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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部 第一章 アクスム総督
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討伐作戦開始

 掃討作戦の発動と同時に、多数の軍用列車が南に向かって進撃を開始した。

 先頭を切るのは、鉄道会社所属の装甲列車。

 王国鉄道会社鉄道警備隊所属の装甲列車で、軍の装甲列車並みかそれ以上の武装を持っている。軍への納入前に武器の実地試験も行っているためで、武装は非常に強力。ただ、実験中のためハズレ兵器を引くこともある。

 ただ概して上手くゆく事が多いので今のところ問題は無い。

 装甲列車を先頭に後続の軍用列車には一個大隊ずつ乗せた列車が後続する。

 各列車共に歩兵一個大隊とその支援物資、支援車両を持っている。

 装甲列車の護衛もあったためか、列車は順調に移動し最初の目的地であるオスターホルストに到着した。


「総員降車!」


 駅に着くなり、周辺に展開し警戒線を作る。

 更に町に進出して町の治安維持、被災者の救助を始めた。


「展開は順調なようだね」


 第一陣に指揮官としてブラウナー准将も来ていた。


「ええ、拠点の確保はお任せ下さい」


 先遣隊として要地を確保するのはアグリッパ大佐の連隊だ。

 機動力は無いが陣地を構築するのが得意な歩兵なので、直ぐに後続部隊を収容出来る。

 ただ、トラブルも発生していた。

 何しろ殆ど獣人の町であり、王国兵がやって来る事は無く、襲撃されて殺気立っている。


「拙いな」


 ブラウナーは危機感を覚えた。このままでは民心は離れてしまう。


「獣人ですし気にする必要は無いでしょう」


「いや、それは危険だ」


 ここの兵力は現在一個大隊六〇〇名ほど。後続が来るとは言え、回りには何千人もの獣人、力の強い猪人族が多い。


「本国からも増援が来るのでは?」


「あてに出来ないし、やるべきではない」


 昇進したハレック元帥と玉川総督は、鉄道の管轄などを巡って仲が悪い。

 増援を送ってくるとは思えなかった。なので、駐留軍独力で何とかするしかない。不安がらせないようにアグリッパ大佐に言えないのが心苦しい。

 何より、今後の統治を考えたら民心が離れる事は避けたい。


「大隊の物資を使って炊き出しを初めてくれ。治癒魔法を使える神官やヒーラー、軍医は負傷者の治療。陣地構築の部隊を除いて町の瓦礫撤去を行え」


「それでは戦力の維持が出来ません」


「後方が乱れていたら戦いどころじゃない。支援出来る体制を整える事も必要だ。何より今後の統治が難しくなる」


 王国はアクスムの統治を決めた。放棄論も出ていたが、香辛料や、新商品のゴムが売れ始めており、王国に富をもたらすことが確実視されている。

 なので、今後の事を考えると反発は最小限に抑える必要がある。


「後続の部隊も同じように勢力圏下での民心掌握に入れ」


 ブラウナーの命令は徹底されていた。

 各地に配備された部隊は民心の掌握を始めている。

 中でも役に立ったのはティアナ率いるアクスム軽歩兵連隊だ。

 他の部族とは言えある程度、事情を知っていると言うこともあり的確に事案を処理して行く。


「やはり連れてきて正解だったな」


 密林での行動になれているため偵察にと思っていたのだが、住民との交流に役に立っている。

 しばらくの間兵力の移動、物資の輸送を終えた後、早速作戦行動を始めることにした。


「では、猿人族の掃討作戦を行う」


 主力となる連隊の指揮官を全員オスターホルストの駅前に作った司令部用テントにブラウナーは集め作戦計画を見せた。


「これまでの情報から彼らは沿岸部の密林を中心に行動している」


 この一週間後方の人心掌握ばかりをやっていた訳ではない。

 少数のアクスム軽歩兵を展開して猿人族の拠点を探し当てていた。


「大隊単位で分散展開し襲撃する。アクスム軽歩兵を展開させつつ前進し拠点を包囲、占拠する。占拠後は物資や建築物を燃やし放棄。次の拠点を攻撃する」


「司令官」


 そこにアグリッパ大佐が異議を唱えた。


「そのような面倒な事をしなくても、前進して殲滅すれば良いのでは?」


