやって来た。

 見張の間隔を確認して通り過ぎると昭弥は迅速に鉄条網に近づいた。そして予め工具から出しておいた大型ニッパーで鉄条網を切断し始めた。

 ものの数分で人一人が通れる大きさの穴を開けると、通路と線路を横断して反対側の鉄条網にも同じ大きさの穴を開けて通り過ぎていった。


「突破成功だね」


「しかしこんなに簡単に鉄条網を突破出来るなんて」


 手慣れた手つきで鉄条網を切り刻んだ昭弥を見てセバスチャンは呆れた。


「ニッパーを装備しているかしていないかの違いだよ。猿人族に奪われたという報告はないからまだしばらくは大丈夫だろうよ」


「そうですね……けどこれで移動した事がばれましたね」


「そこまでは無理だよ」


 穴が開いているため突破されたことが分かってしまう。軍の捜索隊が大挙してやって来る事が考えられる。

 その中に味方が居るかどうか心配だ。


「接触は可能な限り避けた方が良いでしょうね。もっとも味方の部隊からも攻撃を受ける可能性が有りますが」


「仕方ないね」


 安全を考えれば敵味方不明の賭を行うより、沿岸部で確実に味方だと分かる鉄道に乗るべきだ。

 つまり味方であるはずのアクスム軍とも接触せずに向かうしかない。


「今のうちに距離を稼いでおきましょう。穴が見つかれば捜索隊がやってくるはずです」


「ああ、皆大丈夫かい?」


「大丈夫ですよ」


 元気にティナが答える。


「寧ろ一番心配なのは社長です」


「そうなの」


 一瞬むっとしたが冷静に考えると、事実だった。

 彼女たちは獣人で身体能力は高い。セバスチャンも執事だが、元シーフ、盗賊で身体能力は優れている。

 一番身体能力が無いのが昭弥だった。鉄道写真を撮るために重たいカメラと三脚


「……休み休み、遠くに行くとしよう」


「はい」


 その日一日中、沿岸の警戒線に向かい、夜になると警戒線を突破する行動を行った。

 そして、遂に沿岸部へ通り抜ける警戒線までやって来た。


「これで最後だな」


 昭弥はいつも通り鉄条網を切断する。反対側も切断して全員が通ろうとしたときだった。

 突如銃撃を受けた。


「撃ち返せ! ただし当てるな」


 全員にその場での反撃を命じた。敵味方不明だが、牽制するためには反撃するしかない。

 何しろティアがまだ抜ける途中だ。


「速く逃げて下さい」


「全員でね」


 昭弥もライフルを持って反撃する。物騒なので自分の身ぐらいは守れるように拳銃とライフルの扱いを習っている。だが、練習不足な上、緊張で動きがぎこちなく照準も合っていない。

 だが牽制にはなり、時間を稼げたが、その場から殆ど動かなかったため、集中砲火を浴びてしまった。


「うわっ」


 しかし、ティナがタックルをしてきてその場から昭弥をどかした。が、彼女を一弾が貫通した。


「ぐっ」


「大丈夫かい」


 脇腹から血が出ている。血管は無事なようだが、出血が酷い。


「連中はどうだ」


「こちらが反撃してきて逃げ出しました」


「ここを離れよう」


 応援を呼ばれると厄介だ。昭弥達は急いでここを離れる事にした。

 昭弥はそう言ってティナの脇腹を布で塞いで包帯代わりにすると彼女を運び始めた。


「置いていって下さい」


「だめだ」


 ティナの言葉をはね除けて昭弥達は、海岸を目指した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