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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部 第一章 アクスム総督
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極秘会談

 総計数百リーグ以上に及ぶ警戒線が完成し猿人族の領域と味方の領域とを分断することに成功した。

 軽便鉄道による巡回や監視塔の監視、横断した場合の討伐などが行われ味方領域での襲撃は少なくなっていった。

 警戒線内側の掃討作戦も行われ、軍による捕縛、殲滅で猿人族の部隊は居なくなった。

 無理に通ろうとすると、鉄条網に引っかかり外そうともがいている間に巡回がやって来たり監視塔の見張に見つかり捕縛されていった。

 強行突破しようとすると、近くの駐留地から部隊が軽便鉄道で運ばれて来て大規模な掃討作戦が行われる。

 猿人族の移動は著しく制限された。

 また友好的な村への軽便鉄道の敷設と部隊の駐留も始まった。

 利便性を高めるためと、村の防衛という意味もあるが、他にも密林での行動に慣れさせるための訓練地と言うこともあった。さらに監視という面もある。

 猿人族に接触して向こう側に行くことも考えられるので、監視は必要だった。

 幸い、掃討作戦後には休養が必要なので、作戦後の部隊を村に移動させて休息と監視、訓練を行っていた。

 お陰で部隊の練度が上がり、ブラウナーとしては満足がいく状況になりつつある。

 またアクスム軽歩兵連隊が更に増設され兵力が純粋に増強されつつある。動かせる兵力が増えるのはブラウナーにとって嬉しいことだ。

 以上の事からブラウナーは作戦の第二段階を始めることにした。

 第二段階は簡単に言うと、猿人族の領域の分断作戦だ。

 警戒線を猿人族のテリトリーに伸ばし、猿人族の村を一つずつ囲い切り離すという作戦だ。

 時間が掛かるが、確実に戦果の上がる方法だ。

 軽便鉄道のお陰で、物資を運び込め、鉄条網のお陰で簡単に分断出来る。

 数日の内に、テリトリー外周部の村十数個を分断したのち、軍主力を投入して一つ一つ帰順させていった。

 変化が起きたのは討伐作戦第二段階が終わりつつあるときだった。




 最近昭弥は不満が溜まりつつあった。総督職として鉄道を敷いてアクスムの発展を願っているのだが、反抗的な部族の対応をしなければならない。つまり軍事作戦になるのだが、その承認をしたり戦闘の経過を聞いたり、負傷者の報告を聞くのは気が重い。

 出来ることなら鉄道をドバッと作っていきたいのだが、周辺の安全が確保出来なければ列車の運行妨害が行われて、建設どころではない。

 放棄論に乗っかれば楽だが、アクスムの産物、特にゴムが鉄道には必要なので、放棄などとんでもない。

 だから真っ正面からぶつかんなければならない。だが、今希望の光がセバスチャンからもたらされてきた。


「総督。猿人族の族長が話しがあると会談を申し込んできました」


「どんな話しだい?」


 セバスチャンの報告を受けた昭弥は尋ねた。傍らには専属メイドのロザリンドが居る。

 疫病の心配もあって本社に残していたのだが、昭弥が病気になったと聞いてユリアが半ば強引に送り出してきた。まだ衛生状態が不充分で送り返そうとしたが、また新しい女を作らないように監視すると言って頑として動かずに居た。

 獣人女性十人を一度に秘書にしたと聞いたときは淫獣とか言われてしまい、次にそのように触れ回られると拙いので置いている。何より、淫獣などと言う単語を教える人間が側に居てはロザリンドの将来にも関わる。