「いや、こうしないと……」


「迅速に移動して敵を撃滅しましょう」


「おうよ。突撃が一番だ」


 残りのスコット大佐とミード大佐も同意見だった。

 ただティーグル中佐だけは、こちらをじっと見ていた。

 このまま司令官として命令だといって押しつけることもできるが


「わかった、好きなようにやってみろ」


「はい」


「吉報をお待ち下さい」


「ヨッシャー、敵を撃滅してやる!」


 三人はそれぞれ部隊に合流するべく司令部を出て行った。


「大丈夫なのですか」


 ただ一人残ったティーグルがブラウナーに尋ねた。


「一度痛い目に遭わないと分からないだろう。それに彼らはアクスムへの遠征は初めてだ」


 これまではアクスムへの遠征は度々行われ優秀な指揮官が育ってきたが、東方の周に対抗するために、経験豊富で優秀な指揮官は東方へ引き抜かれている。

 アクスムは彼らのような若い士官が殆どだ。


「失敗も経験の内だ。まあカバーする方策は用意しておくけどね」


 そう言って、ブラウナーはティーグルに指示を出した。




「総員隊列を保って進撃せよ」


 アグリッパは前進を命じた。武人貴族の名門らしく伝統に則り教科書通りの進撃を進める。


「よおし皆突撃だ!」


 だが、その横をミード大佐率いる連隊が前進して追い抜いて行く。


「待ちなさい連携が必要なのよ。勝手に行かないで下さい」


 アグリッパがたしなめるがミードは聞かずに進んで行く。


「こらオリバー! 待ってって言っているんだろうが!」


 スコット大佐も怒るがミードは気にせず前に進む。


「まったくもう。単独で吐出させる訳にはいかないわね。援護に行くわ」


 と言ってスコット大佐も騎兵連隊を指揮して向かってしまった。


「仕方ありませんわ。私たちも行軍速度を上げましょう」


 そう言って前進して敵の拠点近くにやって来て敵の攻撃を受けた。


「総員横隊列反撃しなさい」


 セオリー通りアグリッパは横隊に展開させるが、密林のため思うように陣形変換が出来ない。それどころか移動中に銃撃を受けて多数の死傷者をうみ混乱した。


「早く陣形を変換しなさい。死にたいの! そこもう少し前に進んで!」


 アグリッパが叱咤、指示するが、複雑な地形と木々に囲まれて陣形が展開出来ない上、指示も途切れがちだった。

 しかも攻撃は前だけでなく、後方からも始まり混乱に拍車を掛けた。


「迂回された! でもどうやって、索敵の兵を放っていたのに」


 他の部隊も密林と地形に阻まれて一方的に攻撃を受けている。

 特にスコット大佐の騎兵連隊は、持ち味である突進が出来ず、なすすべがなかった。

 馬の機動力は障害となる危機が多く避けながら進むしかなく自然と速度が落ちる。おまけに高い位置に頭が来るため、枝に引っかかりやすい。

 ミード大佐も突進したは良いが、密林の前に敵が隠れてしまい。突撃目標を定めることが出来なかった。

 全ての部隊が混乱し、敵に良いように攻撃されている。


「総員突撃せよ」


 あわや全滅かという時にやって来たのはティーグル大佐率いる軽歩兵連隊だった。彼らは少人数の部隊に別れると獣人の身体能力を生かして、密林と地形を物ともせず前進。襲撃してきた敵の側面を攻撃し、他の連隊を援護した。


「今のうちに陣形を立て直しなさい」


「よし、突っ込むぞ」


「下馬して応戦して」


 それぞれの連隊は出来た隙を生かして体制を整え反撃を始めた。敵も思わぬ攻撃に混乱し攻撃の手を緩めた。

 その間にミードは前進して拠点内に突入、一方スコット大佐も後方を遮断しようとしたが、密林に阻まれて移動出来ず、大半を取り逃がしてしまった。


「まあ、こんなもんだね」


 確保された敵拠点にブラウナーがやって来て各連隊から報告を受けた。


「……次こそは汚名を雪ぎます」


「今度は失敗しません」


「次は最初から突撃するぜ」


「だめだ」


 三人の進言をブラウナーははね除けた。


「密林でいたずらに大部隊で前進しても無意味だ。これからは俺の指揮に従って貰う」


「しかし」


「従って貰う」


「……はい」


 アグリッパは静かに頷いた。

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