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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部 第一章 アクスム総督
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討伐準備

 ブラウナー准将は、現在アクスム駐留軍参謀長を務めている。

 平民出身で、下に居る弟妹の為に年齢を偽って軍に志願し戦場へ。戦場で度々戦功を上げて士官に推薦され、中尉にまで昇進した。

 貴族社会の王国の中で比較的実力主義の王国軍にあっても平民で士官学校を出ていないブラウナーが二〇代で士官に任官出来たのは彼の能力と運のお陰であり、通常なら十分以上の功績だ。

 しかし、そこで終わる事は無かった。

 先の大戦では連隊副官として出征、アクスム軍の奇襲攻撃を受け、所属連隊は非常に困難な敗走戦を行い部隊をオスティアまで撤退させることに成功。その過程で、残存部隊の指揮のために一挙に准将に昇進。野戦任官だったが、戦後功績が認められて正規の階級となった。

 そして、今アクスム駐留軍の参謀長を務めている。この前までは代理司令官という肩書きがあったが今はない。

 軍団規模の軍とはいえ、最下級の将官である准将では、司令官として低すぎると言うこともあった。

 連隊、大隊の集合体ということもあり、准将でも事足りたが、今後を考えると中将、大将クラスの将官がやって来て少将や准将と言った将官多数で、指揮下の部隊を統率した方が良い。何しろ部隊の数が多いのだ。

 指揮官が増えなければ意味が無い。

 だが、新たに着任してきた司令官はミード大将だった。

 東方戦線で活躍し多大な戦功を上げた指揮官だが、着くなりブラウナーに南部部族討伐作戦の指揮を任せてしまった。

 確かにミード大将が着任する前からブラウナー准将が計画していたので、実行も適任だが、そんな重要なことを任せても良いのかという疑問がブラウナー准将にはあった。

 だが、命令は命令であり、作戦指揮官としてブラウナーは自らの計画に従って作戦を行うことになった。


「一応指揮を取って貰いたかったんだが……」


 命令書のサインが欲しくて向かったら、一読して直ぐにサインをくれたのだが、指揮は全てブラウナーに任せるというとそのまま自室のベッドに入って寝てしまった。

 そのため、ブラウナーは自ら指揮をしなければならなくなってしまった。


「さて、部隊の集結は順調かな」


 駅の一角に作った臨時指揮所の中で呟いた。

 今回動員されるのは三個歩兵連隊に一個騎兵連隊、更に支援部隊の一個師団規模だ。

 ただ砲兵は密林では機動力が無いため、鉄道の貨車に乗せて列車砲代わりにする以外は、置いていくことになっている。


「では、連隊長に集まって貰おう」


 ブラウナーは、臨時指揮所に連隊長と幕僚を集めさせた。


「歩兵第六〇三連隊連隊長のメッサリナ・アグリッパ大佐参上しました」


「歩兵第四〇二連隊連隊長のローリー・ミード大佐だ! 来たぜ!」


「騎兵第一〇四連隊連隊長のノエル・スコット大佐参りました」


「鉄道第一連隊連隊長のアレック・ニコルソン大佐です」


 この四人が主力となる部隊を指揮する。

 特に鉄道連隊が重要だ。

 大戦後の軍再編成で成立した新兵科で、鉄道の建設、修理、運用を行う。編成は五個大隊で、二個軽便鉄道建設大隊、標準軌鉄道建設大隊、軽便鉄道運用大隊、標準軌鉄道運用大隊。

 軍用鉄道を建設して後方の補給地から前線へ物資を供給するのが主な役割で、鉄道会社の支援を受けつつ、任務を遂行する。

 初めての部隊なので、上手く運用出来るかブラウナーの手腕が問われる所だ。


「良く来てくれた。ありがとう。ところで部隊の指揮はどうだ?」


「はい、初めて顔を合わせる部隊が多いので、意志疎通に不安があります」


 代表して言ったのは、アグリッパ大佐だった。

 アクスムは熱気が強いため将兵の疲労が激しく、交代で後方に下がらせていた。ただ、前線に必要な部隊が必要なため、中隊、大隊単位で交代させていた。

 そのため、連隊に本来所属している大隊が残っていることが少ない。

 特に今回は戦闘力のある大隊をかき集めて、各連隊に五個大隊ずつ渡しているため、本来の部隊は少なく指揮に不安があるのだろう。


「大丈夫だ。しっかりやってくれ」


 ただ、ブラウナーはそれほど心配はしていない。

 寄せ集めの部隊、と言うより戦闘でバラバラになった兵隊を集めて即席の部隊を編成して戦ったことなど、良くあったからだ。

 彼らはそんな戦いを行った事など無いから不安なのだろうが実戦で慣れる。

 でなければ今後、アクスムで戦う事など出来ないだろう。

 そして、ブラウナーはもう一つの不安材料である隣の連隊長を見た。


「アクスム軽歩兵第一連隊連隊長のティアナ・ティーグル中佐参りました」


 王国軍の敬礼をしたのは黒髪の虎人族の少女だった。

 アクスム総督府で編成された獣人主力の連隊だ。幕僚や各級指揮官には王国軍の正規士官を送り込んでいるが、彼女をはじめ多くの獣人有力者の師弟を配属している。

 人質とか王国の教育を受けて王国支持者になって貰う目論見だが、兵の数が足りず動員する必要が生じた。

 王国の元で戦う事に不満を感じないか心配だったが、意外にも獣人のほぼ全員が積極的だった。


「宜しく頼む。これから向かうのは南部の猿人族の地域だ。ここで反乱の危険がある」


 猿人族は十大部族に含まれないが、かなり大きな規模だ。

 歴史の古い部族だが、人間に近いため、他の獣人から裏切るのではないかと思われ、王国側には獣人としてみられ信用されず、不満が高まっていた。

 故に十大部族に入れず独立独歩の気概が強い。

 ほっといても良いのだが、周辺を襲撃されては黙っている訳にはいかない。友好的な村が離反するからだ。ここで叩いておかないと、昔のアクスムに逆戻りだ。


「移動は、鉄道で行う。沿岸部へ鉄道を建設しつつ進むことになる。連絡線の確保を忘れるな」


「獣人が居て大丈夫なんでしょうか?」


 アグリッパ大佐が警戒心剥き出しに尋ねてくる。

「彼らはアクスム総督府の軍に所属して我々の指揮下に入った味方だ。失礼なことを言うな」


 加えて、王国軍内にある獣人への偏見だ。征服したので自分たちが主人という考えが強い。

 何より長年にわたって戦ってきた仇敵と言って良い間柄だ。特に貴族は冬の遠征で戦ってきただけに、アクスムの獣人に殺された身内、先祖は多いはずだ。


「兎に角、俺の指揮に従って貰うぞ。移動計画を策定したからそれに従って移動せよ」


「しかし」


「命令だ。アグリッパ大佐」


「はっ」


 階級と命令で不満を押しつけるのは、良くないが手っ取り早い。あとあと問題が出るかも知れないが円滑に作戦をこなすには必要だ。


「では、各隊計画に従い、移動開始せよ」


「了解!」


「やれやれ」


 どれも経験不足で間違いを犯しそうだ。自分と殆ど年齢が変わらないと言うこともあり、彼らが、自分の指揮に従ってくれるという保証も無い。


「それでもやるしかないか」


 今後の展開を考えて、ブラウナーはまた溜息を付いた。

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