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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部 第一章 アクスム総督
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ハインツの駅

「凄い」


 猪人族の少年ハインツ・エーベルは、入って来た列車を見て呟いた。

 蒸気の音を立てながらピストンを動かし動輪を回している。

 その力強さを初めてたときハインツは、心を奪われた。

 彼の属する猪人族は猪突猛進、力強いことを良しとする。

 故に重い貨車を引っ張る機関車に強い憧れを抱いた。

 大人達は鉄の塊なんぞ、尊敬するに値しない、と言っているがハインツには負け惜しみにしか聞こえなかった。

 機関車を操りたい。

 それがハインツの夢となった。

 すぐさま駅に向かい機関車を運転したいと頼み込んだ。当然ながらだめ出しされた。

 しかし、鉄道の職員になり、機関区に配属されればなれると聞き、派遣されてきた駅長さんに職員採用を頼んだ。


「年は幾つだ?」


 ハインツが正直に話すと、ダメだと言われた。

 年齢制限に引っかかり、採用出来ない。

 今すぐ職員になりたいのに、年が若いと言われて門前払いを喰らう。

 これまでも部族の中では子供ということで、何かと制限を受けた。それがここでもつきまとい、ハインツは自分が遅く生まれてきたことを後悔した。


「練習生から初等部生になったらどうだ?」


 その時、駅長が希望をくれた。

 練習生は、駅員として働きつつ学ぶという制度だ。

 学校教育など無いため帝国共通語を話せる人が少ない。多くは村か神殿が経営する日曜学校で、読み書き計算のを教えているがレベル様々で使い物になる事もあれば、ならないこともある。

 そこで、日曜学校を終えた人で鉄道会社への就職希望者を中心により多くの語彙と計算を教えつつ実務を教える練習生という過程がある。

 駅近くに住み込みの上、鉄道に触れる事が出来る。

 これ以上の待遇は現在無く、ハインツは喜んでアムハラの南にあるオスターホルスト駅で練習生になった。

 この日は駅員として業務に入っている。

 今日は荷物の積み卸しだ。いつも通りに停止位置に止まる。

 貨車の扉を開けて、駅宛のタグが付いた荷物を探し出し降ろして行く。

 手は抜けない、この荷物は通販で購入した人達に渡さなければ。最近、ゴムの畑を作るために農機具の需要が高まり、本土の方から大量に送り込まれている。

 それらを確実に渡す事で、アクスムの発展に寄与出来る。何より、鉄道が発展の役に立っていることが嬉しい。


「ハインツ、今日は気合いが入っているな」


「ええ」


 何より、今日は自分宛のものがやって来るのだ。少しでも早くやって来るように出しておきたい。


「荷物を降ろしたら軽便鉄道の方に持って行け」


「はい!」


 荷物の多くは支線として作られた五〇〇ミリ軽便鉄道へ運ぶ。この辺りは地形が急峻なため標準軌で奥地に線路を建設するのは難しい。

 奥地を直ぐに繋ぐ必要があったので簡単に作れる軽便鉄道が敷設された。自分の生まれた村にも引かれたが、小さくてがっかりした。だからこそ、大きな標準軌が走っているこの町にやって来たのだ。


