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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第二部 第一章 アクスム総督
122/763

検査

4/21 文章修正

 軽便鉄道建設現場の視察を終えた昭弥は、そのまま王国鉄道アムハラ支店に移った。

 総督となったが社長としての業務を疎かには出来ない。

 総督府に書類を持ってくるように命令することも出来るのだが、公私混同しないように、それに気持ちを切り替えられるように場所を移している。

 机の上に溜まった書類を片付ける。

 まずはアクスム方面の収支報告だ。

 案の定、建設費用の計上で大幅な赤字になっている。

 だが、鉄道の運行を開始したため、収入が入り始めている。

 運行に関しては、運転経費を収入が上回り黒字だ。

 軍への補給物資輸送や交代する部隊の輸送などで収入が入っているが、アクスムからの輸出も増えつつある。

 香辛料やゴムの輸送が増えている。今後も増やして行けばよい。

 本国からも小麦や干し肉、農機具の輸送が多くなりつつある。ゴムのプランテーションの開発や、労働者のための食料を運ぶためだ。

 アクスムの未来は明るい。そう思える数字だった。

 軽便鉄道の建設も順調、標準軌の路線も延びており、沿岸部と内陸部へ向かう路線の建設も予定通り完成しそうだ。

 アクスム出身者、獣人の職員の配属も進んでいる。

 分校での研修終了者が出てきているのだ。短期間の研修で送り出さなければならないのは、心苦しいが内容の濃いものにしてあるので役に立たないものは無いハズだ。

 あとは実地で経験を積んで貰おう。

 そうやって仕事を順調に片づけている時だった。突然、扉が開いた。


「お話しがあります」


 入って来たのは奴隷解放運動家貴族ポーラ・ワトソンだった。


「いきなり入らないで下さい」


「この重大な事案を正すために一秒たりとも無駄に出来ません」


 無礼な上に、口上が長すぎる、まったくどういう人なのだ、と昭弥は呆れたが、彼女の話を聞いて驚いた。


「アクスムで捕らえられた人が奴隷として売られています」


「まさか!」


 あり得ない。

 確かに奴隷として売られていたのは事実だ。だが、先ほど総督として各部族に部族民の住民登録を行うように命令してアクスム州民としての権利を与える事となった。

 帝国市民として認められないが、アクスム内では基本的な人権は守られる。当然奴隷になどなることはない。

 帝国の選挙権がないなど事実上の二級市民だが、法の加護が受けられるようにしたのは大きな前進だと昭弥は確信していた。

 だが、それが無視されている。


「本当なのでしょうか」


「奴隷商は施行日前に捕らえたから問題無いと言っていましたが、保護した彼らに尋ねたら施行日後でした」


 法律が効力を持つのは公布を経て施行日を迎えてからだ。公布して人々に法律の存在を周知させてから、実際に適用するようにしてある。

 悠長だと思われるかも知れないが、いきなり施行してしまうと何の知らせもないまま法律違反をしてしまう可能性もあるからだ。

 そのような事を避けるために公布と施行日を分けている。

 昭弥もきちんと行っており、施行日前の件は処罰出来ないが、施行後に関しては厳しく行っている。だが、施行後の違反が出た事に衝撃を受けた。


「どうやって連れていったんですか?」


 警戒は厳重に行っている。

 沿岸部から連れ出されないようにしているし、チェニス領でも無断で国境を越えないように警戒している。

 数人だったら見落とす可能性もあるが、捕らえた人を連れて行けるほど甘い警備は行っていないはずだ。


「列車で連れてこられたと聞いています」


「まさか……」


 信じられない思いだった。

 鉄道に関しては厳重な検査を行っている。漏れがあると言われて昭弥は茫然自失となった。

 だが、それも一瞬の事で、すぐさま回復すると、セバスチャンの制止も聞かずに部屋を飛び出していた。


 昭弥が向かったのはチェニスだった。

 橋を架けることが出来たのが、チェニス周辺のみだったため、アクスムからルテティアへ行く列車は必ず、チェニスを通る。

 なので列車が使われているのなら、チェニスで調べるのが一番良い。

 昭弥はアクスム側にある操車場をにやって来た。

 ここで積み荷の検査を行い検疫や税関を行っている。

 アクスムから出て行く香辛料は重要な交易品であり、財源となるためかなり厳しく見ている。同時に禁制品の輸出阻止も目的としている。

 捜査に当たるのはアクスム総督府財務当局の職員と鉄道の職員などの混成メンバーだ。


「指揮系統に問題があるのだろうか」


 寄り合い所帯だと手続きのミスや手違いの可能性はあるが、見たところ問題は無かった。

 全ての列車は操車場に入ってくると、直ぐに検査が始められ全車両を確認。終了後、川を渡ってチェニスに運ばれて行く。そして帝国本土や王都、オスティアへ分類されて運ばれて行く。