 昭弥はロザリンドにセバスチャンへお茶を出すよう命じた後、用件を促した。


「帰順したいと。条件は猿人族の領域の安泰と地位の保証です」


「そんなところだろうね」


 猿人族にしてみれば生き残るために戦っているのだろうから、そこを確保する必要がある。


「こちらの条件を呑むのなら良しとしましょう」


「どんな条件ですか?」


「武装解除、軍の駐留、鉄道の自由敷設、自治の制限と言ったところですか」


「厳しいですね」


「これ以下だと他の部族に対しても示しが付かないでしょうし」


 あれだけ周辺部族を巻き込んで激しく抵抗したのだ。温情を持って受け入れたいのだが、他の部族が許さないだろう。


「献上品があるそうです。許して貰えればこれらを納める用意があるそうです」


「ふーん」


 昭弥は気の抜けた返事をした。大体予想が付いたからだ。


「こちらです。果物みたいですね。あと何か分からない柔らかい黒い石ですね」


 机の上に置かれたのは、二つの篭だった。一つは予想したとおり黄色く長い果物バナナだ。猿という時点で昭弥は予想が付いていたが、もう一つの方は予想外だった。


「タールの塊みたいですが、何に使うんでしょうか」


 セバスチャンの話も聞かず昭弥は塊を取り、火にあぶってみた。塊は揮発性ガス特有の刺激臭を放ちながら少しずつ溶け出した。


「直ぐに猿人族と会談するぞ」


 塊が溶けたのを見て昭弥は即断した。


「どうしたんです?」


「確保するべき産物が出てきたんだ」


「だからって自ら行くほどの事ですか」


「この世界の未来を決める物だ!」


 そう言って昭弥はセバスチャンが止める間もなく、部屋を出て行った。仕方なくセバスチャンも後について行く。一人にしたら何処に行くか分からない。


「あー、折角お茶が入ったのにー」


 紅茶を入れたロザリンドが二人の背中に抗議の声を上げた。




「段取りという言葉を知っていますか?」


 昭弥がいきなり部屋を出て行って、列車に乗ってから不機嫌にセバスチャンが尋ねた。いきなり社長にして総督である昭弥が勝手に一人で、敵のトップを会談しようというのだから怒るのも当然だ。