「入線するぞ!」


 その時、軽便鉄道の線路を小さな機関車が数両の貨車を引いて入って来た。

 軽便機関車は、ゆっくりと入ってきて静かに止まった。

 先ほどの蒸気機関車より小さく勢いがないので、格下といった感じにハインツは考えていた。だが、それでもハインツは気に入っている


「よし、荷物を降ろせ!」


 軽便鉄道に乗っている貨物を降ろす。降ろすのは主にゴムと香辛料だ。

 一つ一つは小さいが纏まった量だと結構重い。だが、子供とはいえ猪人族のハインツは、軽々と運び終える。


「ハインツ! 転換するぞ、やって良いぞ」


「! はい!」


 知り合いの機関士に言われて直ぐに答え、列車との連結を外してから機関室に上がった。


「機関蒸気圧良し、ブレーキ弁作動よし、前方確認良し、信号良し」


 出発前点検を手慣れた手つきでハインツは素早く行う。


「出発進行!」


 号令と共にブレーキを緩め蒸気弁を解放し機関車を走らせる。

 ハインツが小さいながらも軽便機関車が好きな理由は、転換の際に運が良ければ操れるからだ。機関士志望のハインツの事を知った軽便機関車の機関士が教えてくるのだ。

 ゆっくりと移動させ前にある転車台に載せる。


「回してくれ」


「はい」


 転車台のロックを解除して機関車の端を持ってハインツは力一杯機関車を回し始めた。

 何トンもある機関車だが、転車台は人力で動かせるように設計されており簡単に回せる。

 目的の方向に直して再びロックし、機関室に戻り、再び走らせ外れた列車の隣の線路を走る。

 ポイントの手前に来ると一旦停止してポイントを切り替え。

 切り替えを確認したら再び機関車を走らせ通過させて停止。ポイントを再び切り替えて今度は更新させて元の列車に繋げる。後は連結器を接続して終了だ。


「上手くなったなハインツ」


「はい! ありがとうございます!」


 本来なら免許のないハインツが動かすのは禁止だが、辺境だと結構目をつぶっているところが多い。


「では、仕事に戻ります」


 ハインツはそう言って、駅舎に戻って降ろした荷物の整理を始める。

 今日は重要な物が届く予定だからだ。


「おい、ハインツ! ソロソロ授業の時間だぞ」


 だが、上司の駅員がハインツを止めた。


「は、はい。でも……」


「郵便は必ず届ける。直ぐに行くんだ」


「はい!」


 そう言うと、ハインツは駅舎内の教室に向かう。

 駅員としての勤務は午前か午後、駅員として勤務していないときは授業がある。

 ハインツは午後の授業を受けるべく、教室に入っていった。

 教室内は、子供で溢れていた。アクスムにはまともな教育機関がないため、教養を教えるためこの駅の授業を受けさせる獣人は多くなっている。


「揃ったようだね。じゃあ始めようか。それぞれ自分の教科書を読んで」


 教師役の魔術師が伝えて、授業は始まった。

 だが生徒の年齢がバラバラな上、志望が違うのでそれぞれに合った教科書を渡されて、自分で解くのが普通だ。

 初級の文字や文法を教える教科書はあるが、他は各自の志望ごとに関係のありそうな本や手紙を見せる。

 例えば農業だったら農民の日記や、体験記、土地訴訟の書状。商売だったら、契約書の写しや指示の手紙。役人だったら訴状、法律集だ。

 ハインツは当然、鉄道関係。鉄道学園の教科書や駅に置かれているマニュアル、連絡事項を書いた書類。

 結構実戦的で日常の職務に役に立つ事も多い。

 何より何故その業務が必要かと言うことがわかる。

 そのため成績は非常に良い。


「ハインツ」


「はい」


 その時、一枚の紙を持った教師に呼ばれた。


「鉄道学園から返信が届いた。初等部試験合格したぞ。来月から学園に入学だ」


「やった!」


 ハインツは大声で喜びの声を開けた。

 鉄道学園初等部。

 日曜学校を出たばかりの人を訓練し鉄道職員に育て上げる部門だ。

 住み込みで二四時間鉄道三昧の教育を受けられる上、卒業すれば即配属される。実務研修として実際に機関車の整備なども出来る。

 希望者が多いために最初は駅で練習生として入り、勤務態度を見て推薦を貰い試験を受けて入るのが一般的だ。

 ハインツは駅長から推薦を貰ってチェニスで試験を受けて合格したのだ。

 その合格通知の手紙が届いた。

 ハインツが気合いを入れて探したのは、合格通知の手紙だ。郵便は貨物と一緒に入ってくることが多い。一刻も早く受け取りたくて探していたのだ。