「何も問題はなさそうなんだけどな」


 見落としや手抜きの様子はなかった。

 視察や監視とは言っていないので、職員は通常通りに動いている。

 次々と到着し、連結され送り出されて行く列車を見て昭弥は一旦、そこを去った。


「どの貨車か分かれば良いんだけど」


 貨車は自社所有のものと、他の会社や商家が所有し鉄道会社が目的地まで運ぶのが通常だ。そのため貨車の数は多い。

 その中から見つけ出すのは大変だ。


「しょうが無い。あんまりやりたくないが、やるしかない」


 昭弥はすぐさま公爵邸に行くと幾つ物命令書を作成し、翌日一斉に送り出すと共に緊急命令を出した。

 簡単に言うと、全貨物列車の一斉検査。

 鉄道公安隊をはじめ、鉄道職員を含めチェニス公爵領、アクスム総督府にいる軍も動員してチェニス周辺の貨物列車の全貨車をすべて検査したのだ。

 結果、チェニス領内を含め複数の貨車から奴隷として売られようとしていた獣人多数を保護した。

 アクスム内のみならずチェニス領内でも見つかったことに昭弥は深い衝撃を受けた。

 あの検査をすり抜けてどうやって運び込んだというのだ。

 事情聴取でも彼女たちは一度車両に入れられてから、外に出ていない。


「どういう事なんだ」


 二重底などを考えたが、彼女たちはいずれも貨車の中の檻に入れられている。人一人を檻に閉じ込めるには結構なスペースが要であり、隠し部屋などは考えにくい。


「犯罪者連中、鉄道を利用して違法行為をするなんて」


 セバスチャンが吐き捨てると、昭弥は一つの事に思い当たった。

 もう一度リストを見ると、チェニスを越えたところで発見された列車は全て後ろの貨車だった。




「出発するぞ」


 機関士が周囲に声と汽笛で伝える。

 一斉捜査のお陰で荷物が止まっている。急いで運んで処理しないと拙い。

 ブレーキを解除して進もうとした時だ。


「おーい」


 後ろの方から声を掛けてきた。


「チェニスに持って行くなら追加の車両も頼みたいんだが」


「ああ、良いぞ。牽引にはまだ余裕がある」


 機関士がそう言うと駅員は、ポイントを切り替えて新たな貨車を小型機関車で押して列車の後ろに取り付けた。

 出発前に追加の貨車が加わることは多い。特に忙しい今の時期は、直前にやって来ることがある。機関士は何の疑問もなく貨車を繋げる作業を受け入れ、連結されるのを待った。


「作業終了」


「よし、出発するぞ」


 報告を聞いて再び出発しようとしたとき


「まて! 動くな!」


 鉄道公安隊が出てきて列車を止めた。


「何ですか」


「これから臨時の検査を行う。出発は待つんだ」


 公安隊員は機関士にそれだけ言うと、部下達に貨物列車、後ろの追加された貨車に向かった。同時に離れようとした駅員も拘束する。

 鍵を開け扉を開くと中には檻に入れられた獣人たちがいた。


「発見しました!」


「直ちに保護しろ」


 現場で一部始終を見ていた昭弥が命じた。


「やーよかった」


 事件が終わったことで昭弥はホッとした。


「しかし、よく分かりましたね列車に追加される貨車に乗せられているって」


「列車単位で検査するけど、検査が終わったらその後は何もしない。追加される貨車まで把握していなかった。それを利用して、検査が終わった貨物列車に奴隷を積んだ貨車を繋げていたのさ」


 鉄道が出来た頃、こういう方法で禁制品を輸送したり密かに国境を移動する人達がいたのだ。

 まず、違法な荷物を積んだ貨車を後ろに繋いでおく。

 そして駅に入ってきて検査員にまともな品物しか積んでいない貨車を見せ合格を貰う。

 検査員が去って行った後、違法な荷物を積んだ貨車を繋げ直して通り過ぎる。

 見つかりそうだが、検査員の数が足りない、見張が少ないなどの理由で監視が十分機能しないことが多いので成功しやすい。

 それに貨物量の増加で貨車の追加が行われる事が多々あるので、怪しまれる事はない。


「検査方法の見直しが必要だな」


 とりあえず今回の件は検査後に特殊なテープで扉を封印して一発で分かるようにしたり、追加の貨車を繋げないように規則で改める事で何とかなるだろう。

 だが、この世界の鉄道は出来たばかりで、色々と不備のある点が多い。昭弥は知識はあるが、実際に問題が起きないと思い出せないことが多い。


「これからもトラブルは多いと思う。協力して欲しい」


「はい、社長」


 昭弥に頼まれセバスチャンは頷いた。

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