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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部 第一章 アクスム総督
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警戒線建設

「持ってきましたよ」


「おうありがとうよ」


 猪人族の少年ハインツの操る軽便機関車がやって来て来ると、作業員達は我先にと駆け寄る。彼らは、貨車に積まれたレールと枕木が一体になった軌匡を降ろして行き、線路に繋げて更に伸ばして行く。

 一緒に持ってきた有刺鉄線も降ろして、線路両側に鉄条網の構築作業に入る

 すべての軌匡を降ろすと続いて切り出した木材を降ろす作業が始まった。

 一部は鉄条網の構築のための杭として加工されているが、それでも余った物は木材として運び出すことになっている。


「だいぶ出来ましたね」


「おうよ」


 監督をしている狼人族の男が胸を張って言った。

 警戒線の製作作業が始まって数日だが、人海戦術で行われ既に四〇キロ以上になっている。

 アクスム各地から集められた獣人労働者が、ルテティア鋼で作られた斧やのこぎりで密林を切り開き、凄い勢いで完成しつつある。

 さらに木製とはいえ、監視塔を含む砦が築かれつつあり猿人族の押さえ込みが図られている。


「しかしお前も よく働くよ」


「機関士が負傷しましたからね。私が頑張らないと」


 あの襲撃の時に本来の機関士と機関助士が負傷し運転不能となってしまった。そのため、ハインツが代わり機関士として運転している。

 本当は兵士として行きたかったが、機関車の運転が出来ると聞きこちらに移った。不幸中の幸いとも言うべきもので、自分で機関車を運転出来ることはハインツとって幸せな時間となっていた。


「もうじき完成だ。そうなれば」


 その時、銃声が響いた。


「襲撃!」


 猿人族の襲撃が始まった。分断されることを恐れて妨害にやって来たみたいだ。

 木を切り倒していた作業員達はすぐさま仕事を放棄して線路の近くにやって来る。逃げるためではない、銃を取って抵抗するためだ。

 鉄条網が築かれていることもあり、横からの攻撃を抑えることが出来る。

 彼らは銃を取るとそれぞれ撃ち始め反撃を行う。


「機関車を後退させろ」


 現場の作業監督が


「戦いますよ」


「後方に行って味方を呼び寄せてくれ。それが出来るのはお前しかいない」


「は、はい」


 ハインツは言われたとおり、機関車を後退させ、部隊が居る場所まで列車を走らせる。

 だが、銃声を聞いたのだろうか、近くに作られた砦にいた部隊が駆け寄ってきた。

 ハインツは部隊に近づくと列車を停止させた。


「作業場で襲撃されています」


「分かった。連れて行ってくれるか」


「はい」


「よし、乗れる者は乗って行け」


 一〇〇人ほどが軽便に乗り込み現場に向かう。残りは徒歩で移動している。

 ハインツは、機関助士をしている少年に石炭をくべさせつつ全速力で向かう。

 間に合ってくれ。

 引き返したときには既に鉄条網近くまで押し込まれていた。

 既に接近戦となり乱戦となっている。


「このまま突っ込んでくれ!」


「ははい」


 部隊長の指示でハインツはブレーキを掛けずに向かう。そして、線路が終わる寸前で、急ブレーキ。脱線前に止めた。


「降車!」


 止まるかどうかと言う瞬間に指揮官は降りて乱戦に突入する。兵士達も降りて攻撃に加わって行く。


「突撃しろ!」


 増援が来たお陰で、形勢は逆転した。猿人族は徐々に排除され始める。

 徒歩でやって来た増援も加わり、一〇分ほどで壊滅させる事に成功した。


「ふう」


 ハインツも機関車を止めた後、引き返し増援の輸送で忙しく回った。


「お疲れ様」


 部隊長らしき指揮官が話しかけてきた。


「若いのに助かったよ」


「いえ、皆の敵討ちでもありますから。ただ」


「ただ?」


「自分も一緒に戦って仇を討ちたかった」


「そう思うかもしれないが違うぞ。もし機関車を放棄して戦闘に加わったら増援は来なかったし死傷者が増えた。連中の跋扈も止められなかった。君が機関車を動かすことで連中に復讐を果たしたんだ。誇って良い」


「ありがとうございます」


 ハインツは穏やかに笑った。


「ところで、軍に入らないか? 鉄道連隊が出来て軽便鉄道の運用を行っているんだが、腕の良い機関士が欲しい」


「いや、鉄道学園への入学が決まっていて。それに標準軌が動かしたくて」


「鉄道連隊には標準軌を動かす部署も、装甲列車も動かす部署もある。鉄道学園への留学制度もあるぞ」


「いえ、会社に世話になりましたし駅の再建も手伝いたいんで」


「そっか、残念だ」


 それだけ言うと指揮官は立ち上がった。


「気が変わったら、来てくれや」


 それだけ言うと、ブラウナーはハインツから離れた。




「作戦は上手く行きそうだな」


 先ほどの実戦を見たブラウナーは確信した。

 工事中の線路でも十分な防御力があり、敵を撃退出来る。


「あとは伸ばしていくだけだ」


 沿岸及び猿人族と他の部族との境界線を分断。

 それが出来たら猿人族のテリトリー内側に同じような警戒線を作る。

 そして、警戒線と警戒線の間にも警戒線を作り、最後には碁盤の目のように猿人族のテリトリーを分断、各個に撃破して行く。

 猿人族を村ごとに分断して力を発揮出来ないようにするのがブラウナーの作戦だ。


「あとは、離反工作や慰撫を行って、こちらになびくように仕込めば良い」


 討伐作戦はようやく軌道に乗り始めた。

 ブラウナーはこのまま猿人族を降伏に追い込むつもりだ。 

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