「直ぐに手続きの準備を進めるんだ。事務室で書類を受け取って書いて出してこい」


「はい! ありがとうございます!」


 ハインツは直ぐに駅事務室で書類を受け取り、書き込むと駅構内に設けられた郵便局に行き出した。

 駅には郵便局も併設されており、ハインツも時折手伝うので簡単に終える。


「今日も人が多いな」


 駅舎内の通販のアンテナショップに人が集まっている。今日届く予定の荷物を受け取りに来ているのだ。

 アンテナショップで欲しい商品を選び、注文してショップに届いた商品を受け取る。

 店頭に置いておいても良いのだが、農機具などは大きすぎてスペースがないので注文を受けてから取り寄せた方が結果的に省スペースになる。

 色々な施設が入った駅がハインツは好きだ。

 列車で運ばれて来た物を人々に渡したり、受け取って運び出す鉄道が好きだ。

 これらの仕事はこの地の発展に役に立っている。日替わりで、駅員の他にもこれらの弥山手伝いをしているハインツはその事をよく知っている。

 その重要な鉄道で、要ともいえる職である機関士への切符がいま手に入った。

 ハインツの慶びは天にも昇る気分だ。


「さて、入学に備えて勉強を」


 教室に戻ろうとしたときだった。突然、大きな爆発音が鳴り響いた。


「な、なんだ」


 慌てて窓に駆け寄って外を見ると、町が燃えていた。


「どうして」


 何者かの襲撃だった。シルエットが見える。


「猿人族の連中」


 内陸の密林に住む連中で樹上での動きが早い。手先が器用だが力も弱いし人族に近いので獣人の中では差別されていた。故に対立している。

 彼らはあちらこちらに手投げ弾を投げて建物を爆破している。

 一団は手投げ弾を投げつつ駅に迫り、やがて駅舎にも投げ始めた。


「ああ! なんてことを」


 ハインツは直ぐに消そうと向かおうとしたが、駅長に止められた。


「何をしている!」


「火を消さないと」


「お前は生徒を連れて避難しろ!」


「しかし……」


「つべこべ言うな。お前は職員ではない!」


「違います。練習生です。駅長は?」


「おれはここの責任者だ。守る義務がある」


 そう言って駅長室に入ると銃器ロッカーから銃を取り出して弾を装填した。

 更に駅員もそれぞれ銃を取り出し弾を込めて出て行く。


「俺も戦います」


「だめだ。直ぐに避難しろ」


「私はこの駅の練習生です」


「なら余計にだ。上司の命令は絶対に服従しろ。何している行け!」


 駅長に追い払われ教室に戻ろうとしたとき、大きな爆発が起こった。駅舎を大きく揺らし、棚がハインツめがけて落ちてきた。


「ぐはっ」


 棚の下敷きになったハインツはそのまま気を失った。




「おい、生きているぞ」


 ハインツが目覚めた時、声が響いた。

 棚が上げられハインツは身体を抱え上げられた。


「怪我した様子はないな」


 町の自警団の人達が銃を持って集まっている。


「襲撃は?」


「既に去ったよ。いまは残敵掃討と生存者の捜索を行っている」


 それだけ言うと、外に出されて治療を受けることになった。

 駅前広場が臨時の治療場となり、負傷者が集められつつあった。

 駅舎は大きく破壊され、屋根が崩落している。ホームや線路の状況も酷そうだ。


「駅長は? 魔術師さんは?」


 他にも上司である駅員の安否を気にしたハインツは尋ねた。


「魔術師を含め三人ほど亡くなったが、残りは生存している。ただ、駅長は」


 自警団員が行ったとき、横たわる駅長を見つけた。


「駅長! 無事ですか」


「……ハインツか」


 駅長はハインツを見つめると安堵した。


「助かってよかった」


「駅長……どうして……助けたんですか」


「獣人だからか? いやお前は部下だからだ」


 駅長はハインツに行った。


「それも明日を担う人材だ。お前は様々な手伝いをしっかりやり、覚えている。そんな人材を失う訳にはいかない。何より鉄道学園への切符を手に入れた。未来有る若者を失う訳にはいかない」


 最後に駅長はにっこりと笑った。


「機関士になれよ」


 それだけ言うと、黙り込んだ。


「駅長!」


「気を失っただけだ」


 ハインツはホッとしたが、直ぐに立ち上がり回りを見た。

 町と駅舎が燃えている。絶対に許す訳にはいかない。


「復讐してやる」


 ハインツは心に誓った。

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