「時間が惜しいときはトップ会談がショートカットに良いだろう」


 だが、昭弥は何処吹く風で聞いていない。というより、確保すべきものを手に入れるために向かっている。

 どれほどの犠牲が出ようとも手に入れようという強い意志をみなぎらせて。


「そりゃそうですけど」


 昭弥の眼差し、強い意志を見てセバスチャンはこれ以上言うのをやめた。これの状態では何を言っても無駄だ。

 諦めてサポートに徹する事にした。

 掃討作戦のお陰で沿岸部に関しては安全が確保されており通常列車の運転が可能になっていて、今は問題無い。


「あまり目立たないようにお願いしますよ」


 政府関係者や職員に見られるのは少し拙い。


「分かっているけど、秘書達が来るのは目立つんじゃ?」


 そう言って、隣の個室に付いてきている獣人女性の秘書の事を尋ねた。使者での書類整理や資料作成もあるので半分の五人だけ連れてきているが、それでも目立つ。


「内乱状態の危険地帯に社長単身で行く方が危険です」


「でも彼女たちを危険に曝すのは」


「社長より彼女たちの方が強いです」


「本当に?」


 ユリアさんに撃退されたのを見ているととてもそうは見えなかった。


「ええ、獣人は身体能力が優れていますから。社長より彼女たちの方がよっぽど役に立ちます」


「うーん」


 少し傷ついたし、それでも信じられない。いつも昭弥に甘えてくる彼女たちの事を思い出すとどうしても想像外だ。

 そうこうしているうちに昭弥たちは、目的地に到着した。海岸線の途中駅で、現在も延伸中だ。

 この駅からも軽便鉄道が四方に延びており何台もの軽便鉄道が待っていた。

 昭弥達はそのうち、猿人族のテリトリーに向かう列車に乗り込んだ。


「これから先は社長が会社の鉄道技師で私が手伝いと言うことになります。彼女たちはアクスム軽歩兵の増援ということにしています」


「分かったよ」


 予め渡された変装用の衣装に着替える。昭弥とセバスチャンはサスペンション付のズボンとシャツに上着を着ている。更に工具箱が追加される。


「ばれないかな」


「大丈夫ですよ。どこからどう見ても技師ですよ。そのまま通じます」


「いっそこのまま技師として過ごそうか」


「それはダメです」


 真面目にセバスチャンが答えて昭弥は肩を落とした。半ば本気で言っていたのに、否定されるのは結構、堪える。

 一方彼女たちは、アクスム軽歩兵の制服、緑を基調にまだら模様の制服、迷彩服姿だ。

 森に隠れやすいようにと昭弥が採用しており、中々評判は良い。


「では、あちらの軽便鉄道に乗って目的地に向かいましょう」


 そういってセバスチャンは手配していた列車を指し、一同を乗せた。

 昭弥達を乗せた軽便鉄道は、ゆっくりと進む。小さいため二人が並んで座る程度しかスペースはないが、歩いて行くより遥かに楽だ。

軽便鉄道は、そのまま警戒線沿いに進んで行き砦に到着して、一同を降ろした。


「お待ちしていました」


 その砦ではブラウナー准将が待っていた。前線視察名目で、合流していた。


「向こうとの接触は出来ました。ここから少し離れた場所で会談したいと言っています」


「双方の人数は?」


 セバスチャンが尋ねた。主人である昭弥に危害が加えられてはまずい。何より、昭弥だけだと素直にそのまま連れ去られてしまう可能性が有る。


「少数のみと言う事になっています。向こうも約束を守ると」


「本当でしょうか」


 セバスチャンが懸念を示すと、ブラウナーは落ち着かせるように答えた。


「講和したいのは本音のようです。ただ極秘にしたいのは武力闘争前提の過激派がおり、連中に気が付かれると厄介な事になるそうです」


「なるほどね」


 昭弥は納得した何処の集団でも意見対立というのはあるようだ。


「幸い長老は穏健派で現状に鑑みて和解に意欲的です」


「それは助かる」


 昭弥は心から安堵した。これで平和が戻る。同時に目的の産物を手に入れられる。


「間もなく時間です。道案内と護衛を兼ねた兵士を付けますから、向かって下さい。他の兵士達には、警戒線延長のための事前調査ということで通しています」


「分かった」


 そう言って昭弥はブラウナーと別れた。

 万が一、猿人族が裏切ったりして昭弥が行方不明になったら捜索の兵を出し指揮する手はずになっている。そういう意味で彼が残ることが必要だった。


「ではご武運を」


 昭弥達一行は、鉄条網が張られた扉が開くと、そこをくぐり、密林の中に入っていった。

 ほんの数十メートル歩くと直ぐに木々や葉が生い茂り、視界は急激に悪くなって鉄条網が見えなくなった。

 ここから先は王国の勢力下では無く、敵の勢力下だ。

 本来なら呼び寄せても構わないのだが、向こうは密かに会いたいと言うので、そこだけ譲歩した。


「どれくらい歩く?」


「もうすぐです」


 案内役の兵士が答えた。

 だが、あまり遠くだと捕虜になる可能性が有るので、警戒線の近くの競合地域、敵味方が入り交じる場所で話し合うことになっている。

 案内役の兵士を先頭に、一行が進むとやがて大木の麓に来た。


「あの木の根の中が会談場所です」


 根の回りの土が流出して空間が出来ている。大木の根の影で外からは見えにくく、中からは開けているため、見張りやすい。

 会談には絶好の場所と言えた。

 昭弥達は、急いで入り込み中にいた猿人族と会談を持った。


「初めまして猿人族族長のアルフレート・アッフェと申します」


 長い白髪の髭を持った老人が答えた。一見老人だが、身体のあちらこちらから白い者が生えているところを見ると、やはり猿に近いと昭弥は思った。


「初めましてアクスム総督玉川昭弥です」


 二人は挨拶もそこそこに会談を始めた。


「これまでのご無礼を謝罪いたします。どうか猿人族をお許し下さい」


「こちらとしてもやぶさかではないですが、手土産が必要です」


「それは勿論、あのバナナとクソウズを献上いたします」


「産出場所周辺を差し出して貰いたい」


 昭弥は断固として聞かなかった。だが、族長もすんなりと認める訳にはいかなかった。


「ですがアレは我々の大事な財産です」


「武装を認めます、自治も認めます、恩赦も与えます、賠償も求めません、アクスム内での地位も認めます」


 昭弥は次々と条件を出して畳み掛ける。


「たった一件を譲るだけで、全て元通りになります」


 族長は息を呑んだ。確かに条件は破格だ。ほぼこれまで通り、生活出来るだろう。

 だがあのクソウズが場所採れる場所を取られるのは痛い。あそこは鏃の接着剤や船の防水剤として外の世界に需要があり、輸出される大事な場所だ。

 それを奪われるというのは、猿人族にとってキツい。


「どうしても出来ません」


「ならば他を当たります」


「どういう意味ですか?」


「この条件を布告します。この条件を呑む猿人族の勢力を見つけ出し交渉を成立させます。そして彼らを正式な猿人族として扱います。その他は、反逆者として討伐します」


 昭弥はいつになく強い意志で長老達に条件を呑むよう迫った。

 確かに寛大な条件であり、この条件を受け入れる部族民を居るだろう。

 過激派も居るが度重なる戦闘で多くの戦死か捕らえられており、部族の中では和平派が多くなってきている。

 その中には無条件降伏を唱える者も出始めている。

 軟弱と罵ることは簡単だが、勝算が全くなくなっていることも事実だ。

 何より警戒線により猿人族のテリトリーは分断され、幾つもの村孤立している。このままではすべての猿人族が王国の奴隷、支配下に置かれてしまう。


「……分かりました。割譲しましょう」


 長老達は決断した。

 隷属より、産物を譲る代わりに良い条件で支配下に入る事にした。


「全てお願いします。新たに見つかった場合は、そこも直轄地にします。その代わり、貴方方、猿人族の地位と権利は保障、いや保護します」


 昭弥は満足して条件を改めて確認し猿人族に伝えた。


「はい」


 双方が同意して長老と昭弥が手を結んだとき、轟音が響き渡った。

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